結果はどうであれ
アンバーは私とのダンスを「……残念ながら及第点にもならないと思います」と言った。
これには私が「どうして!?」と思ってしまう。
アンバーのダンスのリードは、とても上手だった。
ステップのミスもなければ、私の足を踏むなんてこともない。
(それなのになぜ及第点なのかしら……?)
「及第点にもならない……それを自分で言うとは余程ですね」
父親に言われたアンバーは「そうですね」と言い、なぜ及第点にもならないのか。その理由を説明する。
「ダンスというのはステップやターンなどの技術的な面と同じぐらい、表現……表情も重要ですよね。パートナーの表情を僕は引き出すことができませんでした」
「うん。そうですね。わたしたちは君たちのダンスを見ていましたが、そつなく踊っている感じでした。技術面で問題はないに等しい。だが娘はダンスの最中、心があの場になかった。真剣に何事かを考え、義務的に体を動かしているような状態に見えました」
これには私が「あっ……」となる。
アンバーのリードは完璧で、私はその動きに合わせればよかった。流れていた曲もポピュラーなもので、ダンスの練習で何度も踊ったこともある。よって……アンバーの激白について考えながら、ダンスをしてしまったのだ。
「確かに考えごとをしていました。でもそれは私がついしてしまったことで、ゴールドウィン子爵令息が悪いわけでありません」
「そうか。ではアドリアナはダンスをしながら、何を考えていたんだい?」
父親に問われた私は「それは……」から先が続かない。
池ドボン事件の勇ましい私を見て、強烈な一目惚れをしたアンバー。でも彼の好きという感情は、不思議な動きをして、私がモテると勘違いし、かつ自分は愛人で構わないと言い出したのだ。
(この件について考えていたわけだけど……それを今、ここでみんなに聞かせるのは……)
「サンフォード公爵令嬢は、僕の言ったことについて考えていたのだと思います。つい言わないでいいことをあの場で話してしまい……。確かにダンスの最中の考えごとはよくないでしょう。でも彼女が考え込むことになったのは、僕のせいです。僕が余計なことを言わなければ、サンフォード公爵令嬢も考え込むことはありませんでした。それを踏まえると、僕はデビュタントのエスコート役には相応しくないと思います」
アンバーの言葉を踏まえ、父親は「ふむ」と頷く。
「何を娘と君が話したのかは……まあここで深く追求することではないでしょう。でも二人ともよく分かったと思います。ダンスの最中に考えごとは好ましくない。二人とも今後はそこを注意するといいでしょうね」
「はい、お父様」
「分かりました、サンフォード公爵」
「ということでゴールドウィン子爵令息、君は……」
「はい。サンフォード公爵令嬢のエスコートとダンス、それは僕以外のメンバーでお願いします」
この結果にみんなの心の中には、様々な思いが交錯しているのではないか。
誰かが私をエスコートし、ダンスをしている時。
残りのメンバーは控え室で待機なのだ。他のメンバーがどんなエスコートとダンスをしているのかは分からない。よって父親がこの場で話すことで、自分以外のメンバーの様子を知ることになるのだけど……。
ジャスパーとアンバー。二人とも自らエスコート役に相応しくないと宣言している。
セーブルと美青年リアス。今、二人は自身のエスコートとダンスを振り返り、心配になっているのではないか。自分はどうだったのか、と。
「では続けましょうか。……みんな、チェリータルトを食べる手が止まっていますね。我が家のチェリータルトはとても美味しいから、ぜひ食べてください」
父親の言葉に私も含め、みんなチェリータルトを頬張ることになった。
酸味はわずかで、肉厚な果肉と甘味が、口の中いっぱいに広がる。サクサクの生地と天然の甘味に、みんなの口から「旨いです!」「美味しい!」の声が上がったところで、父親が話を再開させた。
「セーブル・ブラックウッド侯爵令息。君は娘をエスコートして、ダンスをしてどうでしたか?」
「……ご覧いただいてお気付きかと思います。自分、家族でも女性は母親だけでして。五人男兄弟なんです。しかも幼い頃から、家に出入りする父親の部下である騎士たちと仲がよく……。女性のエスコートは下手くそです」
「……ではダンスの方は?」
セーブルは頭をかきかき、答えることになる。
「ダンスは自分の動きの正確性を追求し、肝心のパートナーのリードが疎かでした。今の自分ではとてもサンフォード公爵令嬢のパートナーは務まらないです。……テールコートも用意できず、それなのにこのプレデビュタントに参加して……自分が甘かったと思います」
そこまで言うとセーブルは顔を赤くしながら言葉を口にする。
「そんな自分でしたが、サンフォード公爵令嬢は励ましの言葉をくれて……。もっと、もっとエスコートもダンスもちゃんとできる人間になりたいと思いました。自分は今回、選ばれる立場にないと思います。でもプレデビュタントに参加させていただき、ありがとうございました」
深々と頭を下げるセーブルを見て、父親も笑うしかない。
「君自身にとって成長の気付きになったのなら、結果はどうであれ、参加した意味は大きかったのでしょうね」
そう言った後に、父親は改めて背筋を伸ばす。
「さて。残りはリアス・テゼ・レイノルズ侯爵令息、君だけとなりました。君だけだからと、合格にするつもりはない。ダメだったらダメと、今回のプレデビュタントから選ばれる一人はいなかった――そうするつもりですが……君はどうでしたか? 自信のほどは?」
お読みいただきありがとうございます!
お父様、厳しいっ!
どうなるの!?
続きは今晩公開です~



























































