卑劣な提案
レイノルズ侯爵邸へ到着するまでは、もう心配で、心配で。恐ろしい想像をしてはそれを打ち消し、何度もこう考えることになる。
(この世界は乙女ゲームなのよ。素敵な攻略対象と恋を楽しむために作られた世界。そこに血みどろな戦争の描写なんてなかったわ。だから大丈夫よ。リアスが戦場へ駆り出されることなんてないはず)
「お嬢さん、着きましたよ」
学校が手配してくれた馬車は悶々とする私を乗せ、レイノルズ侯爵邸に到着した。
馬車からエントランスを見ると、リアスとレイノルズ侯爵夫人が迎えに出てくれている。リアスは制服姿のままで、レイノルズ侯爵夫人はクリーム色のローブモンタントを着ていた。
(宮殿から戻ったばかりなのね)
「アドリアナ、わざわざ来てくれて、ありがとう」
リアスはそう言うと使用人に自身の鞄を運ばせ、私の鞄を持ってくれる。
「サンフォード公爵令嬢、学校を早退させてしまい、申し訳なかったわ。でもあなたが来てくれて、リアスはとても心強いと思うの。ありがとうございます」
そう言って頭を下げるレイノルズ侯爵夫人に、いつものような元気はない。リアスの母親と分かる、年齢よりも若々しく見える美人のはずが、今日はとても老け込んで見えてしまう。
(何らかの知らせを受け、一気に心労が出たように思えるわ。一体何が……)
「この時間に到着したということは、アドリアナはまだ昼食をとっていないよね。実は僕たちもまだだから、一緒に食べよう」
リアスにそう言われ、初めて自分が四時限目が始まる直前に学校を出発したことを思い出す。しかしお腹が空いているかというと……。
何だか心配の方が強く、空腹を覚えていなかった。
(でもリアスたちが食事をしていないなら、絶対に何か食べた方がいいわ)
「ありがとう、リアス。そういえば昼食のこと、忘れていたわ。レイノルズ侯爵夫人、ご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんよ、サンフォード公爵令嬢! あなたはもう私たちの家族も同然です。遠慮なさらないで」
こうしてレイノルズ侯爵邸へ入り、ダイニングルームへ案内される。席に座るとすぐに料理が運ばれてきたが、前菜もスープもさっぱりしたもの。
(これなら食べられそうだわ!)
ひとまず前菜から食べ始める。
食事の最中は、食が止まらない方がいいだろうと、リアスの早退の理由は聞かないようにした。代わりにリアスが抜けた授業の様子を話すが、リアスもレイノルズ侯爵夫人もそれを遮ることはない。
肉料理も私の食欲のなさを配慮し、あっさり味で少な目にしてくれたのかと思ったが違う。
リアスもレイノルズ侯爵夫人も私と同じ。食欲はないが、食べないと身が持たないと、口に運んでいる状態だった。そしてそうなることを踏まえ、厨房の料理人は味付けを優しくし、量は少量にしたのだろう。
その配慮のおかげできちんと魚料理と食後のカシスシャーベットも食べ終えることが出来た。
そこで紅茶ではなく、ハーブティーが出される。リラックス効果の高いラベンダーティーの登場に私は悟った。
(いよいよ、リアスが早退した理由が明かされるのね)
「アドリアナ。今日は僕、学校を早退しただろう? 実は国王陛下に呼び出されたんだ」
そこでリアスが自身の母親を見た。レイノルズ侯爵夫人は「すべてリアスが話していいわよ」という感じで頷く。それを受け、リアスは話を続ける。
「そこで国王陛下が語ったのは……何というか……理不尽な話だった」
「一体何があったの、リアス?」
「国境付近の小競り合いの場に、一人の少女が現れた」
その少女は後ろ手に縛られ、顔には布袋を被せられている。だが着ているドレスはシルクの高級そうなもの。明らかに高位貴族だった。
「父上がまさに到着したタイミングで、その少女は反政府組織に連行されるようにして、そこに現れた。そして布袋をとると、そこに見えたのは……イストス帝国の第二皇女だった」
「え、第二皇女が反政府組織に捕らえられたということ……!?」
「反政府組織には皇族も関わっているというから、その人物により、第二皇女は拉致されたのかもしれない。ともかくそうやって捕まり、父上の前に引き立てられたんだ、第二皇女は」
そして反政府組織は、こんな恐ろしいことを言い出したという。
『お前たちがクリムゾン・ファングス騎士団であることは分かっている。それにここに戦争の英雄がいることも。今日は戦争の英雄が跪くか、この皇女が穢されるか、どちらになるか。選択させてやる。今から一時間後、人質交換に応じるなら、白旗をあげろ。あげなければこの皇女はここにいる者の慰み物になる』
つまりレイノルズ侯爵と第二皇女の人質交換をしなければ、皇女はそのままその純潔を奪われ、きっと殺害される。そんな卑劣な提案をイストス帝国の反政府組織はしてきたのだ。しかもタイムリミットは一時間。現場で判断するしかない状況だった。
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もう1話公開します~























































