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### Section1-1:「ここ、どこっすか?」

 転生って、もうちょっと親切なもんだと思ってた。


 三島直哉、十八歳。春から大学生の予定だったが、運命の神様はどうやら俺の履修登録を却下したらしい。コンビニから帰る途中、信号無視のトラックが俺を異世界特急に強制搭乗させてくれたのだ。


軋む骨、回る視界、痛み信号が神経細胞を通って脳に到達する……その瞬間。


「うわあああああ!」


 気がつくと、俺は石造りの部屋で立ち上がろうとしていた。頭が割れそうに痛い。なんだか体も軽い気がする。まあ、死んだんだから当然か。


「おお、目覚めたな」


 振り返ると、中世ヨーロッパから抜け出してきたような格好のおじさんが俺を見下ろしていた。灰色のローブに、腰にぶら下がった謎の水晶。RPGでよく見る魔法使いっぽい。


「えーっと……ここ、どこっすか?」


「カイリド王国の都市ディリクである。貴様は『転移者』として緊急保護されたのだ」


 おお、ちゃんと異世界転生してる。しかも保護って言葉を使ってくれてる。意外と親切じゃん、この世界。


「あ、ありがとうございます! 助かりました!」


「感謝は不要だ。では早速、スキル鑑定を始めさせてもらう」


 おじさんは俺の前に水晶みたいな道具を置いた。なんか光ってる。


「この『鑑定水晶』に手を置け。貴様の持つスキルや能力値を測定する」


 おー、来た来た。異世界転生といえばスキル鑑定。俺にはどんな超能力が備わってるんだろう。『剣聖』とか『賢者』とか『勇者』とか……。


「はい!」


 俺は張り切って水晶に手を置いた。


 瞬間、水晶が眩しく光る。おじさんが何やら呪文を唱えてる。かっこいいなあ。


「……むむ?」


 だが、おじさんの顔が曇った。


「おい、何か間違いがあったのか?」


「いや、間違いではない。だが……」


 おじさんは水晶をじーっと見つめて、顔をしかめた。


「貴様のスキルは『オートモノローグ』……自動独白、といったところか」


「お、おおー! 独白! なんかかっこいい響きですね! どういう効果なんすか?」


(まあ、コミュニケーション系のスキルなんだろうな。地味だけど、使い方次第では結構便利かも)


「……今の声は何だ?」


「え?」


「今、『使い方次第では結構便利』と言わなかったか?」


「いや、言ってませんけど……」


(あれ? 俺、今何か喋った?)


「また聞こえたぞ。『俺、今何か喋った?』と」


 え。


 ちょっと待て。


(まさか、俺の心の声が……)


「『まさか、俺の心の声が』だと? なるほど、理解した」


 おじさんの顔が青ざめた。


「貴様のスキル『オートモノローグ』は、思考を無意識に外部へ放出する能力のようだな」


(うわあああああマジかよ! 心の声がダダ漏れってことじゃん! これ、超恥ずかしいスキルじゃん! しかも制御できないって!?)


「……」


 おじさんは無言で俺を見つめた。その視線が、なんだかとても冷たい。


「あの、これって、直せるんですか?」


「いや」


 即答だった。


「このスキルは『常時発動型』のようだ。意識的な制御は不可能と思われる」


(あーあ、最悪だ。これじゃあ何も考えられないじゃん。えっちなことを考えたらバレるし、人の悪口も言えないし、秘密も何もあったもんじゃない)


「秘密も何もあったもんじゃない、か」


 おじさんが呟いた。そして、何やら小さな装置を取り出した。


「おい、何すんすか、それ」


「魔導通信機だ。上司に報告する」


(え、なんで報告? 俺、何か悪いことした?)


 おじさんは装置に向かって喋り始めた。


「錠域庁魔術班より連絡。新規転移者の危険度判定が必要だ。スキル『オートモノローグ』による思考漏洩を確認。機密保持の観点から、即座に隔離措置を提案する」


「ちょ、隔離って何すか!?」


(隔離って、牢屋ってこと? え、マジで? 転生して三分で囚人?)


