冬休みの通学路・第四話 フリーズアウト
あの日、俺はあの人と目線を合わせていた。
少なくともあの頃の俺は。
あの人よりも背が低くて。
よく上から頭を撫でられたりもしたけど。
あの日のあの人は
俺の部屋の前で力なく座り込んでいたから。
珍しく俺の方が屈む側だった。
元気がなくて僕の部屋の前で。
うずくまるお姉ちゃんのそばまで近寄って。
屈んで目の高さも合わせて。
ドキドキしながら。
僕はお姉ちゃんが喋るのを待った。
「除夜の鐘が鳴るのもあと少しだね」
「うん」
「冬ちゃん、年が変わるまで起きていなくていいの」
「いいよ。ゲームしてから寝るだけだよ」
「そう。ねえ、冬ちゃん」
「私がどうして冬ちゃん家に来たのか聞かないの」
「それは……」
お姉ちゃん、家族とケンカしたのかな。
おおみそかのこのタイミングで。
しかも僕の家に来るなんて。
僕としてはそうとしか思えなかったけど。
いくらなんでも。
そんなこと僕は言えないよ。
答えたくても答えにくい。
僕が困っていると。
ふふっ、とお姉ちゃんは笑って。
僕にしゃべりかけてきた。
「私三学期から学校行きたくないって言って親とケンカしちゃったの」
「えっ」
「でも、私の部屋なっちゃんと一緒だから部屋に引きこもれなくて、それでここ一週間くらい親とケンカしっぱなしだったの」
「……」
「今パパ達がなっちゃん連れて初詣に行っているから冬ちゃんの家に逃げてきたの。あっ、ちゃんとお家に鍵はかけて来たからね」
すごく辛い思いをお姉ちゃんがしていたのが伝わってきて。
僕は返事なんてできなかった。
むしろ、お姉ちゃんにとってはその方がよかったのか。
なにを言っていいのか分からない僕にかまわず。
色々と教えてくれた。
「クリスマスパーティで好きな人に告白したら、その人実は別のクラスの子と付き合っていたんだって」
「知らないの私だけで、親友と思っていた子もグループの子達からイジメられたくなくてずっと黙っていたんだって」
「だから、みんな私を除け者にしていてーー」
「私が告白できるようにその人と二人きりになる瞬間を作ってーー」
「告白したらドッキリ番組のネタバラシみたいに本当の事をパーティに来ていた人達から教えられてーー」
「スマフォ持っている子はカメラでこっそりとその時の写真まで撮ってーー」
「あとはパーティが終わるまでクラスの人たちから笑われてー」
「どうしようもないまま、終わるまで一言も喋らずにパーティ会場だったクラスの子の家にいてーー」
「帰り道に流石に私のこと可哀想だと思った子から教えてもらったのーー」
「さっき言った親友だと思っていた子じゃないよ」
「三学期に教室に行ったら、多分みんなの笑い者だよね」
そこまで言うとお姉ちゃんは大きなため息をついてから。
「やってらんないね」とぼっそりつぶやいた。
話を聞いて思ったのは。
お姉ちゃんのクラスの奴らが許せなかった。
言葉は出てこなかったけど。
僕はお姉ちゃんの話に出てきた人達に。
すごく怒りがおさまらなかった。
こんなのイジメじゃないか。
漫画やアニメに出てくる主人公みたいに。
僕はお姉ちゃんのクラスメイトをやっつけてやりたかった。
でも、どうやったらできるんだろう。
僕は今怒っているけど。
お姉ちゃんのために。
何ができるんだろう。
どうしようもなくないかな。
なんだかどんどん頭が重くなっていって。
考えれば考えるほど。
息苦しくて。
それで時間もどんどん過ぎていって。
ゴーン、ゴーン。
窓の外から除夜の鐘が聞こえてきた。
もう新年になってしまったんだ。
頭を抱える僕に。
お姉ちゃんはふふっと笑ってから。
「明けましておめでとう」
ちょっと辛そうな顔をしながら僕に。
新年の挨拶をしてきた。
お姉ちゃんから呼ばれたんだ。
これには僕も一旦怒ったり悩んだりするのを置いておいて。
挨拶を返さないと。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「今年もよろしく、か」
またお姉ちゃんがふふっと笑った時。
少し離れた所からお父さんの声が聞こえてきた。
「ちょっと今いいかな」
「いいよ、お父さん」
お父さんは部屋の入り口まで来ると。
お姉ちゃんをリビングまで連れていった。
僕はお姉ちゃんがこの部屋にもどってくるのを待ったけど。
一時間経ってももどってこなかったから。
Zisタッチの電源をオフにして。
部屋の電気を消して僕は布団に入って寝ることにした。
なんでか知らないけど。
寝る前に涙が流れた。
これはきっとクリスマスパーティの時に。
流れなかった分なんだろうな、って。
思い込むと。
お姉ちゃんをいじめた奴らへの。
怒りやモヤモヤも引っ込んで。
すぐにねむれた。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ベートーヴェンの交響曲、第九も聞こえてくる。
大晦日のお忙しい中で。
こちらに来てくださった読者の皆様。
本当にありがとうございます。
そこで私としては。
本編では知ることのできなかった情報などを。
昨日の主人公の本名の件同様に。
ご紹介したいと思います。
冬矢の住む街の名前は。
琴里市といい。
農業と漁業が盛んな緑あふれる土地です。
また第一話の前書きから計算して。
本編の時代背景は。
この後の展開も踏まえ。
2015、2016年頃になりますが。
前書きが現在の冬矢のモノローグになっているのには。
昔を振り返る以外にも。
今の冬矢を表す役目があります。
さて、次は本日の12/31の17:30更新となります。
よろしければ、ハーミット・リスタートの最新話もよろしくお願いします。




