お茶会
「随分、秋らしくなりましたわね」
「ええ、本当に。ここから見えるコスモスの花畑が最高だわ」
私が微笑み、クリスタは「本当に、コスモスが満開ですね」と視線をそちらへ向ける。
学院の中庭の東屋。ここで「お茶会」の授業の練習を自主的に行っている令嬢がいる。
ホスト役はマーガレット・ザックライン男爵令嬢。ゲスト役はアドリアナ・セレネ・サンフォード公爵令嬢、クリスタ・オーリック伯爵令嬢、そしてもう一人はまだこの場に到着していない。だが今、大慌てでここへ向かっているはずだ。
「すみません。私が声をかけた方が、遅れていて……」
「気にしないでいいわよ。それよりも遅れてくると分かっているのなら、待たずに始めましょうか」
「あっ、はい!」
私の提案にホスト役のマーガレットは、ティーポットにお湯を注ぎ、砂時計をひっくり返す。しばし令嬢三人で談笑し、砂時計の砂が落ち切ると、マーガレットがティーポットを手に立ち上がる。そして私、クリスタ、自分自身のティーカップに紅茶を注ぐ。
「あら。香りがいまいちね。華やぐような香りが感じられないわ」
私の言葉に、マーガレットの頬が引きつる。
「本当ですわ。これが本番のお茶会の授業なら、赤点でしたわね」
クリスタの言葉にマーガレットは「赤点……!」と顔を青ざめさせる。
「でもまぁ、香りはいまいちでも、味は意外といいかもしれないわ」
「そうですわね。サンフォード公爵令嬢」
同意したクリスタは、私とほぼ同時でティーカップに口をつけた。
その時、東屋に向け、駆けてくる人物の姿を目が捉える。
(完璧なタイミングだわ)
一口ごくりと飲み、私は目をカッと見開いた。
「こんな風味も香りもない紅茶なんて、飲むに値しませんわ!」
「そ、そんな……! 茶葉は私のお小遣いで買える一番高いものを選んだつもりです」
「言い訳は結構よ。まずい。いつもの紅茶と全然違う!」
私はティーカップを床に叩きつけ、マーガレットが悲鳴をあげる。
「あらあ、ごめんなさい。あまりの不味さに手元が狂ってしまったわ。練習のお茶会だから、メイドもいないでしょう。ご自分で始末なさいよ、その割れたティーカップ」
「……分かりました」
マーガレットが涙を浮かべ、席から立つ。そして私が投げつけ、割れたティーカップの破片を拾い始める。
「痛っ」
「どうしたのですか!?」
そこに現れたのは、プラチナブロンドに、エメラルドのような瞳をした王子様。
そう、カミュ第二王子だ。
「サンフォード公爵令嬢、あなたらしくないです、あの言葉は!」
カミュ第二王子はそう言いながら、マーガレットが破片で切った指に、自身のハンカチを包帯代わりで巻く。
「あら。私は彼女のためを思い、指摘したのです。これは練習ですけど、本番のお茶会の授業で、この風味も香りもない紅茶を出したら……皆様から非難轟々(ひなんごうごう)ですわ」
「もしそれが真実だとしても、もう少し伝え方がありますよね、サンフォード公爵令嬢。それにティーカップは手元が狂ったわけではなく、わざと……投げつけましたよね。全て見えていました。それにいつにない大声でしたから、聞こえていましたよ」
「さあ、何のことかしら? よく分かりませんでしてよ~」
私が扇子を口元に運び、高笑いをすると、クリスタも同じように扇子を広げ、「おほほほ」と笑う。その様子を見て、マーガレットは俯き、今にも泣きそうになる。
「……ザックライン男爵令嬢。遅れてしまい、すみません。その紅茶、僕もいただいていいですか? あ、手を怪我されているのです。自分で淹れます」
カミュ第二王子はそう言うと、ティーコジーを外し、ティーポットを手に持つ。そのまま自らティーカップに紅茶を注ぎ、口へと運ぶ。
まずはそこで香りを確認し、そしてゴクリと一口飲んだ。それを終えるとソーサーにティーカップを戻し、テーブルへと置く。
「カミュ第二王子殿下、私がお小遣いを全部使って購入した茶葉なんです。いかがでしたか!?」
マーガレットは期待を込めた瞳で、カミュ第二王子を見る。
「……お茶会の授業は来週ですよね。僕が飲んで最も美味しいと思っている紅茶の茶葉を、今度進呈します。お茶会の授業では、それを使うといいですよ」
「え……」
マーガレットがキョトンとしているが、私だって扇子を手にしたまま「うううん!?」となっている。
「あ、あの、殿下、この紅茶は……」
「ザックライン男爵令嬢」
「は、はいっ」
カミュ第二王子の力強い呼びかけに、マーガレットはたじたじになっている。
「サンフォード公爵令嬢は、常に最高級品を口に入れているのです。飲み物もそう。君が用意した茶葉では彼女を満足させることは無理です。彼女の言う通り、今日が本番の授業ではなく良かった。A組にはローレル侯爵令嬢がいるんです。彼女の母親は元王族、つまり元王女。サンフォード公爵令嬢と同じ、ローレル侯爵令嬢も一流の食べ物で育っています。もし彼女にこの紅茶を出せば、サンフォード公爵令嬢以上の反応をされる可能性もある。これぐらいで済んで良かったと思うべきですよ」
カミュ第二王子は真剣な表情で、マーガレットにそう告げると、今度は私を見た。
その顔はこれでもかという程の笑顔になっている。
「サンフォード公爵令嬢。申し訳ありませんでした。ザックライン男爵令嬢は、僕のクラスメイトです。クラスは別々なのに、お茶会の練習をしてくださり、本当にありがとうございます。そして彼女の代わりに僕が謝罪します。あなたに相応しくない紅茶を出してしまい、申し訳ありませんでした」
お読みいただき、ありがとうございます!
あ、あれぇ……( ゜д゜)……!
もう一話更新します!























































