この一年で
「なんだ、なんだ、あの時の美少女と、泣き虫の弱虫がこんなところで何をしているんだ? ひ弱なガキが、まさかデートか? 生意気な!」
今まさに私が「泣き虫モブ令息の汚名は返上」と思った瞬間に、それを否定するような声をかけてきた人物がいる。
片眉をくいっと上げ、声の方を見ると……。
声をかけてきたのは、赤毛の短髪で、少し吊り上がったチョコレート色の瞳の少年だ。勿論、知った顔だ。黒シャツにワイン色のベストにズボンと、ちょっと気取った服を着ている彼は、ジャスパー・レッドシーク! 美少年リアスから聞いた情報では、彼は法務大臣の次男だった。
そのジャスパーの右隣にいるのは、ブルーブラックの襟足の長いワイルドヘアに、黒曜石のような瞳の少年。彼のこともよく覚えている。少しオオカミっぽい彼は、騎士団の副団長の三男で、その名はセーブル・ブラックウッド! 白シャツに黒ズボンだが、シャツのボタンを三つも開けて、セクシーアピールに余念がない。
ジャスパーの左側には、長髪のブロンドを右肩の辺りで束ねた琥珀色の瞳の男子。美少年リアスから聞いた情報では、彼はクロノス王立アカデミーの学長の嫡男。その名はアンバー・ゴールドウィンという。白シャツにベージュの麻のジャケットとズボンと、今日もインテリ風であるが、間違いなく話し出したら辛辣なはず。
つまり私たちの目の前に現れたのは、王家主催のお茶会で、美少年リアスをいじめていたモブ令息三人組だ!
まさかこんな形で再会するなんて。カミュ第二王子とは会うことはないのに、モブとまたもや相まみえるとは驚きだ。
結局あの日のお茶会では、カミュ第二王子に山猿令嬢ぶりを上手く披露できなかった。そのことで何か起きて、彼と再び会うことになる……そう考えたが、何もなかった。
(何もなかったわけではないわね)
国王陛下夫妻からは、蜂の件で御礼状が届いたのだ。危険をいち早く察知し、みんながパニックにならないよう避難させたことが、素晴らしいということで。おかげで両親からは、突然羽根を持ち出したことについて、何も言われなかった。しかし“ひっつき虫”と呼ばれるオナモミをカミュ第二王子につけたことは……当然怒られた。しかもホールから姿を消したことも、かなり注意されたのだ。というのもカミュ第二王子が私とダンスをしたかったらしく……。
これを聞いた時は、後日何か起きるかとヒヤヒヤしていた。でも特に何もなく、一年が過ぎている。噂ではあの後、令嬢の何人かを招き、カミュ第二王子を囲んだお茶会があったという。そのお茶会はカミュ第二王子の本人の意志よりも、国王陛下夫妻の意向が反映されていたとのこと。それを聞いた時、私は「ひゃっほ~い」と喜び、両親は落胆していた。カミュ第二王子には私の不可解な笑顔は届かなかったが、国王陛下夫妻にはささったようだ。しかもオナモミを投げつけた話も聞いているだろうし、「息子の婚約者には相応しくない」という判断がなされたのだと思う。
できれば後日行われたお茶会に招待された令嬢の中から、カミュ第二王子の婚約者が決まって欲しい。ただ、彼の婚約者が決まるのは、クロノス王立学院に入学して以降なのだ。水面下で話は行われるのだろうが、デビュタントで彼がプロポーズして、即婚約の流れはきっとゲーム通りだろう。
よってその後のお茶会に呼ばれていないからと、気を抜くことはできないでいた。
ということをモブ令息三人を見て瞬時にこの一年間を思い出しながら、口を開くことになる。
「まあ、あなた達はあの日、ロープを蛇だと信じ、背中を見せて逃げだした令息三人組ですね!」
これを聞いた三人の令息の顔色が変わる。
「背中を見せて逃げた」とは、臆病者や腰抜けに匹敵する言葉だった。私がこんなキツイ言葉を口にしたのは他でもない。美少年リアスのことを「泣き虫の弱虫」「ひ弱なガキ」「生意気な!」と言ったのだ。
確かに一年前の美少年リアスはその通りだったかもしれない。でも今は違う。彼はこの一年で大きく成長したのだ。それは身長や体重の変化もあるが、体力や武術や馬術の腕も上げている。モブ令息三人に揶揄されるような存在ではもうない!
「お前、綺麗だからって偉そうにするなよ。俺の親父は法務大臣なんだぞ! お前のこと、罰してもらうぞ!」
(笑止! まさに虎の威を借る狐ね!)
「法務大臣のご子息なら、法律をご存知ですよね? 今の私を罰する法律はないです。名誉を汚したと決闘をしたいと言うなら、受けて立ちます。ですがあなたがレイノルズ侯爵令息のことを、『泣き虫の弱虫』『ひ弱なガキ』『生意気な!』と罵ったと、みんなが知ることになりますよ?」
これを聞いた赤毛短髪のジャスパーは顔を赤くして私に殴りかかろうとした。「綺麗でも生意気な女は嫌いだ!」と怒鳴りながら。
すると美少年リアスが素早く動き、両手を広げ、自身の背に私を庇った。
「女性や子どもに手を出すなんて! 恥を知れ!」
「背中を見せて逃げた」に匹敵する辛辣な言葉「恥を知れ!」を美少年リアスが口にしたことに、心の中で拍手喝采。一年前の彼だったら、こうは動けなければ、こんな言葉を言うことはできなかったはず。
(ジャスパーはこれには驚いたのでは!?)
だがジャスパーは、今の言葉が「火に油を注ぐ」であることを示すような勢いで、拳を振り上げた。
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た、大変なことに!どうなるの!?
明日もまた2話更新します!
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