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運命の一夜

パーティ当日。


同僚たちとの涙ながらの別れを済ませてから、数時間経った。もう夜はどっぷりと更けていて、頭上には白く輝く月が見える。


主任、もといスノリア様の用意してくださった馬車は、家の近くの森にひっそりと佇んでいた。


「あなたがエルヴァン様ですね。スノリア様からお話は聞いております。目的地まで必ず安全にお送りいたしますので、安心してお待ちください」

「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします」


ご丁寧にお辞儀をして挨拶してくれた御者を見て、緊張で張り詰めた気持ちが少し緩んだ。


このまま馬車に乗って、息を潜めていればきっと遠くへ行ける。こんなにあっさり上手くといくなんて、なんだか不思議な気持ちだ。


御者の手を借りて馬車に乗り上げ、ふかふかの座席に腰を沈めた。


「それでは発車いたします。周囲からの視認を避けるため、窓のカーテンは閉めさせていただきます。ご了承ください」

「はい!大丈夫です!」


僕の返事にニコッと笑った御者さんが、丁寧な手つきでカーテンを閉めた。


この町もこれで見納めだ。すごい森の中だけど。

名残惜しい気持ちで狭くなっていく景色を眺め、光を失った車内で、動き出した馬車に揺られた。




それから僅か10分ほどで何故か馬車が止まった。


「あ、あの…何かあったのですか?まだ町は出てませんよね…?」

「町、ですか?私はエルヴァン様を王城に連れていくようにとスノリア様から申し付けられまして…」

「え?!」


王城だって?そんなはずはない。

スノリア様は別れ際、『町を出ても元気で』と仰った。この御者が聞き間違えたのだろうか。


「あの、僕は町の外に出たくて…」

「そうなのですか?!すみません、私としたことが…あれ?ですがエルヴァン様、あちらに…」


御者が指し示した方向を見ると、こちらに近づいてくるスノリア様がいた。


「スノリア様…?!なんでここに」

「ごめんね、エルヴァン。僕は君を町の外に出すことは出来ない」

「な、なんでですか?!協力してくれるって…!」

「ああ、協力するつもりさ。でもね、君に後悔が残るような作戦に協力するつもりはない」

「…!」


後悔を残さないようになんて、そんなのできっこない。それはスノリア様も分かっているはずだ。だからこそ、代わりに僕の思いをルカ様に伝えると言ってくれたのだと思っていた。


「無理にきまってます…!もういい、僕ひとりで行きますから!」


(最初の作戦に戻っただけだ。今からでも修正可能なはず…)


そう思って踵を返したときには、もう僕は騎士らしき人たちに包囲されてしまっていた。


「っ…!なんでここまでするんですか?!僕はっ…もう傷つきたくないんです!平穏に過ごしたくて…ルカ様にも、迷惑かけたくないんです…」


本当は分かっているんだ。この町から逃げ出したところで、きっとルカ様のことは忘れられないし、涙で枕を濡らすことだってあるだろう。


でも、だからといってどうすればいい?

好きな人との日々は、あんな家にいてでも得たい幸せだと思えるかもしれないけれど、それも最初のうちだけだ。ルカ様だっていつか結婚して、家庭に入るだろう。


そんなことになったら、僕は壊れてしまうかもしれない。そうして優しいルカ様に罪悪感を持たせてしまうかもしれない。


苦しくても良いと思えるほど幸せな恋を、呆気なく壊される日が来る。それが分かっていて受け入れられるほど、僕は強くない。


涙が出そうだ。早くここから居なくなりたいと思った。


「スノリア様が、僕に気づかせたんじゃないですか…こんな気持ち知りたくなかった!」


「エルヴァン、しっかりしろ。君には僕がそんな酷なことをする男に見えるか?」


震えた声で叫んだ僕に、スノリア様の突き刺すような声が響いた。

見上げた先にあったその顔は、凛とした冷たさの裏に優しさを称えたような、そんな顔だった。


「僕はずっとこう言っているんだ。君がこの先一番幸せになれる道の手伝いを、僕にさせて欲しい、と」

「この先…?」

「そうだよ、エルヴァン。君が傷つくような道を、僕が選ばせると思うのかい?」


キリッとした表情を解いたスノリア様の目は、あの薬室でいつも見ていた慈愛に満ちたものだった。

ふんわりと笑う顔を見て、いつもと同じことを思う。


(きっとこの人は、本当に望むようにしてくれる)


