悪役令嬢にはなりたくない
悪役令嬢アドリアナ・セレネ・サンフォード。
サンフォード公爵家の長女であり、年の離れた双子の兄がいる。その二人の兄は英才教育を受けるべく、規律とその水準が国内随一の寄宿学校に入学。公爵邸にいる子どもはアドリアナだけとなり、しかも女児なのだ。両親は蝶よ、花よと娘を溺愛し、惜しみなくアドリアナのためにお金を使う。
その結果、アドリアナはクロノス王国で最高のレディへと成長する。
艶のあるストレートのシルバーブロンドは絹糸のようであり、その瞳はまるでルビー。新雪のような肌にバラ色の唇と頬、小顔で細い手足で、ウエストはくびれ、バストは見事なお椀型なのだ。どんなドレスを着ようとパーフェクトの抜群のスタイル。さらにマナー、礼儀作法、ダンス、刺繍、音楽、絵画などの教養を一通り身に着けた才女でもある。
こうなると周りもちやほやするので、アドリアナは性格がやや難ありになってしまう。
つまりアドリアナは、大変プライドが高い令嬢として育ってしまうのだ。
それでも彼女は公爵令嬢。プライドが高くても当然という風潮があり、周りもそれを許す。やや難ありだが、それ以外が素晴らしいこともあり、この国の第二王子の婚約者に選ばれるのだが……。
そこがいけない。そこがアドリアナの転落人生=悪役令嬢人生の始まりとなってしまう。
乙女ゲーム『碧色のセレナーデ』には、三人の攻略対象がいる。この国の第二王子、宰相の嫡男、幼なじみの公爵家の嫡男の三人だ。いずれかを攻略すると、新たに攻略対象が一人追加され、またも三人から一人を選び攻略ができるシステムになっていた。勿論、先に攻略した相手と溺愛ルートを進むことも可能だ。そして悪役令嬢であるアドリアナは、ヒロインが誰を攻略しようと邪魔をする存在だった。
そう、邪魔をする。その邪魔をする原動力は、彼女のチョモランマよりも高いプライドの高さにある。
第二王子の婚約者となったアドリアナは、自身がもう王族の一員気分であり、権力のトップに自身も君臨していると思うようになる。そんなアドリアナの婚約者である第二王子にヒロインが手を出したら……。
許すわけがなかった。
そのヒロインは男爵令嬢であり、しかも両親は元平民なのだ。実業家として財を成し、男爵位は金で買ったと言われている。ようは社交界で成金男爵の娘とささやかれているのが、ヒロインだった。
そんなヒロインに第二王子は同情し、二人は許されない恋に落ちる。
「ダメだ。僕には婚約者がいる」
「そうですよね。私は身を引きます」
「マーガレット……。! その手はどうしたの!?」
「あ、これは……何でもないです」
「何でもないわけがない。どうしてそんな怪我を?」
「実は……」
この世界で一番プライドの高い公爵令嬢として育ってしまったアドリアナは、お金で手に入る男爵位を蔑んでいた。ゆえに「男爵なんて貴族に非ず」と、まるで前世の「平家にあらずんば人にあらず」的な思考をするようになっていた。
その男爵令嬢に婚約者である第二王子が心を奪われたのだ。許せないとなり、男爵令嬢……ヒロインへの嫌がらせを行う。そしてそれは事故だった。アドリアナも第二王子もヒロインも、クロノス王立学院に通い、そこで顔を合わせることになるのだが、その授業の一つの「お茶会」。生徒がホストとゲストに別れ、マナーや礼儀を実地で学ぶ。
ヒロインがホストとなり、アドリアナはゲスト。ヒロインが用意したお茶を一口飲むなり「こんな風味も香りもない紅茶なんて、飲むに値しませんわ!」とティーカップを床に叩きつけてしまう。ヒロインとしては、精いっぱいの茶葉で用意した紅茶だったが、なにせ常に最高級品を口にしているアドリアナからすると「まずい。いつもの紅茶と全然違う」だったのだ。
そこは二人の立場の違いを考え、ヒロインがホストのところへ、アドリアナをゲストに割り当てなければいいのに……と思ってしまうが、そうしないと乙女ゲームの意味がない。ヒロインが攻略対象に選んだ男子との好感度。それがこのお茶会イベントで、急上昇するのだから。
この時、ゲームでは選択肢が登場する。『割れたティーカップ、あなたはどうする?』という問いに対し『1.自分で片付ける 2.メイドに片付けてもらう』という二者択一が提示される。ここで割れたティーカップをメイドではなく、自分で片付けようとすると、ヒロインは手に怪我をする。そしてその怪我に気がついた第二王子にどうしたのかと問われ「実は……」ということで、アドリアナの態度を話すことになるのだ。
これをきっかけにアドリアナのヒロインへの嫌がらせの数々が明らかになり、遂にはお決まりの展開を迎える。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
お決まりの展開といえば……
続きは今晩更新します!
【併読されている読者様へ】第二ラウンド完結!
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』
https://ncode.syosetu.com/n8047kv/
└盤石な生存のために悪役令嬢の私が再び動く!
ページ下部にバナー設置済。一気読みでお楽しみくださいませ。