【前編】殿と不良
現代語まみれですが、歴史物です。
よろしくお願いしますm(_ _)m
武士の言葉づかい、よく分からなくて……
◆
古い知り合いに、いつも酔っ払っている男がいた。
「1699年7の月、天より恐怖の大王が……」
そんな妄言をしつこく垂れ流しながら、彼は人を斬り殺し、死んでいった。
◇
私は源長矩。播州赤穂を治める大名だ。
といっても、本名で呼ばれることはまずない。武家社会は「源さん」だらけだからだ。
だから周りには、“浅野内匠頭”と呼ばれている。是非覚えてもらいたい。
今日も江戸城に出張して、将軍様にお会いした。駕籠に揺られて帰る途中、その様子を思い出していた。
「――次。浅野内匠頭、前へ」
「はっ」
呼ばれて、作法通りに進み出た先で。
今の将軍様は50代。そんな爺に褒められたり、訳分からん訓示を受けたりした。
「よぉやっておるな。時代は多様性じゃぞ、これからも励め。あと熊猫はいいぞ」
「ははーっ」
多様性とは何だ? そして熊猫とは?
猫はともかく、熊の何がよいのか。
……まさか「かわいい」とでも言うのか? あの猛獣を。
ハハハ、さっぱり分からない。さすがは天才犬公方。
……ああ、意味不明といえば。前の将軍も、
「みんなで個性を伸ばしましょう」
とか言ってたな。あれ、どうなったんだろう?
(やれやれ、今夜も眠れなさそうだ……)
などと考えていたら、急に駕籠が止まった。屋敷まではもう少しかかるはず。
何事か?
「殿、今よろしいですか?」
駕籠の外から、秘書が声を掛けてきた。
窓を開けてやると、見慣れた美少年がそこにいる。
「構わん。どうした?」
「例の奴どもが酒を飲み、乱闘。道を塞いでおります」
「はぁ……またアイツらか。で、どうする?」
「他の道を探らせております。少々お待ちを」
「分かった。よろしく頼む」
「はいッ!」
やれやれ。相変わらず、奴らの考えはよく分からん。
天下の往来に屯して、一体何がしたいのか? こちらにしてみれば、ただただ邪魔で煩いだけだ。
「Boom-Boom-Boom! Boooooom!」
「ぱらりら、ぱらりら~」
「退け退けぇ~い! 退け退けぇ~い!」
いやマジでうるせぇ。何言ってんのか分かんないし……
早く何とかしてほしい。
だが残念、奉行所は人手不足。さて、今日はいつ帰れるやら……
というか、そもそも幕府自体、人が足りていない。軍事政権の悪いところだ。
足らぬ足らぬは夫が足らぬ。小手先の工夫では、とても間に合わん。だか偉い人には、それが分からんのだ。
……いや逆か。たぶん、分からんやつほど大出世するんだ、“工夫”で乗り切れるから。
それが「優秀」ってことだ、たぶん。めいべー。
そんで、
「根性見せろ」
「これくらい誰でもできる!」
などと言って、無茶苦茶するのだ。
挙句、失敗したら
「ついて来れない無能どもが悪い!!」
で片付ける。
お気楽な商売だなぁ――と言いたいところだが、違う。諸刃の剣だ。
だって世の中、その“無能”のほうが多いんだもの。俺だってそうだし。
それを自分から敵に回すんだから、そりゃあもう、大変なお仕事だよ。
最悪○されるし。大変だぁ。
◇
秘書が戻ってきた。
「ダメです。近場の道は他所様の行列で塞がっております!」
「やっぱり……」
「それから、やっと奉行所が動いたようで……あっ、今来ました!」
……うん、たしかに前方が騒がしい。
「ウゥ~~~~~~……」
「逢坂や! 早よ出てこんかい !! 」
「オラもてなさんかい !! 」
「は? 何だやんのか手前ら !? 」
…………………
……………
……
パッと聞いただけでは、どっちがどっちか分からない。そんな奇声と罵声が飛び交う。
なぜこうなるかというと、幕府が人手不足だからだ。
◆
一口に“奉行所のお役人様”といっても、色々いる。現場で犯人捕まえたりしてくれるのは、長官ではない。大体下っ端だ。
彼らは正社員の“同心”と、非正規の“岡っ引き”に、大きく二分される。
そして、同心の指示で岡っ引きが動く。これが基本だ。
すると、一番危ない岡っ引きは、誰もやりたがらない。そこで奉行所は「釈放された元犯罪者」を、岡っ引きに仕立てているのだ。
結果、街の声はこうなったらしい。
「犯罪者と一緒にされたくない」
「いけません! アレは社会の底辺がする仕事です。あなたには務まらない」
「……俺でいいの? へへっ、儲け」
…………………
……………
……
岡っ引きは印象が悪くて、ますます成り手がいなくなっている。だからって、どうしようもないけれど。
◇
結局、屋敷に着いたのは日が暮れた後。まだ明るい、八つ時に帰ったはずなのにな。
はぁ……さっさと寝るか――――
お読みいただき、ありがとうございます。
まさかの「つづく」……
【後編】は今夜投稿予定です。ゆるゆるお待ちくださいm(_ _)m
※この物語はフィクションです。真に受けないでください。
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/21)