参ったなぁ、なんて泣き笑いで言った僕を見て、スノリア様は声を上げて笑った。


「行こうか、君を幸せにするために、ね」

「もう…失敗したら、主任の家に匿ってくださいね!」


ウィンクしながら臭いことを言うスノリア様に冗談を言ってみたりしながら、僕はスノリア様の行く道に続いた。


こうして僕の逃避行は、笑ってしまうほど儚くその幕を閉じたのだった。



◇◇◇



僕はそれから、大人しくスノリア様の後ろをついて歩いていた。


「というか、これどこに向かってるんですか…?」

「ん?そんなの決まってるじゃないか。王城のパーティさ」

「ええええ?!」


軽々と言ってのけたスノリア様を、信じれないという目で見る。


「む、無理ですよぉ!だってあそこには…」

「ご家族がいるんだろう?ふふ、分かってるさ」

「じゃあなんで!」

「大丈夫、必ず全て上手くいくから。私を信じなさい。といっても君のその格好じゃ場違いすぎるから、まず君を飾りつけることからかな」


そう言って、スノリア様はパーティ会場と反対側にある一室へ僕を連れてきた。


蝋燭一つと月明かりのみに照らされた薄暗い部屋の真ん中には、明らかに高そうなスーツがあった。ベージュの生地にオレンジのタイ、そして胸元の琥珀色の宝石のブローチ。部屋の全ての光を集めて散らしているような、キラキラと静かな光りに目を奪われる。


「さぁ、君にはこれを着てもらうよ」


そう言われて、早くも逃げ出したくなった。こんな素敵なもの、僕には勿体なさすぎる。


「す、スノリア様、さすがにこんな高そうなもの受け取れません…!」

「ごめんねエルヴァン、これは僕からのものじゃないんだ。断りを受けるべき相手はここにいない、だからもう着る以外に選択肢は無いよ」

「そんな理不尽な…!」


これを着る以外ない、そう言われて渋々だが従うしかなかった。


「あ、そうだそうだ。最後にこれを飲んでくれ」


そう言って差し出されたのは、小さな錠剤。普通だったら怪しいことこの上ないのだが、王宮薬室の薬剤師長の出す薬だ。怪しいものではないと信じて、一思いに飲み込んだ。


「うん、これでよし。じゃあ行こうか、パーティへ」

「は、はい…」


スノリア様が僕の腕を取って、エスコートするように歩き出した。


スノリア様はこれが僕がいちばん幸せになれる道だと言っていたけれど、今のところそれが何なのかは全く分からない。


そんな不安を抱えながら、僕たちは既に音楽が流れているパーティ会場へ足を踏み入れた。



途端、フワッと香った匂いに体が電撃を受けたかのような衝撃が走った。


「ぁ、え…?」


(すっごくいい匂いがする…頭がふわふわして、何これ…?)


ぼんやりとした頭で匂いの元を辿ろうとしたその時、鋭い声が僕を突き刺した。


「そこの君!」

「へ、ぁ…?ルシアン殿下…?」

「スノリア=エルランド!その腕を離せ、それは僕の番だ!」


(つが、い…?)


ぼんやりと見つめたルシアン殿下は、こちらに来ようと急いでいるようだった。

周囲には、僕とスノリア様、そしてルシアン殿下を見守るように人だかりができて、皆遠巻きに僕らを見ていた。僕らが来る前から分かれてまとまっていたのか、右側に貴族、左側に平民の女性たち、というように綺麗に分かれていて、右側からは冷たい目線、左側からは興奮したような目線が送られていた。


「番ですって…?」

「男の…Ωかしら?なんであんな子が…」

「どういうこと?」


ひそひそとした話し声は纏まって大きくなり、少しずつ冴えてきた頭に重く伸し掛った。


番、ということは、僕のこれは運命の番に出会った時の発情なのか。

抑制剤は飲んでるはずなのに、と考えたところでハッとした。ここに来る前にスノリア様に飲まされた薬。


(スノリア様なんで…僕はルカ様じゃなきゃ嫌なのに!)


