表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

### Section5-1:「やっぱり、精鋭の馬車は違うのね」

 蒼鋼騎士団の護送馬車は、思いのほか揺れが少なかった。


 手足を縛られて転がされている俺にとって、乗り心地なんてどうでもいいんだけど。


「やっぱり、精鋭の馬車は違うのね」


 隣で同じように縛られているアリシアが、妙に感心した声で呟いた。


 向かい側では、ミラが申し訳なさそうに縮こまっている。


「感心してる場合じゃないでしょ」


「でも、せっかくだから騎乗体験を楽しみましょうよ」


(この状況でも前向きなのは、すごいというか、心配になるというか)


「心配しなくていいわよ。意外と楽観主義なの」


 その時、馬車がゆっくりと止まった。


「異物三名、予定通り搬入いたします」


「ご苦労。こちらで引き取る」


 重厚で、どこか聞き覚えのある声だった。


(あの声、どこかで聞いたような)


「ザカリ・ブレイヴハートよ」


 アリシアが青ざめた。


「静語牢で一緒だった、元勇者の……」


 馬車の扉が開いた。白銀の鎧に身を包んだ、筋骨隆々の大男が立っている。


「久しいな、ナユタ・クロウフェザー」


 ザカリが馬車に乗り込んできた。その顔は以前よりも険しくなっていった。


「あ、あの時の……」


「その通りだ。だが、今や我は蒼鋼騎士団の『特別顧問』として、貴様を断罪しに来た」


 ミラがザカリを見て、さらに身を縮めた。


「随分と、派手にやらかしてくれたものだな」


「派手って、俺たちは何もしてませんよ」


「何もしていない?」


 ザカリが懐から一枚の紙を取り出した。


「これを見ろ」


 神語で書かれた文書を、アリシアが息を呑んで読み上げた。


「『世界改変指令』……『異物排除最優先』……」


「そうだ。世界そのものが、貴様の排除を命じている」


 ザカリが立ち上がった。


「貴様は『世界の秩序を乱す異物』だ」


「俺が何を変えたって言うんですか?」


「この少女だ」


 ザカリがアリシアを指さした。


「彼女は『聖言解読』の血筋。本来なら『書かれた運命』に従って生きるべき者だった」


「それが、貴様の『書かれていない声』を聞いたせいで、『台本から外れた行動』を取るようになった」


(でも、それって普通のことじゃないの?)


「普通のことではない」


 ザカリの声が重くなった。


「これまで、『モノローグ系』のスキル持ちは全て、発覚と同時に処刑してきた」


「全てって……」


「千年間で十数名。例外は一人もない」


(でも、それって人を殺してまで守るべきものなの?)


「そうだ」


 ザカリが断言した。


「それによって、この世界は完璧な調和を保ってきた」


「だが、貴様だけは例外的に『三日間』の猶予を与えた」


 ザカリの表情が、僅かに揺らいだ。


「我も、一度は疑問に思ったからだ」


(この人も、迷ってたんだ)


「だが、結果は見ての通りだ。貴様を生かしておいた三日間で、世界に異変が起きた」


「大げさではない」


 アリシアが口を挟んだ。


「あなたの言ってることは分かるわ。でも、それでもナユタは間違ってない」


「その平和は、人の命を犠牲にした平和よ」


 アリシアが怒った顔でザカリを見つめた。


「モノローグ持ちを全員殺すなんて、それこそ間違ってる」


「間違いではない。必要な犠牲だ」


「その世界は、本当に正しいの?」


 アリシアの問いに、ザカリが黙った。


(アリシア、すごいこと言うなあ)


「ナユタは、間違ったことしてない。人を殺さずに済む方法を探すべきよ」


 ザカリの視線が、ちらりとミラに向いた。


「貴様は、『偽りを演じる者』すら庇おうとする」


 ミラがびくっと震えた。


「だが、貴様は……なぜそこまで、他人を理解しようとする?」


「理解しようとするって、普通のことじゃないですか?」


「普通ではない」


 ふと、ミラの方を見ると、彼女も涙を浮かべながら俺とザカリのやり取りを聞いていた。


(ミラさんも、きっと苦しかったんだろうな)


「苦しかったって……」


 ミラが驚いたように俺を見た。


「あなた、まだあたしのことを……」


「だって、好きで嘘をついたわけじゃないでしょ?」


 ミラの涙が、ぽろぽろと落ちた。


「でも、あーし……あなたを売ったのよ?」


「売らざるを得なかったんでしょ? きっと、何か事情があったんだと思います」


 ザカリが俺たちのやり取りを見て、困惑したような表情になった。


「過去の記録では、モノローグ持ちは皆、自分の欲望に忠実だった……チートスキルを用いてハーレムを形成しようとしたり、最強ステータスを悪用して魔王になろうとしたりな」


 ザカリが困惑したような顔になった。


「だが、貴様は他人を思いやり、裏切った者すら庇おうとする」


「それのどこが悪いんですか?」


「悪くはない。ただ……『前例がない』のだ」


(この人も、本当は人を殺したくないんだ)


「……我は元勇者で騎士だ。感情に流されるわけにはいかぬ」


「でも、感情があるから迷ってるんでしょ?」


 ザカリが黙った。その沈黙が、すべてを物語っていた。


 この人も、俺たちと同じように悩んでいる。千年間の掟と感情の間で、苦しんでいるんだ。


(みんな、つらいんだなあ、この世界)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