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命を救ってくれた最(かわ激)強少女に弟子入りしたんだけど、師匠が意外と常識人で助かる

作者: もにーる
掲載日:2026/01/20

タイトルを変更しました。


 俺の名前は小野上おのうえ 樹生いつき。ちょっと特殊な学校に通う高等部の一年生。


 特殊な学校っていうのは、何ていうか…特別な力を持った人達が集められた学校って感じで、中高一貫校になってる。

 この学校の生徒は全員『神気しんき』っていう力を持ってて、『神気持ち』って呼ばれてる。小学校からこの系統校に通ってたって人もいるけど、ほとんどの生徒は中学進学時に全国から集められてて、普通の授業とは別に神気について学んでる。

 特殊さを別の言い方で表せば…異常待遇。

 学費、食費、寮費に水道光熱費まで、学生として生活する為の諸々を国が負担してくれてて無料。

 ヤバいだろ?


 学校の名前は陰陽おんみょう学校。全国に五校あり、第一陰陽学校から第五陰陽学校まで存在する。生徒どころか学校の存在ごと世間から秘匿されてるから、山奥とか島とかに建ってたりするけどね。同じ観点から、全員寮生活だ。

 神気を扱えるという特異な人間を集めてる割に生徒の数は多く、一校で800人前後が在籍してる。

 ちなみに、俺が通ってるのは四国にある第三陰陽学校だ。


 この学校の目的は、…鬼と呼ばれる存在と戦える人材を育てること。

 神気を操って肉体を強化したり、特殊能力…魔法みたいな力を発現出来るようにする訓練が行われてる。実際に、授業として鬼の世界…『裏界りかい』って場所で鬼と戦ったこともある。

 そんな俺達の最終目的は、世界が滅ぶという予言…『終焉の日』を乗り越えること。…なんだけど、予言を信じてる人はかなり少なくて、単純に鬼の討伐の為に鍛えてるって人が多いのが現状。

 俺は信じてるけどね?予言。


 鬼の存在は俺達以上に秘匿されてて、相手が関係者じゃなければ、友達どころか親や兄弟にも伝えちゃいけない。もし世間に広まると、鬼が裏界から表に出てきてしまうから。…鬼の存在を知った人に被害が出てしまうから。

 過去にそんな出来事があったと授業で習った。


 学校卒業後には、陰陽課っていう警察の組織の一員として…密かに地球を守っていくことになる。

 裏界で鬼を倒したり、後衛としてサポートしたり。表でも、難解事件の解決に協力したり、凶悪犯を制圧したり。おばけとか幽霊みたいな騒ぎも陰陽課の担当だ。

 そんな陰のヒーロー的な活動をしていくことになる。


 陰陽課の中で、高い戦闘能力や優れた特殊能力を持った上位の強者は、『ナンバーズ』って呼ばれてる。強者に与えられる称号ってとこ。

 そんな『ナンバーズ』に選ばれるのが俺の夢だ。










 …そう思って頑張ってきたんだけど、


「「ギャギャ!」」

「ガウッ!」

「はぁ…、はぁ…。っくそおおおおぉぉ!! っ、ゲホッゲホッ」

「ブモオオォォ!」

「ぐあぁっ!? っ…くっ…」


 俺は夢に届かないまま、その生を終えようとしていた。


 場所は裏界。周りには多くの鬼。

 足の骨は折れ、胸は痛み、頭からは出血。

 たった今、デカいこん棒のフルスイングで吹っ飛ばされた。


 立ち上がろうとする気持ちに体が応えてくれず、緊張の糸が切れ、目がかすんでいく。


「はぁ…はぁ…」

「「ギャギャ!!」」

「ブモオオオォォ!」

(俺…こで…のか…、なん…為に…)


 不鮮明な視界と音が、鬼の接近を伝える。


 俺が意識を失う直前、最後に聞いたのは…


「──!?」

「「──!──!?」」

「──…、──…」


 鬼の断末魔。

 そして、最後に見たのは…


「───、──」

(…あぁ、こん…所にも…、天…使………迎…)