僕が困惑している間にも、ルシアン殿下は近づいてきている。


「こ、来ないで、くださ…」


小さく放った声は喧騒に掻き消され、ルシアン殿下は僕の手を取った。


しかし握られた手に恐怖を抱いたのは一瞬だけで、僕はすぐに、この手は僕が求めていたものだと分かった。


「ルカ様…?」

「シッ…いいかい、あとは私とスノリアに合わせるんだ」


(どういうこと…?)


僕の手を取ったのは確実にルシアン殿下だったはずなのに、僕はこの方がルカ様だと確信している。


ルシアン殿下はルカ様だったということ?

いや、本当はその逆?ルカ様は、ルシアン殿下の裏の顔だったということ?


でも、二人は髪の色も目の色も違う。

いつも見ていた栗色の髪は、ルシアン殿下の煌めくような銀髪とは見間違うはずないし、焦げ茶色のはずの瞳は、今は鮮やかなエメラルドだ。


何が何だか全く分からないけれど、でもこの人が僕の運命の人で、ルカ様だっていうことは分かる。


「あぁ、こんなところに私の番がいたなんて…」

「なんと、ルシアン殿下の番が私の部下だったとは!」

「そうだったのか!私も早く王宮薬室に赴くべきだったな」


僕からすれば違和感しかない会話が、目の前の二人によって繰り広げられている。

僕はルシアン殿下(ルカ様の姿だけど)と会ったことがあるし…合わせろって、この演技のような会話に乗れってこと?


「婚約者を見つけるパーティで運命の番に会えるだなんて、なんて幸福なんだ…!」


そう言って涙を流すルシアン殿下。あまりにも綺麗な表情と涙に、嘘だとわかっているのに僕まで感動してきた。周囲の女性が色めき立つ声も聞こえる。


「ルシアン殿下…!僕、嬉しいです!」

「あぁ、愛らしい私の番!貴方の名前を教えてくれ」

「僕はエルヴァンです、ルシアン殿下」

「エルヴァン、名前もなんと愛らしい。父上!私はこのエルヴァンを婚約者に決めたいと思います!」


そう力強く放ったルシアン殿下の言葉に、周囲がどよめき立った。


「なんて素敵なの…!」

「平民から王子の番になるなんて!ドラマチックね…!」

「おめでとう、エルヴァンさん!」


左側からは祝福と歓喜の声が。


「ルシアン殿下の婚約者が平民…!?」

「いくら番だからってそんなの許されるの?」

「無教養な男が王子妃なんて、どうせ途中で投げ出すわよ」


右側からは、批難と侮蔑の声が上がった。


その全ては、玉座で静観しておられた陛下による制止の声でぴたりと止まった。


「静まれ皆の者!…ルシアンよ、そなたは本気で、その者を婚約者にすると言っているのだな?」

「…はい、その通りです」

「うむ。そなたがそう言うのなら、その者を第二王子ルシアン=カスタニエ=グレイシルの婚約者として、今ここに認めよう!」


わぁぁ!と歓声が巻き起こった。

おめでとう、そんな声が聞こえてきたとき、僕は信じられない幸せに胸がいっぱいになった。


見上げたルシアン殿下の顔は、いつもあの薬室で見た笑顔を浮かべている。僕はこの幸せをどうにかルシアン殿下に伝えたくて、手を伸ばした。


その瞬間、嗄れた低い声が焦ったような響きを持って喧騒を裂いた。


「そ、そんなの!許されるわけがなかろう!」


突然の怒号に、その場の全ての人間が振り返る。

僕らを取り巻く形で形成された輪の外れに、声の主は居た。


痩せ細ったその身に合わない豪勢で重そうな服を身につけ、老人らしいよろよろとした足取りで近づいてくるその人は、おそらくこの国の重鎮。彼は焦りと怒りを滲ませた表情で大声を上げた。


