### Section4-1:「あら、もしかして……ナユタ君?」
街道沿いの小さな村に差し掛かった時、俺たちは一人の女性とすれ違った。
銀髪に紫の瞳、上品なワインレッドのドレスを着た美人だ。どこかで見たような……。
「あら、もしかして……ナユタ君?」
その女性が立ち止まった。
「え、はい。そうですけど……」
「やっぱり! ミラよ。ミラ=カトレア」
あ、牢屋で一緒だったミラさんか。でも、なんで自由になってるんだ?
「自由になってるって、当然じゃない」
ミラがくるっと回転して見せた。
「あーし、無実だったから釈放されたのよ」
(無実って、確か詐欺で捕まったって……)
「詐欺じゃなくて『誤解』だったの。貴族の方に身元を保証していただいたのよ」
なんだか話が上手すぎる気がするけど、ミラさんはそういう人だったな。
「あら、お友達?」
ミラがアリシアを見た。その視線が、なんだか値踏みするような感じだ。
「初めまして、ミラ=カトレアと申します」
「……アリシア」
アリシアが素っ気なく答えた。明らかに警戒してる。
「ナユタ君、実はあたし、あなたにとても大切なお話があるの」
ミラが周りを見回してから、俺に耳打ちした。
「実は……あーしも転生者なの」
え?
(転生者って、俺と同じ?)
「そうよ。同じ世界から来たのよ」
ちょっと待て、同じ世界って……。
「日本よ。あたし、元々は田中美羅っていう名前だったの」
田中美羅……聞いたことない名前だ。
「同じ高校だったのよ。3年B組。あなたは3年A組でしょ?」
(あれ、俺のクラスを知ってる?)
「クラスは違うけど、あなたのこと知ってたわ。三島直哉君、図書委員で、いつも一人で本を読んでた」
確かに俺は図書委員だったし、よく一人で本を読んでいた。でも……。
(でも、俺のことを知ってる人なんて、学校にほとんどいなかったはずだ)
「あーしね、ずっとあなたのことが気になってたの」
ミラが嬉しそうに言った。
「だって、いつも一人で寂しそうにしてて……でも、話しかける勇気がなくて」
ミラの目が潤んだ。
「同じように転生してきたって知った時、運命を感じたのよ」
(運命って、そんな大げさな……)
「大げさじゃないわ」
ミラが俺の手を握った。
「あたしたち、あのトラック事故で一緒に死んだのよ。覚えてない?」
トラック事故……確かに俺はトラックに轢かれて死んだ。でも……。
(でも、その時周りに他の人はいなかったような……)
「一緒に轢かれたの。でも、気づいた時にはもうこの世界にいて……」
「それで、今まで一人で頑張ってきたんですか?」
「そうよ。寂しくて、怖くて……」
ミラが俺にもたれかかった。
「でも、あなたに会えたから、もう大丈夫」
(なんだか、映画みたいな話だな)
「映画みたいって、失礼ね」
ミラが頬を膨らませた。
「あ、あーしの気持ち、本物よ」
アリシアが咳払いをした。
「すみません、お話の途中で悪いのですが」
「何かしら?」
ミラがアリシアを見た。その視線が、さっきより冷たくなった。
「あなたのお話、少し気になることがあるのですが」
「気になること?」
「ナユタと同じ高校だったとのことですが、ナユタは前世で『友達がいなかった』と言っていました」
(あ、そういえばアリシアに話したことがあったな)
「友達とは違うわ」
ミラの表情が一瞬だけ曇った。
「彼に憧れてただけだから」
「そうですか」
アリシアが頷いたが、その目は疑わしそうだった。
「それに、転生して一週間で貴族の後ろ盾を得るなんて、少し出来すぎている気がしますが」
ミラの顔が青ざめた。
「それは……偶然よ」
「ナユタ、この人の話をどう思う?」
アリシアが俺を見た。
(うーん、確かに少し変な気がするけど……)
「変な気って、失礼ね!」
ミラが立ち上がった。
「あたし、嘘なんてついてないわ」
「そうですかね」
アリシアが冷静に答えた。
「でしたら、もう少し詳しくお話を聞かせてもらえませんか?」
ミラが困ったような顔をした。
「それは……」
「話の続きは、場所を変えませんか?」
俺が慌てて間に入った。
「ここは人目につきますし」
「そうね」
アリシアがため息をついた。
「分かりました、ミラさん。お話の続きを聞かせてください」
「ええ……もちろんよ」
ミラが微笑んだが、その笑顔はどこか不自然だった。
(この人、本当に転生者なんだろうか?)
「本当よ。あーしたち、運命の出会いなのよ」
ミラの言葉とは裏腹に、アリシアの疑いの目は鋭くなっていく。
俺たちは村の奥へと向かった。この後、どんな真実が明らかになるのだろうか。