 地獄に舞い降りた天使の姿だった。



 あの日から約1年が経った、1992年7月上旬。


「なぁ、いいだろ? 遊びに行こうぜ?」

「行かないっつってんでしょ」


 学校帰り、大通りにあるパチンコ屋とゲーセンの間…路地裏から声が聞こえた。

 チラッと目を向けると、茶髪ウェーブのヤンチャそうな女子学生1人と、筋肉タンクトップを含むガラの悪そうな20歳くらいの男3人の姿。


「絶対楽しいって。騙されたと思ってついてきてみ?」

「それ、騙されるパターンだから。楽しいならあんた達3人で遊んできなよ」

「そんな派手な髪してんだ、遊び慣れてんだろ? なんで俺達の誘いは断るんだよ」

「これは地毛。そしてあんた達は怪しい。何より、あたしは用事があるの。ほっといて」


 ナンパの失敗現場っぽい。男3人に対して、女性はとても強気だった。


 …ただ、微かに震えてもいた。本当は怖いんだと思う。


「この女ぁ…こっちが優しくしてりゃ…。おい、無理矢理車に乗せちまえ」


 1人と3人の話は折り合いがつかず、男達は女性に襲いかかった。


「なっ!? 触んな! やめっ!誰ングッ!?」

「へっ、そうはさせねーよ」

「ンンーーッ!!」

「誰かに見つかる前にさっさと連れてくぞ」

「それは誘拐でしょう? 止めた方がいいですよ?」

「「「!?」」」


 さすがに見過ごせず、俺は路地裏に入りながら声を掛けた。


「だ、誰だお前は!」

「通りすがりの者です」

「ン、ンンーッ!」


 …女性の雰囲気からすると、「助けて」じゃなくて「逃げて」って言ってるように感じられる。

 見た目でヤンチャそうとか判断しちゃってたけど、実はいい人なんだろう。


「驚かせやがって。その制服、この女と同じ西高か。同級生を助けに来たってとこだろ」

「確かに西高ですけど、その人とは初めましてですね。多分先輩ですし」

「へっ、チビ後輩がヒーロー気取りか?」


 割と平均的な身長だと思うんだけどな…。筋肉さんがでかすぎるだけじゃない?


「チビとかヒーローとかはどうでもいいんで、その人を放してあげてください」

「おうおう、勇敢だなぁ。勇敢なまま、ここで伸びてろ!」


 筋肉さんが殴りかかってきた。狙いは顔面、力頼りの攻撃。正面から受ければ、体格差から吹っ飛ばされるのは確実。

 なので俺は、


「…ふっ!」


 その拳を受け止めた。…ように見せた。一歩下がってから、掌底を合わせる形で。パン!といい音がした。


「な…ぐああああぁぁ!?」


 迫り来る拳に対し、下がりながら掌底を合わせると、一見受け止めたように…小細工をしたように見える。

 殴りかかってきた筋肉さんにも俺が下がったのが見えてたはずだから、一瞬「な…」とか声が出たんだろう。


 まぁ、その後はそれどころじゃなくなって叫んでたけどね。中手骨(手のひらの骨)か基節骨(指の骨)が折れたっぽい感触がしたし。

 それに、こうしなかったら…もっと大きな怪我をさせてたかもしれないし。


「ヨシくん!? てっめぇ!」


 筋肉さんの状況を見て、別の男…金髪ピアスさんが襲いかかってきた。ポケットから…バタフライナイフだっけ? それを取り出してクルクル回し、刃を出すと…振り上げながら走ってきた。


「〇ねやぁ!」


 会って1分も経ってないのに物騒過ぎる。

 もちろん〇ねないので、肩にかけてた鞄をその場に置いて、


「オラァ! へ…うおっ!? アガッ!?」


 ちょっと力を高めて対応させてもらった。

 ナイフが振り下ろされると同時に、俺は金髪さんの懐に入り込み、腕を掴んで一本背負い。金髪さんの勢いもあって高速回転だった。

 地面に叩き付けた後は、すぐにナイフを奪い取り、…クルクル出来ないので普通に刃を収めた。


 あの場所や前の学校に比べれば、この程度どうってことない。


「う、動くな! この女がどうなってもいいのか!?」


 最後の1人、長髪男が女性を盾にとって脅してきた。


「…逆に聞きますが、この2人がどうなってもよろしいので?」

「………は?」

「ご覧の通り、ナイフは俺が持ってます。刃が出てない状態でも十分武器になります。あなたの選択次第で、2人の内どちらかが重症を負うでしょう。口の中や目なんて鍛えられないですしね。仲間が視力や声を失ってもいいんですか?」