「ルシアン殿下!そんな出処もしれない男を婚約者に置くなんて、そのような蛮行、私は許しませぬぞ!」

「…グスタル公爵。私は今、国王である父からお許しをいただいたのだ。父の決定を批難するおつもりか?」

「ぐっ…」


ルシアン殿下の冷静な指摘に、グスタル公爵と呼ばれた老人は怯みを見せた。しかし、公爵の発言を機に最初から不満気だった他の貴族たちも声を上げ始める。


「公爵の仰る通りだわ」

「そのような男を王子妃にするなんてあんまりよ!」


騒がしく僕を非難する声に、ルシアン殿下は眉をひそめた。


「へ、陛下も陛下です!このような下賎な者、王家の血筋を汚すだけだ!」

「ほう…?」


公爵の叫びを聞いて、ルシアン殿下の額に青筋が浮かぶ。今にも立ち上がって詰め寄りそうな勢いだ。


「で、殿下!僕は大丈夫ですから…」

「しかしあんな言い草、あんまりだ!」


そう言ってルシアン殿下が立ち上がろうとしたとき、それを抑えるようにスっと前に出た人影があった。


「いやはや、皆さん好き放題仰りますね。陛下、私からご提案がございます。発言をお許しいただけますか?」


そう朗々と話し出したのは、今僕らの目の前に立ち、流れるような動作で陛下に敬礼したスノリア様だった。


「スノリア=エルランド公か。発言を許そう」

「ありがとうございます。つきましては、エルヴァンを私の生家、エルランド侯爵家へと迎え入れるのはいかがでしょうか?」


(………は?)


顎が外れそうなほど口を開いた間抜け顔で、スノリア様を見つめる。するとその視線に気づいたスノリア様が『任せて』とでも言うように軽くウインクを返してきた。


(いや、いやいやいやいや…どういうこと?)


人生一困惑しているといっても過言ではない。先程の番騒動よりも困惑している。


「…ほう。養子ということか」

「左様でございます。僭越ながら、我がエルランド家であれば、エルヴァンがルシアン殿下の婚約者として立つに充分な後ろ盾となれる、と自負しております」

「たしかに、エルランド侯爵家との縁が出来るのはこちらとしても喜ばしいものだな」


その方向で話がまとまりそうな雰囲気になってきている。


(僕が…侯爵家に?)


信じられない思いと、そんな面倒を請け負ってもいいと思えるほどにスノリア様は僕を想ってくださっているのだという感激が胸を占めた。


「ありがたきお言葉、痛み入ります」


綺麗にお辞儀したスノリア様。これで貴族たちも反対は出来ないだろうと思われたが、そう甘くはなかった。


「いくら身分がそれ相応になったとて、王子妃になれるほどの教養が備わっているはずもありません!どうするのですか!」

「ああ、その事でしたら問題ありません。エルヴァンとは長い間共に仕事をしてきましたが、彼は優れた薬学の知識を独学で得ており、知識面でも人柄の面でも素晴らしい子だと、常々思っておりました」


(しゅ、主任そんなこと思ってたの…?!)


嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちで、刺さる視線から隠れたくなった。


「それに彼は、王宮で働いているうちに知り合った多くの貴族たちから、社交界のマナーや様々な作法を学んでいるのです。下手すれば、甘やかされてきた貴族たちなんかよりよっぽど…あぁすみません、口を滑らせてしまいました」


お茶目に口を塞いだスノリア様は、本当に口を滑らせたようには見えなかった。

そしてその発言を聞いた貴族たちの中には、思い当たる節があるのか息を飲んで顔を赤くした者たちがいた。


「おっほっほ!そうかそうか。そのような者と我が息子が縁を持てるというのなら、それ以上に素晴らしいことはない」


陛下とスノリア様の会話を聞いて、グスタル公爵や他の貴族も終に口を出せなくなっていた。


「さて、他に異を唱える者はいるか!」


辺りを見回せば、陛下の呼びかけに手を上げる者はいないように思われた。


(本当に僕、ルシアン殿下の婚約者になれるんだ)


