脱・悪役令嬢を目指す
両親は届いた一通の手紙を見て、驚愕することになる。
「ああ、なんてことだ! 父上が、アドリアナがデビュタントを迎えるまでは、自身が預かると言って来た!」
「ええ、お義父様が!? どうしてそんなことを急に……」
「父上は母上を亡くし、隠居して地方領で一人暮らしをしているが、本当は寂しかったのだろう……。実は次男のマークの養育をしたいと言われたが、断っている。アドリアナのことまで断ったら、父上は……何をするか分からない。父上は頑固で、一度目は許すが二度目は許さない。つまりマークの時は引いたが、今回は引くつもりはないだろう……」
これには母親はビックリで「あんな山の中で、淑女教育なんてできないじゃないですか! どうするんですか、あなた!」と、珍しくおしどり夫婦の二人が喧嘩を始めてしまった。
(お父様、お母様、ごめんなさい。夫婦喧嘩になるのは私の本意ではありません。でもこのままでは私、第二王子の婚約者に相応しい公爵令嬢に育ってしまいます。そうならないために、山の中のポツンと一軒家で隠居生活をしている前公爵、現侯爵のお祖父様のところへ行く必要があるんです。そこで立派な山猿令嬢になり、脱・悪役令嬢を目指します!)
このまま首都にいて、両親に正しく公爵令嬢として育てられては、悪役令嬢街道まっしぐらだった。そこで思いついたのは、淑女教育の放棄。だが両親と暮らし、放棄なんて無理な話だった。そこで何度か首都に来て、私のことを気に入ってくれていた祖父のことを思い出したのだ。
『アドリアナはおじいちゃまのことが大好きです。でもおじいちゃまはアドリアナよりうんとお年なんでしょう? アドリアナとずっと一緒にはいられないんだよね。アドリアナは少しでもおじいちゃまが元気な間に一緒に過ごしたいです。お父様とお母様に反対されちゃうから、おじいちゃまから言ってもらえると嬉しい。アドリアナがデビュタントになるまで、おじいちゃまと一緒に暮らすって!』
見た目間もなく六歳であるが、中身はアラサー。知恵を絞り、祖父が動くような素朴だが、気持ちが伝わる手紙を書いた。そして前世もこの世界でも。おじいちゃんとおばあちゃんは孫に弱い!
ということで祖父と両親の間では何度か手紙が往復し、実際に会い、話し合いが行われたが最終的に……。
「アドリアナ、絶対に木に登ったり、川に近づいてはダメだよ」
「アドリアナ、マナーと礼儀作法の本はちゃんと読むの。あと刺繍も、お母様が少し教えたでしょう? 本もあるからそれを見て、毎日少しでもいいから、やってちょうだい」
祖父が勝ち、私は首都から遠く離れたサンウエストの地へ、六歳になると同時に向かうことになった。
◇
汽車での旅は初めてで、私はテンションが上がりまくりだった。
しかし同行する使用人、侍女やメイドの表情は暗い。
何せ花の都からいきなり最果てのサンウエストへ行かなければならないのだ。しかも私は六歳になったばかりだが、侍女やメイドは下は十六歳から上は二十三歳と、まさに妙齢である。それなのにこれから十年近く、山の中のポツンと一軒家の屋敷で過ごさなければならない。素敵なブティック、オペラを上演する劇場、レストランも半日がかりで移動して街まで行かないと楽しめないのだ。彼女たちが暗い表情になっても、仕方ないと思う。
私は使用人は現地で雇えばいいのでは?と思ってしまったが、両親は違う。特に母親がこう主張した。
「現地の使用人では、マナーや礼儀作法が、首都とは比べものにならない可能性があります。お義父様のところから戻ったら、山猿のような令嬢になっていたら困るんです! そのため、使用人は首都から連れて行かせます。お義父様にもそこは受け入れていただくよう、あなたからもそこはきっちりお伝えください!」
この母親の剣幕に押され、父親は慌てて祖父に連絡をとり、使用人たちにはとんでもない額の給金が提示されている。この額を見て、断る者はいなかった。しかも婚約者のいる未婚の使用人には出発前に婚姻を勧め、お祝い金も渡しているのだ。さらに婚約者のいない使用人には、相手を紹介し、公爵夫人の名の元、スピード婚約を成立させていた。
ここまでされたら大喜びかというと、違う。やはり遠距離はつらい、しかも十年は長い、デートもできないなんて……ということでみんなの表情は冴えない。それを見ると私は申し訳ない気持ちになる。
母親が懸念している山猿令嬢になるつもりだが、使用人たちを思うと、マナーや礼儀など一通りはちゃんと身に着けようと思わずにはいられない。第二王子の前では、婚約者に選ばれないよう、山猿令嬢になる。でも普段はちゃんと公爵令嬢でいようと誓うことになった。
こうして汽車の旅を続け、遂に祖父の暮すサンウエストの地に到着した。
お読みいただき、ありがとうございます!
海賊王ではなく、山猿令嬢になる決意をした私。
さあ、どうなるのか!?
もう1話更新します!
続きが気になる方はブックマークや☆で応援していただけると励みになります☆彡
よろしくお願いします!