「そ、そんな脅し…通用…」


 めっちゃ通用してんじゃん。


「あと、背後を警戒しなさ過ぎですよ?」

「え…」


 俺が視線をずらしながら指摘すると、長髪さんはバッと後ろを振り返り…


「だ、誰もいガベッ!?」


 油断しながら向き直った所で俺に蹴り飛ばされた。飛び蹴りが顔面にクリーンヒットだった。


「わっ」

「おっと、大丈夫ですか?」


 長髪さんに掴まれてたせいで女性がバランスを崩しかけたけど、俺が手を掴んだことで倒れずに済んだ。


「あ、あの…」

「手荒い救出になってすみませんでした。怪我はありませんか?」

「う、うん。あり…がと…」

「どういたしまして。後のことは俺がやっておきますので、気を付けて帰ってくださいね」


 俺は女性から手を離し、男3人を──


「あの!」

「はい?」

「あ、あの…、名前を聞いても…いい? あたしは3年の遠藤えんどう 香奈かな


 あ~…、ちょっとマズいな…どうしよ…。


「…遠藤先輩ですね。俺は2年の神田・・ 樹生です。最近西高に編入してきました」

「神田…樹生くん…」

「…先輩、さっき用事があるって言ってませんでした? 時間大丈夫です?」

「え? …あ! ご、ごめん! 本当にありがと! 今度ちゃんとお礼させて!それじゃ!」

「お礼なん…はっや~」


 遠藤先輩は猛スピードで走り去っていった。よっぽど大事な用事があったんだと思う。


「さてと…」

「お前、俺達にこんなことして、ただで済むと思うなよ」


 行動を起こそうとしたところで、俺に一本背負いされた金髪さんが話しかけてきた。俺と遠藤先輩が話してる間に少し回復したんだろう。

 残り2人も俺に視線を向けてる。


「…その言葉、そっくりそのままお返ししておきます」

「なんだと?」

「もし何かする気なら、相応の覚悟をしとけってことです。分かります? あ~、頭悪そうだし分からないですよね? 次はこの程度じゃ済まない大怪我になるってことです。泣いても知りませんよ?」


 俺は3人を見回しながら、盛大に…馬鹿にするように煽った。

 煽った理由は、3人の苛立ちを俺に向けさせる為だ。


 さっき、遠藤先輩は名乗ってしまった。この3人にもフルネームを聞かれてたと思う。

 そうなると、この人達が遠藤先輩を狙う可能性がある。学校に乗り込むとか家を特定するとか、何をするかは分からないけど…絶対厄介事になる。

 だから俺も名乗った。盛大に煽った。

 彼等が俺だけを標的にするように。


「ガキが…」

「調子に乗りやがって」

「お前〇んだぞ」


 3人が青筋を浮かべながら立ち上がり、俺を睨みつける。どうやら俺の企みは上手くいったらしい。


 間もなく…第二ラウンドが始まった。










 …始まったんだけど、


「うっ…ぉ…ぅぇ…」

「俺の…俺の指が…」

「がっ…ぁ…」


 1分後には終わった。1人はお腹を押さえながら嘔吐(えず)いてて、1人は右手の指が折れたり脱臼したりしてて、1人は手で鼻を押さえながら鼻血をダラダラ流してる。


「今度また悪さしてるの見かけたら、この倍はお仕置きしますので」


 ちゃんと釘を刺し、その後は交番に向かって、


「ゲーセンの隣の方で倒れてる人がいました。誘拐とか聞こえて…」


 簡単に状況だけ伝えて帰らせてもらった。

 …ように見せて、陰からこっそり捕まる所を確認してから帰った。


 本来なら、お巡りさんにしっかり話を伝えたり同行して見届けたりするべきだったんだけど、詳しい説明を求められたら困る。俺の事情とか詳しく話せない。

 それに、お巡りさんと一緒にいるとこを誰かに見られでもしたら…学校で何か言われるかもしれない。転校生ヤベェ奴?って話になるかもしれない。

 そんな面倒を回避したってわけ。


 ただ、家には俺の事情を知ってる人がいるから、そっちには全部伝えるつもり。

 …彼等にとっては、警察のお世話になってた方がマシだった、って目に遭うことになるかもしれないけど。悪人には容赦ないからな~あの人。


 彼等がどうなるかは今後の彼等次第だ。



 翌日。


 朝は美代みよ(幼馴染)とバッタリ会って一緒に登校し、普通に授業を受けた。

 俺が今の…この西高に通ってるのは、美代のお陰ってところが大きい。再会したのは小学校以来だったけど、昔と変わらず接してくれた。それで前向きになれた。…多少時間はかかったけどね。


