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第1話『未知との遭遇』

 深淵の宇宙に広がる恒河沙の星々は七色の光を放ち、天の川銀河の大パノラマは生命の恵みを讃え燦々と輝く。

 地球の稜線を滑るようにスペースシャトルが進む。雲海は天女の羽衣のごとく地球を包み、海原からの白銀の反射光が機体を照らしあげる。翼には星条旗が刻まれ、世界一の軍事国家の権勢と技術力を象徴していた。


 天を無数の岩塊が塞いでいる。


 数週間前。探査機はやぶさ2の接触した小惑星が人工物である可能性が高いとの一報が首相官邸からホワイトハウスにもたらされた。物部泰三内閣総理大臣とロナルド・J・ジョーカー大統領との協議は日米二ヵ国による主導権の確保で一致した。両首脳共に議会、国際連合安全保障理事会、そして何より国民に報告するべきであるが、彼らは強権的な政治家である。予想される世論の紛糾を煩わしく思い、小惑星の正体は伏せていた。

 それでも、徐々に地球に接近する小惑星は世界中の天文学者の知るところとなり、老若男女が関心を寄せている。


 首相官邸内閣危機管理センターにも中継される中、ホワイトハウス地下に設けられた本部にてジョーカーは泰然と上座に構え、マイクを手元に引き寄せる。


『こちらスペースシャトルエンタープライズ。ご覧の通り小惑星は瓦解し、岩塊の中から円盤が現れました。やはり小惑星に偽装した地球外生命体の宇宙船でした』

 宇宙飛行士の眼前には黄金の円盤が輝く。

エンタープライズの観測では直径千二百メートル。下部には円環状に十二個の球体が埋め込まれており、外壁構造の隙間から光が漏れる。幻想的な光景に、物部は魂を持って行かれそうな錯覚を覚えた。

『こちらジョーカーだ。エリア51とリンクし、全周波数でエイリアンとの交信を図れ』

 宇宙研究機関のコンピューターに接続し電波を送信した、その時だった。


 閃光を放ち、円盤下部球体が弾け飛んだ。


『まずい、エンタープライズにも接近します!』

 爆発音と共に乗組員が叫ぶ。機内は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

『畜生! 奴ら何かぶつけてきやがった! 機体が破損、空気が吸い出される……』

『大統領閣下、我々ももうこれまでです。敵は纏っていた岩塊を操り武器にしています、今、こちらに何発か撃たれました。合衆国に仕え、このような重要な任務に携われたことは私の誇りです。どうか家族に伝えてください……』

『俺はそんなこと伝えんぞ、自分の口で言え──』


 ジョーカーの言葉は爆発音により遮られた。管制官がジョーカーを見上げ、首を振る。 

 この瞬間、地球外生命体とのファーストコンタクトに臨んだ乗組員の尊い命が宇宙の塵芥となったのだ。物部とジョーカーは彼らの死に際を想像し、戦慄した。


 ゴードン首席補佐官が歩み寄る。

「大統領閣下! いくつかの軍事衛星との通信が途絶えました。国防総省からの報告では円盤から放出された球体は散開し世界各地に向かっているとのことです」

「……マルヂネス国防長官、この状況をどう見る?」

「計画的かつ巧妙な軍事行動です。円盤が纏っていた岩塊は隠れ蓑であったと同時に、投擲武器でもあった訳で、上陸に先んじて岩塊で我々の戦力を叩くつもりでしょう」

 元海兵隊大将である叩き上げの国防長官の分析に、日頃尊大な物腰のジョーカーですらおののいた。

 マルヂネスは続ける……

「今、人工衛星に円盤からハッキングが行われているとの報告が入りました」

「これを国連安保理に報告する! タイゾウ、安保理議長国として根回しを頼んだぞ」

『分かったよロナルド。……幸運を』


     *    *


 日本国内閣総理大臣にして政権与党保守党総裁である物部泰三にとって、ここが正念場であった。

「総理。本日公共放送で収録が予定されていた労働党蘇我中央委員長とのテレビ討論はキャンセルとし、これより危機管理センターにて国家安全保障会議を始めさせていただきます」

「えらいことになったな物部ちゃん。俺にはよくわからねえが、若い連中は物珍しさで逃げることなくSNSに写真を投稿しまくっているぞ。評価してもらえるんだろうが呑気だな」    

 羽賀信義内閣官房長官の声に被せ、八十近い青梅一郎副総理兼財務大臣がだみ声で語りかける。


 危機管理センターに踏み入ると、主だった閣僚らが起立した。周囲には各省庁から緊急参集された局長級の官僚が控える。自衛隊幹部の迷彩服姿が目立ち非常事態を実感させた。その中にあって迷彩服ではなく制服姿の老将が歩み寄り物部に敬礼した。


「統合幕僚長の高倉です。これより官邸に詰め総理と共に対応にあたらせていただきます。防衛省の荒垣大臣と繋ぎます」

 モニターの一部が切り替わり、防衛省中央指揮所とのテレビ電話の回線が開かれる。

「防衛大臣、状況の説明をお願いします」

 荒垣健防衛大臣は四十二歳と政治家にしては年若い。きりりと引き締まった顔つきの彼は航空自衛隊F15戦闘機パイロットの出身であり、決断力にあふれた男だ。

「はい。円盤は子機を世界各地に差し向けたのち太平洋に降下。日本に近づいています。既に偵察のため、陸上自衛隊より戦闘ヘリコプター、航空自衛隊より戦闘機をスクランブル発進させております」

 高倉が口角を上げた。

「さすが荒垣大臣、心強いですよ」

 本職とだけあって荒垣は要領が良い。


 正義感と情熱にあふれる荒垣は国のため身を粉にして働く決意であったが、一公務員としての限界を感じて政界に転身。盟友と共に野党改新党を結党。物部に防衛大臣としての入閣を要請された。


 物部が頷くと、閣内最年少で抜擢された青年環境大臣大泉進太郎が立ち上がる。

「国内の原子力発電所の運転停止を命令しましょう。原発は格好の標的になります」

「任せます。それからジョーカー大統領から、ゴードン補佐官とマルヂネス国防長官が円盤への核攻撃を検討しているとのリークがありました。このことも環境大臣から極秘裏に防衛省と原子力規制委員会に伝えてください」

「ふざけやがって。日本を何だと思っていやがるんだ」

 米軍の横暴に青梅は毒づく。それに同情しつつも羽賀は物部の補佐に徹した。

「では総理。これより内閣総理大臣を本部長とする武力攻撃事態対策本部を設置します。私は記者会見を行います」

 羽賀は部下を連れ立ち一階に上がった。


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