そうか、勇者か…
シスターに連れて来られたのは、屋内にも関わらず噴水があり、草木が青々と繁る『儀式の間』と呼ばれる場所。
噴水のオブジェが、どうやら神様の像らしい。
俺を含む複数の子供達は、一人一人並ばされ、待つようにと言われた。
暫くして全員が並び終え、最初にこの場所に居た者から呼ばれ、噴水の前にある子供一人分の大きさのタイルの上に跪いた。
噴水の水を神父が杓子のようなもので掬い上げ、跪いている子供の手に掛けた。
一連の流れをボーッと眺めていると、俺が呼ばれた。
「聖水を掛けたら、額に手を持っていって神に祈りを捧げなさい。」
神父に言われた通りに額の前に手を持っていき神様の像に祈りを捧げた。
すると、ジワジワと手の甲に熱が集まり、ジュッと一瞬火傷のような痛みを感じて思わず手の甲を見た。
「こ…この紋様はッ…!」
神父が俺の手の甲をマジマジと見つめる。
「間違いない…これは…勇者の紋様…!」
どうやら、数百年に一度現れる勇者の素質を持つ…というか、神に無理矢理勇者の烙印を押される人間に、選ばれたらしい。
「国王様に報告を!!警備隊を呼び、直ちにこの者を護衛させよ!」
神父がそう叫ぶと、シスターや他の神父達は慌ただしくこの場を後にし、残った子供達もざわついている。
「あの…」
水を掛けてきた神父に声を掛けると、水を掛けてきた神父…水神父はハッと振り返り俺の肩に手を置いて真剣な眼差しで言った。
「君は…いえ、貴方は、今世の勇者に選ばれました。これから国王様と謁見し、18歳になったら世界に平和をもたらす為に旅に出る事になります。」
「嫌です。(嫌です。)」
大好きな両親と離れたくないし、父の武器屋を継ぐと決めていた。
「貴方の意思は、神の決定の前には無意味なのです…。どうか、ご理解を…。」
別室に通され暫くのち、両親と警備隊が入ってきた。
「話しは神父様から聞いた…。」
父は複雑な顔をしていた。
「国王様への謁見は、私達は付いて行けないみたいなの…。」
母はとても不安そうにしていた。
「どうしても行かなきゃダメなの…?」
俺は両親の顔を見た。
水神父が淡々と話しを始める。
「先代の勇者の紋様が現れたのは850年程前と記録されています。その時の勇者は、女性でした。魔王との死闘の末、魔王を屠った時の瘴気にあてられ、程なくして命を落としました。勇者の紋様が現れるのは、魔王が復活の兆しをみせた時…と伝わっています。先代の勇者は命を賭して使命を全うし、我々に平和をもたらしてくださいました。瘴気に当たらなければ、当たってしまっても、直ぐに回復をしていれば…勇者はもっと長生きできた。その後様々な考察や研究が進み、次に勇者が現れるその時に、叡知を集結させて勇者を救おうと、今でも世界で研究や魔法が日夜改良されています。」
世界平和の為に、死ぬかもしれない戦いに行けと…。
しかも8年後に…。
俺が俯いていると、母がそっと抱き締めてくれた。
「貴方が死なない武器と防具、たくさん用意しなくちゃね…。」
父が俺の頭を撫でながら、優しく語り掛ける。
「そうか、勇者か…」