 昼には遠藤先輩が教室に来て、…「神田くん」って呼ばれたから本来の小野上って苗字を伝えておいた。丁度良かったから昨日の事の口止めもさせてもらった。昨日急いでいた理由…保育園に妹を迎えに行くところだったっていう理由を教えてもらったりもした。

 その後は、…なんだかんだあって遠藤先輩と美代と一緒に飯を食った。…ただ、なんかちょっと…かなり…空気が重かった。笑顔で初めましての握手をする2人が怖かった。


 昼飯の後は午後の授業。体育で大活躍する…なんてことはなく、無難に生徒の1人として過ごした。

 本気なんて出したら、悪目立ちどころじゃ済まなくなっちゃうからね。


 放課後には、お昼の『神田くん事件』で若干イジられた。クラスメイトとの距離が少し縮まった気がした。


 帰り道では、…昨日みたいな事は起こらず、無事家に着いた。


 概ね平穏な1日だった。



 …だったんだけど、


「電話? …はい神田です」


 家にかかってきた一本の電話によって、平穏は不穏へと変わってしまった。


『よぉ樹生くん。誰か分かるよな? ちょっとツラ貸せや』

「………」


 昨日の3人の内の1人、金髪さんの声。あの時聞いてた俺の名前から住所を調べて電話してきたんだろうな。


 遠藤先輩に名乗った時、神田姓を使ったのは保険だった。小野上と名乗ると、両親や弟妹が標的にされると思ったから。

 この家が『神田』名義だからって理由もあるけどね。


 それはそれとして…何で金髪さんが? お巡りさんに捕まってたはずだけど…すぐ解放された?

 分からないけど、どうやら全然懲りてないみたい、ってことだけは分かった。


『断ってもいいぜ? その時は、昨日の女がどうなるか分かんねーがな?』


 …昨日の女っていうのは遠藤先輩のことで間違いない。これから何かするつもりなのか、既に捕まっちゃってるか…。


 最悪を想定して動くべきだな。


「なるほど。じゃあ断らない方が良さそうですね」

『…妙に落ち着いてんのが気に入らねーが、そーゆーこった。南町のボーリング場だった廃墟、分かるよな? そこに1人で来い』

「分か(ツー、ツー、ツー)…切るの早っ。さて…」


 俺が返事をする前に電話が切られたのは別にいいとして、これからどうするか…。


「まぁ、第一に何をするかは決まってるんだけど」


 あえて口に出し、受話器を戻すと、ある部屋の前まで行き、扉をノックした。


「は~い」

「俺だけど、今いい?」

「樹生さん? どうぞ~」(チリン)


 チリンという鈴の音とともに許可をもらい、扉を開けて中に入る。

 そこには、机に向かって作業をしていた手を止め、こちらに顔を向けている女性…いや、少女の姿があった。


 見た目の年齢は10歳くらい。…自称10歳だけどね? 実年齢は俺より上じゃないかと予想してる。

 服装は黒いハーフパンツにピンクのポロシャツ。手首には紐のブレスレット、首には黒いチョーカー。眼鏡をかけてて、頭にはトレードマークのかんざしを挿してる。

 普通に日本語を喋ってたけど、青い瞳と輝くような白い髪をしてて、外見に日本人的要素は全く無い。強いて言えば簪が和の雰囲気を出してるくらい。


 そして…めちゃくちゃ可愛い。子役モデルとして雑誌に載ってそう…というレベルを超えて可愛い。今でも天使と思ってしまうくら…ゲフンゲフン。


「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと話があってね」


 この少女の名前はポテコ。ポテコ・ドラグニル。


「昨日伝えた誘拐未遂の件。犯人は反省してなかったみたいだよ」


 同居人で、異世界(?)出身で、俺の事情を知ってて、俺が信頼を寄せてる人。

 そして、あの日…俺を助けてくれた命の恩人であり、


「…なるほど、出掛ける必要がありそうですね。情報の共有は移動しながらしましょう」

「了解」


 俺の師匠だ。



 日が傾き始めた頃、俺は金髪さんに指定された廃墟に到着した。


 かつてボーリング場だったこの建物内に、50人を超える不良達の姿が見て取れる。

 電気が止まってるため、辺りを照らす用に懐中電灯やランタンが机に置かれてる。

 雑誌に空き缶、鉄アレイにバット、マットレスにソファ、おそらく彼等が持ち込んだであろう物があちこちにある。


 ある意味理想的な不良の溜まり場だった。


「よぉ、本当に1人で来たのかよ」


 そう話し掛けてきたのは金髪さん。筋肉さん(右手を吊ってる)と長髪さん(マスクをしてる)の姿もある。


「………」


 金髪さんの言葉には答えず、視線を広く巡らせる。

 すると、不良達の後ろの方に、手足を縛られて口にガムテープを貼られた遠藤先輩の姿を見つけた。…多分だけど、泣いてるように見える。

 その隣には、同じく手足と口を封じられて転がってる…3~4歳くらいの小さな女の子の姿があった。眠らされてるのかもしれない。


(…おそらく、遠藤先輩の妹さん。家族が誘拐されて遠藤先輩は従わざるを得なかった、ってところか)


