二人きり……?
リアスは決闘で奇跡の勝利を収め、そして私にさらなるサプライズをくれた。それは……。
リアスとのファーストキス!
というか人生初の……!
しかもみんなの前で!
いつも私とリアスがいちゃついた雰囲気になると、お目付け役でストップをかけるアンバーも、この日だけは何もしなかった。
リアスとのキスは長かったようなあっという間だったような。
一瞬、時が止まり、周囲の音は聞こえなくなり、世界にリアスと私の二人きりになったように思えた。でもすぐに音は戻り、リアスの唇もゆっくり離れて――。
決闘は終わった。リアスの勝利で。
ドラマチックな展開はここまでで、私たちは学校から帰ることになる。
校舎内にある水浴び場で汗を流したリアス、ジャスパー、セーブル、アンバー、私のいつもの五人は馬車に乗り、それぞれの屋敷を経由し、帰宅の途についていた。
「じゃあ、明日、また学校で!」
セーブルが馬車を下りると、リアスと二人きり……にはならない。日曜日の外出、私の侍女が六人乗りの馬車には同乗していたのだ。ただ、配慮はしてくれて、私はリアスの隣の席に座ることができた。
ちなみに侍女は、少し離れた場所で決闘を見ていたので、私とリアスがキスをしたことは……知っている。でも両親には報告しないだろうし、そっと見守ってくれると思う。
「リアス、背中の方は大丈夫?」
「うん。背骨には当たらなかったから、平気だよ。ただ、模擬剣であっても、勢いがあったから……。直撃した瞬間は、息ができなかった」
「リアス……」
私が心配そうな顔をすると、リアスは疲れているだろうに、ブロンドの乾いたばかりの前髪を揺らし、笑顔になる。
「僕よりも、最後の一撃で肋骨が折れたカミュ第二王子殿下が心配だよ。一応決闘だから、何の罪にも問われないし、問うことはないと誓約書には書かれているけど……。心配にはなるよ」
「あの様子だと完治までには三か月ぐらいかかると思うわ。それでも本人も受けて立った決闘だもの。恨みっこはなしよ」
「そう言われると、少し気持ちが楽になるかな」
そう言った後、リアスはあの透明感のある美しい碧眼で私をじっと見る。
(ま、まさか侍女も同乗しているのに、キ、キスをもう一度、したいのかしら……?)
私は頬が熱くなるが、リアスはこんなことを口にする。
「アドリアナは気がつかなかった?」
「え、何を!?」
「カミュ第二王子殿下が、急に攻撃の手を緩めた瞬間に」
それは私も気付いていたので「それは感じたわ」と応じる。するとリアスは意外なことを話し出す。
「アドリアナは昔、こんな話を僕にしたこと、覚えている?」
「何の話かしら?」
「『blue jayという碧い綺麗な鳥は、猛禽類の鳴き声を真似して、天敵を追い払うのよ。腕力がなければ、知恵を使うの』そう僕に教えてくれたよね?」
それは確かに、リアスに話した記憶がある。
リアスがまだ全然武術を習える段階ではなく、体力作りに励んでいる時。腕力がない状態で、かつての悪ガキだったジャスパーたちのような令息に意地悪をされたら、どう立ち向かうか。その方法を話したことがあった。その時にまさに今の話をしていたのだ!
その一例として「あっ、先生が来た!」と言う。
この一言だけで、もし意地悪が行われている場が学校なら、相手は怯む。隙が出来たタイミングで逃げればいい──そんな戦略だった。
「確かにその話をした記憶はあるわ。でもそれ、役立ったの……?」
「うん。役立った!」
詳しい話を聞こうとしたら、いきなりブブブという不穏な羽音が聞こえる。
「大変よ! 馬車の中にスズメバチがいるわ!」
私のこの言葉に侍女は頷き、震え上がる。
だがリアスを見ると、落ち着いた表情。
(これはどういうことかしら!?)
スズメバチなんて、誰もが恐れると思っていた。
それは本能的に。
でもリアスは大丈夫なのかと思ったら……。
「さっきのスズメバチの羽音、あれは僕だよ」
これには侍女と二人で「!?」となってしまう。
「今の羽音をカミュ第二王子にも聞かせたんだよ。この手の羽音に、人間は敏感だよね? 注意が逸れたところで、一気に畳みかけたんだ」
これには「なるほど!」だった。
カミュ第二王子の隙を、リアスは自ら作り出していたのだ!
「この方法を思いつけたのは、アドリアナのおかげだよ」
「そんな! リアスの機転の賜物よ」
「そんなことないよ。アドリアナが知恵の女神となって、僕を助けてくれた」
「リアス……」
思わず見つめ合い、甘い雰囲気になったが。
侍女のさりげない咳払いで我に返る。
とにかくにも、私たちは勝利したのだ。
リアスこそが私の幸運の大天使であり、彼がいる限り……私は負けない! 悪役令嬢にはならない!と思えた。
お読みいただき、ありがとうございます!
決闘が無事終わりました~
続きは明日更新です。
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