「……了解。直ちに『静語牢』へ移送する」


 おじさんが装置をしまった。そして、扉の向こうに声をかけた。


「護衛隊、入れ!」


 ガチャン、と扉が開いて、鎧を着た兵士が三人入ってきた。みんな剣を持ってる。


「え、ちょっと待ってください! 俺、何もしてませんよ!?」


「何もしていない、その通りだ」


 おじさんが冷たく言った。


「だが、貴様の『存在』が問題なのだ。思考が漏れる者を野放しにするわけにはいかん」


(は? 存在が問題って何だよ。俺が何したって言うんだ)


「我々は秘密を抱えて生きている。国家機密、個人情報、軍事機密……全てが筒抜けになる可能性のある者を、自由にするわけにはいかんのだ」


 兵士の一人が俺の腕を掴んだ。


「おい、離せよ!」


「抵抗は無駄だ。『静語牢』で大人しくしていろ」


(静語牢って何だよ。牢屋の名前? やっぱり牢屋じゃん。転生三分で投獄って、どんな記録だよ)


「記録と言えば」


 おじさんがにやりと笑った。


「貴様は我々の『最短犯罪者認定記録』を更新したぞ。おめでとう」


「犯罪者って! 俺、まだ何にもしてないのに!」


「このスキルを持っていることが罪なのだ」


 は?


(は? スキルを持ってることが罪? 何それ、理不尽すぎない?)


「理不尽? いや、理にかなっている。この国では、危険なスキルを持つ者は『存在自体』が罪なのだ」


 兵士たちが俺を引きずり始めた。


「待てよ! 話を聞いてくれよ! 俺はただの高校生だったんだ! 悪いことなんて何もしてない!」


(というか、異世界転生ってもっと歓迎されるもんじゃないの? 勇者様扱いとか、王様に謁見とか、美少女と出会うとか!)


「美少女との出会いは期待するな」


 おじさんが容赦なく言った。


「『静語牢』は凶悪犯専用の独房だからな」


 廊下を引きずられながら、俺は必死に状況を整理しようとした。でも、心の声がダダ漏れだから、考えがまとまらない。


(とりあえず、これだけは分かった。この国、転生者に優しくない。スキルによっては犯罪者扱い。特に俺みたいに『思考が漏れる』スキルは最悪レベルで危険視される)


「その通りだ」


 後ろからおじさんの声がした。


「モノローグ系のスキル持ちは、過去に何人か確認されている。だが、全員……」


「全員、どうなったんすか?」


「発覚次第、処刑されている」


 俺の足が止まった。


「し、処刑って……」


「当然だろう。機密を守れない者を生かしておくわけにはいかん」


(処刑って、殺されるってこと? マジで? 転生してきて、いきなり死刑宣告?)


「まあ、すぐに処刑されるわけではない」


 おじさんが付け加えた。


「今回は特別に、三日間の猶予期間がある。その間に『社会復帰の可能性』があるかどうかを判定する」


(三日って短すぎない? しかも社会復帰の可能性って何だよ)


「簡単に言えば、貴様が『黙って大人しくしていられるか』だ。もし三日間、一度も思考を漏らさずに過ごせたら、条件付きで釈放される……一生、監視付きだがな。外出禁止、接触禁止、発言許可制」


(それ、生きてると言えるのか?)


「少なくとも、死んではいない」


 おじさんが冷たく答えた。


「さあ、着いたぞ。貴様の新居だ」


 目の前に、鉄格子のついた重い扉があった。表札には『静語牢・第七監房』と書いてある。


「ちょっと待ってくださいよ! 俺、まだ納得してない!」


(なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。トラックに轢かれて、異世界に飛ばされて、いきなり犯罪者扱いで、三日後には処刑かもしれないって……理不尽すぎる)


「理不尽かもしれんが、これがルールだ」


 おじさんが鍵を回した。


「諦めて、静かに過ごすことだな。運が良ければ、三日後も生きているかもしれん」


 ガチャン。


 扉が閉まった。


 俺は薄暗い石の牢屋に一人残された。


(……これ、マジで詰んでない?)


 ため息しか出なかった。


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