 そう考えながら、同時に昨日の…師匠であるポテコに誘拐未遂事件を伝えた時のことが頭に浮かんだ。


『悪人っていうのは、そう簡単に改心したりしません。どうにかしてやり返そうって考えがまず先にきます。最悪、手段を選ばず復讐しようなんて考えるかもしれません。…まぁ、捕まったならそんなに心配いらないでしょうけど。お仕置きに関しても、ここから私が何かするのはやり過ぎになっちゃいますし、様子見ですね』

『そっか…』

『えぇ。…誘拐を阻止されて痛い目まで見た3人。その3人がこの機会に改心してくれれば、話はこれで終わりなんですけどね~』

『もし…改心しなかったら…』

『その時には私を頼ってください。私は弟子に頼られるのが嬉しい系の師匠ですから。同時に、悪を絶対に許さない系の師匠でもありますけど』


 結局、彼等は改心しなかった。昨日の今日だというのに、俺への仕返しの為に大勢集まって、人質をとるなんて事までやってしまってる。


 師匠の言う通りだった。『どうにかしてやり返そう』、『手段を選ばず復讐しよう』。この人達にとってはそれが普通なんだ。


 俺には、この状況から遠藤先輩と女の子を無事に救う手段が無い。師匠に比べて、何もかもが未熟。



 だから今は…師匠に頼らせてもらう。


「お前らのグループ、これで全員か?」

「…は? なにお前、そんな強気でいいわけ? まず俺達3人に謝罪すんのが先だろ? あの2人がどうなっても知らねーよ?」


 金髪さんはそう言いながら、遠藤先輩がいる方へ視線を向けた。


 そこには…ちょっと場違いな、天井まで届く太い岩の柱があった。


「…うん? ………うん?」


 金髪さんは状況を理解出来なかったらしい。他の人達も「は?」とか「え?」とか言ってる。遠藤先輩が柱になった、とでも考えてるのかもしれない。

 まぁ、柱が出来上がっていく様子を見てた俺でも、「なんじゃそりゃ」って言いたくなるレベルだったけど。


 あの柱は師匠の特殊能力…ではなく、魔術・・によって作られたもの。被害者を保護する為にと計画してた手段の1つ。

 師匠は、姿を消す術を使い、俺と一緒にこの建物に入り、誰にも気付かれないままこっそり行動してたってわけ。

 柱の内側は筒状になってるはずで、遠藤先輩と女の子はそこに居るはずで、師匠はその柱の近くに居るはずだ。


 師匠のお陰で、俺は安心して力を振るえる。


「俺、言ったよな? 次悪さしたら、倍お仕置きするって」

「こ、この人数差だぞ? お前が勝てるわけねーだろ」

「なら試そうか。…フッ!」

「イギッ!? ぐああああぁぁ!? 足がああああぁぁ!?」


 俺は金髪さんに急接近し、左の下腿三頭筋ふくらはぎを蹴った。金髪さんはその場に倒れ込み、蹴られた足を押さえて悶絶してた。

 当然っちゃ当然だけどね? 力を高めて蹴ったから、筋肉や腱に大ダメージを受けただろうし。…骨にヒビが入った可能性もある。


 周りの反応は「え? なんでそんなに痛がってんの?」って感じ。見た目は痛くなさそうだからね~これ。


「まず1人」


 俺がそう言いながら見回すと、


「っ! やっちまえ!」


 誰かが声を上げ、本格的に戦いが始まった。












 …いや、一方的な蹂躙って言った方がいいかもしれない。


「なんなんだこいつは! 人の動きじゃねぇ!」

「あいつ、バットを腕で受け止めて、なんで平気な顔してんだ…?」

「それもだが、人間ってあんなに速く動けんのか…?」

「バケモンかよ…」

「特殊な訓練を受けてるだけの人間だよ」

「「ああぁ!ああああぁぁ!」」


 俺は攻撃を受け止めたり躱したりしながら、お返しに蹴りを入れていった。耐えた人や避けた人には、二発目や逆足への蹴りをお見舞いした。蹴られた全員が足を押さえて悶絶してた。


