どうやらここは
輪廻転生のサイクル、それがどれだけのスパンなのかは分からない。個人差もありそうだ。しかし死亡したかもしれないと思い、目覚めたらもう赤ん坊というスピード感。これにはただただ、ビックリだった。
しかも中身はアラサー、体は赤ん坊というギャップ。
ありとあらゆることが自分の思い通りにならず、非常に苦労することになる。
何せ言葉が分かるのに、話すことができず、メイドや乳母、両親に自分の意志を正しく伝えられないのだ。これには非常に苦悶する。
それに何気に辛いのがトイレ! この世界、水洗トイレはないがレストルームがあり、そこに汲み取り式トイレがあるのだ。尿意を感じ「レストルームに行きたい!」と思うが、赤ん坊の体ではどうにもならない。
オムツがじわっと温かくなる感覚に「お漏らしをしてしまった」という羞恥に苛まれるのだ。赤ん坊なのだから、これはお漏らしなどではなく、通常の現象。でも中身はアラサーである。
(この年齢になってお漏らしなんて!)
そんなふうに恥じることしばし。
あとは集中して考え事をしたいのに、映画一本分ぐらいしか起きていられず、眠ってしまうところ! 昼間起きている時間がないわけではないが、ミルクや離乳食を取ったら、ウトウト。二時間程度起きていたら、またウトウト。
言葉が通じない、トイレ問題、集中時間が短いなどのジレンマが重なっている。そのせいで、アニメかゲームの世界に転生したとは思っていたが、ではその作品は何であるのかを、なかなか突き詰めて考えられずにいた。
それでも瞳がルビーのような色であり、自分の名前がアドリアナであると分かり、さらに抱っこされ、窓に映る髪色を見て悟った。
(あっ、私、アドリアナ・セレネ・サンフォードだわ!)
私は前世で最期の時、「助けて……」と願った。
願った……念じたにも近い。
その時、手を伸ばしていたのは、スマホだ。
生活の中心にいつもあるのがスマホだった。
買い物も、動画を見るのも、友達との連絡も、全部スマホで行なっていた。そしてハマっていた乙女ゲームもスマホのアプリ。
そう、そうなのだ。
私が転生したのは乙女ゲーム『碧色のセレナーデ』の世界だったのだ。そしてアドリアナは、なんと悪役令嬢!
乙女ゲームをプレイしている時、私はヒロインだった。ヒロインとしてゲームで遊んでいたのに、なぜに悪役令嬢への転生!?とは、どうしても思ってしまう。
しかし納得もできてしまうのが悲しいところ。
だって冷静に考えても、前世で私はヒロインだったかと言うと……。
学校でクラスの中心人物だったわけではない。仕事で注目を集めるバリバリのキャリアウーマンだったわけでもなかった。
ようはそもそもヒロイン気質ではなかったのだ、前世の私は。どちらかというとその他大勢、モブだったのに、悪役令嬢という名前があるキャラに転生できただけでも僥倖だと思う。
ということで「なぜ私が悪役令嬢!?」と考えたのはほんの一瞬で「仕方ないわね」と受け入れることになる。
本来ならこの後、自分が悪役令嬢であることを踏まえ、行動開始になるはずなのだけど……。
赤ん坊時代は、本当に脳の理解と体の動きが一致せず、非常に苦労することになる。悪役令嬢に転生していると分かっても、赤ん坊にて何かするは無理ゲーだった。
(もう少し体が成長しないと、何も出来ないわ。今は我慢の時ね)
こうして私は自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したものの、静観することになる。
だが年齢を重ねるうちに、考えたことと行動が一致してきた。それでも中身アラサーにはまだまだ追いつかない。言葉遣いもたどたどしいし、手を伸ばしても届かないものが多い! それでも自分が生き残るために、奮闘することになる。言葉を話せるように、必死で発音の練習をして、身体能力が向上するよう、運動をするようにした。
「ねえ、あなた、聞いて。アドリアナはすごいのよ。バード伯爵夫人の離婚裁判の新聞記事。アドリアナは音読したの。しかもどんな裁判だったのか、私に教えてくれたのよ」
婚約破棄されてもただでは起きない。とことん争ってやると思い、法律の知識を身に着けるようにしていた。ただまだ私は五歳。母親が驚き、父親に報告するのも当然だった。
「それはすごいな。アドリアナは将来法律家になりたいのかな?」
「もう、あなたったら! アドリアナは公爵令嬢なのよ。法律家になんて、なる必要はないわ。この子に必要なのは、素敵なレディなるための淑女教育よ。アドリアナも来年は六歳になるでしょう。マナー、礼儀作法、ダンスの基本練習はそろそろ始めた方がいいと思うの。それに刺繍、音楽、絵画などの教養についても学び始めるといいと思うわ」
「そうか。では君の方でもアドリアナに最適な家庭教師探しを始めて欲しい。わたしの方でも手配しよう。テレサ子爵夫人は、第三王女様のマナーと礼儀作法を担当している。彼女に声をかけるのもいいかもしれないな」
(私が悪役令嬢にならないために、マナー、礼儀作法、ダンス、刺繍、音楽、絵画などの教養は必要なのかしら? それよりは法律の知識、サバイバル術、剣術、乗馬のスキルを上げた方がいい気がするわ)
そこで私は「あっ!」と名案を思い付く。だが両親は絶対に反対するだろう。そこで間もなく六歳になるが、中身がアラサーの私は、効果的な人の使い方を知っていた。
「この手紙をお父様やお母様には見られないようにして、郵便に出して欲しいの。御礼にこのブローチをあげるわ。パールとゴールドがついていて素敵でしょう? 失くしたことにするから、お母様にはバレないわ。隣街で換金すれば、足はつかない。あ、それと昨日の夕方、御者のジョナサンとあなたが納屋で何かしていたことは……メイド長には話さないでおくわね。使用人の男女が親密になり過ぎるのは、ダメなんでしょう?」
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『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』
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