悪役令嬢の気持ち
まさに昭和あるあるで、放課後の呼び出しをされた私は、単身、中庭にある東屋に向かった。
(呼び出されても、裏庭ではなく、東屋というのが、王侯貴族が通う学校ならではね。それに呼び出しを伝えたあの封筒と便箋。封筒には薔薇のエンボス加工があったし、何気に高級品だったわ)
こうして東屋に向かうと、アイアン製の椅子に腰かけている人物がいた。その後ろ姿には見覚えがある。
ツインテールにされたストロベリーブロンド……振り返ったらローズクォーツのような瞳と目が合うはずだ。
つまり、そこにいるのはヒロインであるマーガレットだった。
(驚いたわ。まさかヒロインから悪役令嬢が呼び出しをされるなんて! これもゲームの世界による強制補正の一環なのかしら!?)
ビックリだったがそのまま東屋へ向かうと、マーガレットは椅子に座ったまま私を上目遣いで見た。
その上目遣いは、可愛いはずのヒロインを大変恐ろしい般若のような顔つきにしている。
「私のロッカーに手紙を入れたのは、ザックライン男爵令嬢だったんですね」
声をかけたら、マーガレットは席を立つかと思った。だが彼女は座ったままだ。
(え、呼び出しなのに座ったまま続けるの!?)
私はビックリだったけれど、マーガレットからすると、これは呼び出しのつもりではないのかもしれない。
(ただ単に誰もいないところで話したかったわけね)
そう理解し、私はマーガレットの対面に置かれている椅子に腰を下ろすことになった。
「なぜ呼び出されたのか。理由はお分かりになりますよね?」
「全く分かりません。それよりもなぜ昨日の決闘の場に立ち会われたのですか?」
ヒロインであるマーガレットとはクラスも違い、話す機会が頻繁にあるわけではなかった。そこでチャンスとばかりに気になることを聞いてしまおうと思ったのだ。
(それに想像もしていない質問をされることで、マーガレットは出鼻を挫かれた形になる。この場所を指定し、先にここにいたマーガレットのアドバンテージを崩すには最適よ)
案の定、マーガレットはキョトンとした表情をしている。
(この表情だけ切り取ると、ちゃんと乙女ゲームのヒロインだわ)
そんなことを思う私にマーガレットが話し出す。
「なぜって……」
(あ、やはりマーガレット自身も分からないのね)
そう思ったら。
「ここであなたたち、決闘の話を始めたでしょう!?」
そう言われて「ああ、そうだったわ」と思い出す。
(決闘は終わり、既に過去のものとしていたけれど、確かにここでその約束をすることになったわ)
「まさかカミュ第二王子殿下とリアス様が決闘をするなんて。面白いことになったと思ったわ。そこでカミュ第二王子殿下にお願いしたの。立ち会わせてって」
(そんな興味本位な理由で決闘に立ち会っていたの!? 攻略対象として選んだカミュ第二王子を応援するため……ではなかったのね……)
そのことに驚きつつ、気になるのはマーガレットのリアスの呼び方だ。
(リアス様、ですって!? 婚約者でも家族でもないのに、なぜリアスのことをファーストネームで呼ぶのかしら!?)
何だかもやっとするし、イラッとする。
度々ヒロインであるマーガレットに感じるイライラは、本当に頭に来ている部分と、悪役令嬢としての設定が生きている気がした。
(いずれであれ、マーガレットがリアス様と呼ぶのはいただけないわ!)
きっちり指摘することにした。
「立ち聞きをするなんて……少しお行儀が悪いのではなくて? それにリアスは私の婚約者です。ザックライン男爵令嬢が、リアスを名前で呼ぶことは承服しかねます」
いざそうやって口にした言葉。
前半は私のオリジナルではある。
でも後半の言葉は、「リアス」の部分が「カミュ」として、ゲームの中で悪役令嬢アドリアナが口にしていたものと同じだった。
「そ、それは……た、たまたまです。立ち聞きするつもりなんてありませんでした! リアス様を偶然見かけ、その後を追ったら、ここに辿り着いただけです!」
「ですからリアス様と呼ぶのは止めていただけないかしら!? それになぜリアスの後をつけていたの!?」
自分でも悪役令嬢アドリアナになっていると思うが、どうにもならない。
(これこそが……この世界の強制補正なのでは!?)
「リア……レイノルズ侯爵令息は普通にかっこいいじゃないですか。だからお話をしたいと思って……」
「リアスは私の婚約者よ。物欲しげに見ないでいただきたいわ!」
ゲームの中で聞いたことがある悪役令嬢アドリアナのセリフ。上から目線でねちねちしているし、そんなふうに言わなくても――そう思っていた。でもいざ当事者になると、気持ちが分かってしまう。婚約者を意識する令嬢が現れたら、気が気ではなくなる。
(強制補正の有無に関わらず、文句の一つも言いたくなるわ……!)
悪役令嬢アドリアナが、ヒロインに怒り心頭になった気持ちに共感しつつ、私はこう尋ねることになる。
「ザックライン男爵令嬢。あなたカミュ第二王子殿下のこと、『わぁ……すごくハンサムな人がいる……! プラチナブロンドにエメラルドのような瞳で、王子様みたい……!』って言っていたじゃない。殿下のことが好きなのでしょう? それなのにリアスに懸想するなんて、絶対に許さないわ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
ここは乙女ゲームの世界であり
私は悪役令嬢
そして強制補正がかかる中、さあ、どうなる!?
続きは明日公開いたします。
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