 この蹴り方を教えてくれたのは師匠。実演での指導だった。…当時は俺も悶絶した。


 …痛さを知ってるから、悶絶してる人たちを見ると俺まで痛い気がしてくる。


「おい!何してんだ! 早く扉開けろボケ!」

「開かねーんだよ! 見て分かんねーのかアホ!」

「どっちでもいいから早くしろ! 逃げらんねーだろーが!」

「誰だ!扉閉めたバカは!」

「喧嘩売っといて逃げるとか、ダサ過ぎでしょ」

「「「来たああぁぁ!?」」」


 廃墟の扉が開かなくて困ってた不良も、全員蹴っておいた。


 ちなみに、扉が開かなくなってたのも作戦通り。師匠の仕業。何をどうしてるのかは分からないけどね。



 結局、戦いは10分足らずで終わった。不良達は全員倒れてて、足を押さえてたりうめき声を上げてたりしてる。


 あの3人にはきっちり倍のお仕置きをしておいた。

 金髪さんは、痛む足より腹を押さえてオエオエ言いつつ…出てた。

 筋肉さんは、吊ってなかった逆の手まで握り潰されて…震えてた。

 長髪さんは、鼻が折れて鼻血の池を作りながら…めっちゃ泣いてた。


(お疲れ様でした)

(っ!? …慣れてはきたけど、やっぱりまだ驚いちゃうよ)


 この念話みたいなのも師匠の力の1つ。頭の中に声が響いて聞こえる感じで、会話も可能。

 ほんと、なんでも出来ちゃうんだよな~この人…。


 ちなみに、師匠のいた世界には『ジャポネス語』って言語があって、これが日本語とほぼ一緒らしい。なので師匠の日本語は、正確には『ジャポネス語を話してる』って事になる。

 そのお陰で日本語が流暢っていうか…会話には苦労してないってわけ。


 …別の世界で日本とほぼ同じ言語が使われてるなんて、偶然にしては出来過ぎって思えるけど、実際そうなんだから信じるしかないんだよね。


(あはは、ごめんなさい。後のことは私が引き受けます。樹生さんは2人を家まで送ってあげてください)

(任せちゃっていいの?)

(いいよ~)


 めっちゃ軽い言い方。


(許しちゃいけない人も混ざってるからね)


 …声色がめっちゃ怖い。落差激しいのやめて。悪を絶対許さない系の師匠が出ちゃってるから。


(とにかく、2人をお願いします。お姫様達を送り届けるのは王子様の役目でしょう?)

(王子様って…)


 師匠を見た目相応の年齢に見れないのには、こーゆーとこも含まれてるんだよな~。


(ふふっ。ほら、『ロックウォール』の一部を崩すので、行ってあげてください)

(…了解。師匠、サポートありがとうございました)

(どういたしまして)


 そんな話の後、俺は柱に近付いていった。


 手を伸ばせば触れるくらいの距離まで近付くと、柱の一部が崩れて中が見えるようになった。


「ンー! ンンー!」

「………、っ!? ん、んんーん」


 女の子は目を覚ましたみたいで、泣いちゃってた。遠藤先輩は俺の顔を見て驚いた後、女の子を落ち着かせようとしてた。

 この人数差で勝つなんて、普通はあり得ないからね。驚くのも無理は…いや、驚いたのはこの柱に対して?

 …無事に助けられたからどっちでもいいか。


「もう大丈夫です。今(ほど)きますね」


 俺はまず遠藤先輩の拘束を解き、遠藤先輩が女の子の拘束を解いた。


「うわあああああん!!」

「怖かったよね、巻き込んじゃってごめんね、もう大丈夫だよ杏奈」


 女の子が遠藤先輩に抱き付き、遠藤先輩は女の子を受け入れ、その頭を撫でた。


「とりあえずここを出ましょう。こんな場所じゃ安心出来ませんからね」


 そう提案し、俺は遠藤先輩と杏奈ちゃんを連れてボーリング場を後にした。



 遠藤先輩と杏奈ちゃんを家に送る道中、ボーリング場で倒れていた人達について、杏奈ちゃんに少しだけ説明した。俺は『正義のヒーロー(見習い)』って設定で、悪者を退治したって伝えた。…遠藤先輩は察してくれたみたいで、話を合わせてくれてた。お陰(?)で、杏奈ちゃんに…結構懐かれた。


