### Section4-2:「あーしも転生者だって話」
村の茶店で、俺たちは席に着いた。
対面に座るミラは優雅な微笑みを浮かべているが、アリシアが無言でティーカップを見つめているのが気になる。
「ミラさん、君の話をもう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
「ええ、もちろんよ」
ミラが手を組んだ。
「あーししも転生者だって話、信じてもらえたかしら?」
(うーん、正直言うと半信半疑なんだけど)
「半信半疑って、そんな……」
ミラが少し傷ついたような顔をした。
「別に嘘だとは言ってませんけど」
「アリシア、君はどう思う?」
「私は……もう少し、お話を聞いてからでないと」
アリシアの表情が硬い。
「じゃあ、何でも聞いて。あたし、ナユタ君のことなら何でも知ってるから」
(何でも知ってるって、大げさだな)
「あなたの責任感とか、素敵だと思ってたの」
(俺にそんなものあったかな)
アリシアが急に立ち上がった。
「すみません、お手洗いに」
彼女はそのまま店の奥に向かってしまった。
「あら、具合でも悪いのかしら」
ミラが心配そうに言ったが、その目は笑っていない。
「牢屋では黙っていてごめんなさいね」
ミラの目が潤んだ。
「この世界で、本当の自分を分かってくれる人なんて、いないと思ってた」
その時、アリシアが戻ってきた。顔色がさっきより悪くなっている。
「アリシア、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
明らかに様子がおかしい。
「お顔が真っ青よ」
「いえ、そんなことは……」
アリシアがティーカップを手に取った。その手が震えている。
(アリシア、本当に大丈夫なのかな)
「心配しないで。ただ、少し考え事をしてただけよ」
「ミラさんのお話について」
アリシアがミラを見た。その目が鋭い。
「ミラさん、ナユタが前世では、どんな音楽が好きだった?」
ミラが俺を見つめた。
「音楽ですか?」
(音楽って、そんなに聞いてなかったような……)
「ス、スピードリンゴっていう楽曲をよく聞いていたわよね」
「ああ、それは音楽じゃなくて……英語、別の国の言葉を覚える教材です」
ミラの顔が一瞬だけこわばった。
「あ、ああ、そうだったのね」
アリシアが急に口を開いた。
「あなたの話にはいくつか矛盾があるようですが」
アリシアが冷たく言った。
(矛盾って、どんな?)
「私は、あなたの話をずっと聞いていたから」
アリシアの手が震えている。
「気づいてしまったのよ」
ミラの顔が真っ白になった。
「嘘なんてついてないのに」
ミラの目に涙が浮かんだ。
「お話の続きは、また今度にしませんか?」
アリシアが立ち上がった。
「ナユタ、行きましょう」
アリシアが俺の手を引いた。
「今は、ここから離れた方がいい」
俺たちは茶店を出ようとした。その時だった。
扉が開いて、数人の男が入ってきた。蒼鋼騎士団の白甲冑だった。
「あ……」
ミラが振り返った。その顔に、申し訳なさそうな表情が浮かんでいる。
「ナユタ君……ごめんなさい」
(まさか、この人……)
「そのまさかよ」
アリシアが立ち上がった。
「あなた、最初から私たちを騙すつもりだったのね」
騎士たちが俺たちを取り囲んだ。
「ナユタ・クロウフェザー、及びアリシア・リューンライト」
騎士の一人が宣言した。
「国王陛下の命により、貴様らを逮捕する」
ミラが小さく呟いた。
「ごめんなさい……でも、あたしにも事情が……」
アリシアが俺を見た。
「あの人、牢屋で聞いてた情報を使って、転生者の振りをしてるの」
(そういうことか)
「そういうことよ」
アリシアがため息をついた。
「あの人、私たちを売ったのよ」
騎士たちの包囲が狭まってくる。
俺たちの逃走劇は、思わぬ裏切りによって窮地に追い込まれた。