希望の光が差したような気持ちになった。


しかし僕は忘れていたのだ。何よりも誰よりも、僕のことを陥れようとする人達の存在を。


「エルヴァン…お前ぇぇぇ!!!」

先程の公爵とは比にならないほどの怒りを含んだ叫び声が、聞こえた。


その場にいる全員が呆気にとられ、声の主一人だけが激情をばら蒔いているという不思議な環境が出来上がる。


一方僕は、聞き覚えのありすぎる声に固まっていた。


「なんでお前が、ここにいるんだッ!!!」

「か、義母さん…」


義母がずかずかとこちらへ向かってくる。人々を押しやって出てくる義母の後ろには、慌てて着いてくる義姉たちもいた。


僕を一直線に見つめる瞳に、嫌な汗が吹き出て体中から熱が引く。

今にも僕を害そうとしているのがひしひしと伝わる。動けない僕を守るように、ルシアン殿下が前へ出た。


さすがに王子に不敬を働く勇気はないのか、義母たちはルシアン殿下の目の前で止まった。それでも僕に近づくのを諦めず、必死な様子で殿下に喋りかけた。


「ルシアン様!そこをどいて下さいまし!」

「退くわけがないだろう。貴方は誰だ?」

「わ、私はそのエルヴァンの母ですわ!」


断りもなく話し始め、ましてや命令形。極めつけには、面識もないただの一市民が王子を様付けで呼ぶなんて。


(ふ、不敬の連続すぎる…!)


周囲からも痛い視線が突き刺さり、義母は居心地の悪さに焦りを濃くした。


「そ、そこのエルヴァンはですね!?とんでもないビッチだと市囲では有名なのですわ!とてもじゃありませんが、殿下の婚約者になんてふさわしくないと存じます!」

「そ、そんなことしてな…!」

「そうよそうよ!男を食いまくりだっていうから姉として困ってたのよ!」


もちろん事実無根だ。そんなことするわけがない。

どうしても自分たちの駒を手放したくなくて、王族に嘘をつくという大罪を犯してまで僕を貶めようとしているのだ。


優しくなっていた僕への視線が、また鋭く卑下するものに変わった。

僕は悔しさで涙を滲ませながら、どうしても誤解して欲しくない人に必死で弁明しようとした。


「殿下、僕ほんとにっ…!」

「大丈夫、分かっているよ」


見上げたルシアン殿下は、溢れ出る怒りをその目に宿していた。

僕の言葉に振り返り、安心させるように微笑んでくれたけれど、この状況は想定外だったのか少し眉根を寄せていた。


すると、どよめいていた聴衆の中から一人の女性が出てきた。


「嘘よ。私、エルヴァンさんが殿下の婚約者になりたがってたのを見たもの!」

「あ、あなたは…!」


あの時、このパーティの知らせを見た時に話しかけてきたお姉さんだった。何だか憤慨した様子で義母たちを睨みつけている。


「それに、町でそんな噂聞いたことないわ!市囲で噂になってるって言うけど、あなたの言う市囲ってあなたの家一家分の敷地しかないのではなくて?」


そう言ったお姉さんの言葉に、周りの女性たちも声を上げた。


「私も聞いたことないわよ!」

「そんなに焦って出てきて、口から出任せにも程があるわ」

「自分の息子を貶めようだなんて最低ね!」


段々大きくなっていく非難の声に、義母たちは顔を青くして後退る。

僕が聴衆の先頭に立っているお姉さんに目を向けると、彼女は満足そうな顔で僕に笑いかけた。


(ありがとう、お姉さん…!)


外に出てみれば、僕の周りはこんなにも温かい人達で溢れていた。気付かずに取り零すところだった物が今は沢山目の前にあって、胸がいっぱいになった。


涙を流す僕を見てその涙を拭ったあと、ルシアン殿下は立ち上がった。


「さて、エルヴァンの母君と姉君たちよ。私と、この場にいる全員を謀ろうとした罪…何より、未来の王子妃を貶めようとした罪は、重いぞ」

「「「ひっ!」」」

「衛兵、この者たちを地下へ!」


その掛け声に応えて出てきた衛兵たちに、義母たちはあっという間に連れていかれてしまった。

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