 元気になった杏奈ちゃんから、…「お姉ちゃんの名前は香奈だよ!」って訂正させられて、…先輩からも推されて、「遠藤先輩」から「香奈先輩」って呼ぶことになった。…逆に俺は、先輩から「樹生くん」って呼ばれるようになった。


 そんなやり取りをしながら2人を無事に送り届け、俺は家に帰っていった。












 …その翌日から、美代と香奈先輩が…仲良くなった気がする。そして、3人でご飯を食べる時の物理的な距離が縮んだ気がする。クラスメイトからは「手懐けたか…しかも2人も…」と、前にも増して揶揄われてる。


 …鈍いつもりはないけど、今そういうのには応えられないので、気付かないフリをした。…勘違いだったら超恥ずかしいけど。


 …そんな事も考えられない未来になってた可能性は十分あったわけで、杏奈ちゃんも笑顔を失ってた可能性は十分あったわけで、改めて香奈先輩と杏奈ちゃんを助けられて良かったって思った。



 あれから3日後の週末の朝。

 リビングには、


「………」


 ニュースを見ている師匠の姿があった。


『──これまでに発表された隠蔽の数は50件に(のぼ)り、警察が裏付けを進めています。船田さん、どう見られますか?』

『私が注目しているのは、父親の竹下議員ですね。権力のある親が息子の悪事を揉み消すなんてのは無い話じゃありませんが、これだけの件数が揉み消されていたというのはやはり異常です。ただ、対応の速さから見るに、竹下議員も心のどこかで「公になってほしい」「見つかってほしい」という思いがあったのではないでしょうか。最初の選択を誤ったせいで、ずるずると隠蔽が続いてしまった。どうにかしたかったけど出来なかった、そんな苦悩があったのだと、私はそう思います』

『ありがとうございました。この件によって、父親の竹下 陽史氏は議会に辞表を提出。午後からは会見が予定されており、逮捕された息子の達雄容疑者についても言及があると思われます。以上、ニュースでした。次は特集です、藤堂さ~ん』

『は~い! 今日の特集は、巷で話題の大予言! 世紀末が近付き、より注目度が増しているあの噂! 何のことか、皆さんお分かりですよね? そう! 恐怖の大王が空からやってくるという、ノストラ──』

(金髪さん、父親が議員さんだったのか…)


 テレビに知ってる顔写真が出て、…あの一件が大事になっててちょっとだけ驚いた。…師匠の仕事の速さにはもっと驚かされるけど。


「あ、おはようございます樹生さん」

「おはようポテコ。大きな話になってるみたいだね」

「ですね~。まぁ、あの時あそこに居なかった他のメンバーも捕まってるので、またちょっかいを出されるとか復讐されるみたいな事は起きませんが。数年後には、あのグループにいた大多数が真っ当な人間として社会に復帰するだろう、ってちよ様が言ってましたよ」

「曾婆ちゃん…と言うより、陰陽課が絡んでるなら安心だね」

「ですね」


 大多数ってことは、社会復帰させてもらえないレベルの悪人もいたんだろうな。

 ポテコに返事をしながらそんなことを思った。


 ちなみに、ポテコが言ってた『ちよ様』っていうのは俺の曾婆ちゃん。神田 ちよ。

 そして、この家は曾婆ちゃんが所有してる建物。だから『神田』登記になってる。

 で、住んでるのは俺とポテコだけ。

 母さんと妹と弟は実家で生活してて、父さんは単身赴任中。

 父さんと母さんは俺の力の事を知ってる。…知ってるというか、2人も神気持ちなんだけどね。弟と妹は一般人だ。


「それじゃ、ご飯にしましょうか」

「手伝うよ」

「おお、ありがとうございます」


 俺とポテコは話を切り上げ、朝食の準備に取り掛かった。



 今更だけど、俺とポテコの会話はちょっと変わってる。


 本来なら、教えを乞う立場として師匠に敬語で接したい。名前を呼ぶのも「ポテコさん」と呼ぶべきだと思ってる。…思ってるというか、最初のうちはそうしてた。

 でも、そうすると見た目が子どもの師匠に『さん付け』して敬語を使う俺の姿が、事情を知らない周りからは変に見えてしまう。なのでこうなってるってわけ。


 使い分けてるといつかボロが出るだろうし、それなら最初から口調も呼び方も一貫しておこう。そういう話。

 言い出しっぺはポテコだ。


 …まぁ、言い出しっぺのわりに修業の時は師匠っぽい口調になったりするけどね。


「「いただきます」」


 食卓に並んだ料理に手を合わせ、食事をしながら今日の予定についてポテコに聞いてみた。


「今日は何をする予定なの? 地下で組手か、それとも外で体力作りか」


 俺は毎週末、何かしらのトレーニングをしてる。日課ならぬ週課だ。


「今週はあんな事がありましたし、軽めにするか休みにするかって考え中です」

「ん~、何かしてないと不安というか…。むしろ、ああいうのに直面したから、より力を得たいって思ってるくらいで…」

「なるほど…。じゃぁその想いに応えましょうかね」

「えっと…。やる気満々になってない?ポテコ」

「そろそろ修業の段階を1つ上げようとも思ってましたから」

「そ、そうなんだ…」

「やっぱり止めておきます?」

「…男に二言はない」

「あはは、了解です」


 そんな話の後、


「「ごちそうさまでした」」


 ご飯を食べ終えた俺とポテコは、地下室へ向かった。




 家の地下室。飾り気の全く無い、結構広めのトレーニングルーム。端の方にはランニングマシーンや鉄アレイなんかが置かれてる。


 この部屋の真ん中で、俺はポテコと向かい合っている。



 ポテコ・ドラグニル。

 こことは違う世界、異世界マギカネリアからやってきた少女。

 人と…()()()()()()からやってきた少女。


「では組手を行いましょう。いつでもどうぞ、全力で」

「ぜ…全力…」


 俺はあの頃より強くなった。その自覚はある。

 あの頃と今を比べたら、…最近のアニメで例えるなら、界〇拳と超サ〇ヤ人くらい違う。…多分。


 そんな力を全力でなんて、さすがに…。


「(コクッ)、私は最強系の師匠ですからね」


 頷き、そう言うポテコ。…いや、師匠。

 その表情と言葉に、俺は無理矢理納得させられる。


「…いきます。っ!」


 俺は全力を出して師匠に向かっていった。


 ………

 ……

 …


「はぁっ、はぁっ、動き、全然、見えなかった、はぁっ、はぁっ」

「でも、ちゃんと対応出来てましたよ?」


 結果は完敗だった。全力で挑ませてもらって、手も足も出なかった。

 息さえ切れてない。心配なんて全然いらなかった。めっちゃ強かった。


 勝てそうって思えるのに全然届かないという違和感。

 どれだけ強くなっても追いつけそうにない…どころか、自分が強くなるほど師匠が遠くなっていく感覚。


 師匠マジ師匠。


「今の樹生さんなら、中層の鬼相手でも充分戦えると思います。大猪型が相手でも余裕で倒せるでしょう」


 心の奥の方で重い何かが小さく揺れる。


「まぁ…ポテコが出来るって言うんなら出来るのかもしれないけど…」


 それを表に出さないよう、気楽な感じで答えた。


「…大丈夫、君は強くなってるよ」


 ポテコの…いや、ポテコさんの師匠モードだ。


「陰陽課のエース、ナンバーズ。樹生くんが今まで望んでいた場所が全てじゃない。君はそれ以上の場所に行ける。君はあの頃より強くなった。そして、まだまだ強くなれる。私がついてるんだから」

「師匠…」

「強くなって強くなって、恐怖の大王なんてパパっとやっつけちゃおう。大王が反則級に強かったとしても、私がいるから心配なし! 泥船に乗った気持ちで修業に励んじゃって」

「…ふふっ。泥船だと沈んじゃうんで、大船に乗り換えてください師匠」

「お…あれ? あはは、間違えちゃった」


 ポテコって、たまにこういう言い間違いをするんだけど、…毎回思う、和ませる為にわざと間違えてるんじゃないかって。…聞けないけどね。


「…師匠、もう一戦お願いしていいですか?」

「もちろん! 早速やる気満々だね」

「あはは、俺は師匠に追いつきたい系の弟子ですから」

「ぐぬぬ、真似された。ぜ~ったいに許す」

「…許すんかい」

「にしし」


 ポテコが可愛らしい笑顔を見せ、組手が再開された。




 結局、その後5戦組手を行った。師匠の強さを再認識したのもあって、遠慮なく…さっきより全力で挑ませてもらった。

 …全部手も足も出なかった。


 そんな人が師匠で、改めて頼もしいと思った。


短編投稿。

連載版書き溜め中です。


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