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おまけ②(ケイン視点)

あの日、俺は期待を抱いた。




今よりも昔、十にも満たない子供の頃、母から告げられた言葉に俺は絶望した。


『ケインは私達の子供ではないの』


どうして俺は母にも父にも似ていないのか。

拾われた子供ではないのか。

見た目なんて気にしたこともなかったのに、同じ年頃でたまに遊ぶ友達に言われた言葉がどうにも気になった。

そして俺は、その日の夜母に尋ねた。

母は困ったような表情を浮かべ父を見る。

父は俺に何故そんなことを尋ねるのかと事情を聞いた。

俺は遊んでいた友達に言われたと正直に話すと、父は随分悩んだあとに母を見て頷いた。

母は渋りながらも答えてくれた。

そうして俺は母から真実を教えてもらったのだ。


母は本当は貴族の娘で、侯爵家のメイドとして働いていたこと。

俺がその侯爵家の子供であること。

だが俺の黒い髪の毛と、眉唾ものな迷信めいた話を信じた本当の両親に殺されそうになったこと。

母は虚偽の報告をしたあと、俺を連れてメイドを辞めたということ。

そしてメイド時代に付き合っていた父と結婚し、俺を育ててきたということ。


俺は愕然とした。

血の繋がった本当の両親から殺されそうになったということもそうだが、俺にこんなにも愛情を注いで育ててくれた両親との間に生まれた子供ではないということが、本当にショックだったのだ。


だけど


『でもね、血の繋がりがなくてもケインが私達の子供だということは変わらない。

だってわたしたちは貴方をこんなにも愛しているんだから』


そう告げた母の言葉に、微笑みに、俺は救われた。

母も話すことが辛かったのか、涙を堪えながら最後は震える声で話していたことを思い出す。


そして


『俺達の息子はお前だけだ。

俺達の元に来てくれて、ありがとうな』


そう言った父の言葉に涙した。

俺だけでなく家族三人が涙を流した。


だから


ああ、血の繋がりがなくても、俺は二人の息子でいいんだ。


心からそう思えた。




そして俺は成長すると一人の貴族と出会った。

本来ならば平民が貴族と出会う機会なんてないに等しいが、父が商人ということもあり、貴族との付き合いがあったのだ。


ちなみに貴族の家に売り込みにきた父と、対応したメイドの母はそうして出会ったらしい。

俺を連れて逃げたという形になっていた為、実家にも帰れず困っていたところに結婚しよう。君は俺が守る。と提案した父と籍を入れたと言っていた。

まだ令嬢で子爵家の娘だった母が知らなくても、父は貴族のことに詳しく、貴族殺しという罪が侯爵家には適用することを知っていたのだ。

それに商人の父は色んな貴族と懇意にすることで、ある程度の繋がりがもてる。それはいずれ俺が生きていることがバレても強みになるだろうと考えていた。

悪く言えば母の弱みにつけ込んだ形だが、元々母と父は付き合っていたのだし、ここだというところでプロポーズしただけだ。

それに貴族相手に強気の姿勢で挑もうとする父の姿はたしかに頷いてしまうほどの魅力がある。

子どもの俺がそうなのだから、母はもっとそう思っただろう。



そんな俺はある日父についていき、貴族の家に訪問した。

ここでいっておくが断じて母が勤めていたディオダ侯爵家ではない。

だがそこに俺の兄と言える存在がいたのだ。

おそらくここは兄の友人の家だったのだろう。

しかし兄であるクズールは俺の存在を知らない。知らないはずだ。

だが、兄についていた護衛が俺に気づいた。

あのときの赤子が俺と気づかなくても、俺の髪の色で気づいたのだろう。


『弟よ、僕のもとに来るがいい』


そう言って手を差し伸べる兄は爽やかな笑みを浮かべていた。


もしかしたら兄は両親のように、どこから伝わってきたのかわからない迷信を信じる者ではないのだろうか。

だから俺のことを弟といい、そして手を差し伸べたのかと、そう思った。


父も母も、兄が両親を説得し、俺が本来の場所に戻れるのならと背中を押してくれた。

本当は父と母の元から離れたくなかったが、血の繋がった本当の両親に会ってみたいという願望が少しだけあったのだ。


そして俺は兄の手を掴んだ。

ここが失敗だったのだ。

俺も父も、そして母も、誰一人クズールの人となりを知らなかった。


俺は侯爵家に着く前に古臭い、今では誰も着ないような甲冑を身につけるように指示された。

そして誰にも顔を見せるなと、そう言われた。


おかしいと思った。

だけど、今は伝えるべき時ではないからかもしれないと思い直した。


そして次におかしいと感じたのは精霊だ。

王都の町中にいる精霊たちは楽しそうに飛び回っているが、侯爵家にはほとんど姿が見えなかったのだ。

だが精霊はどこにでもいるものではない為、そんなものなのだろうと思い直す。


それから兄は甲冑を着たままの状態で俺に騎士訓練を受けることを強要した。

キツイといわれる訓練に重い甲冑を着てだなんてありえないと反論しても、俺の身分は平民。通るわけがなかった。

耐えて耐えて、そしてある程度体が作られてくると兄の"遊び"に付き合わされた。

それは互いの護衛騎士同士を戦わせるというもの。

何が楽しくてやっているのかなにもわからなかったが、相手の騎士も弱みを握られているかのように切羽詰まったような本気具合だった。

その"遊び"に付き合わされるたびに俺は死を感じた。

当たり前だ。真剣を使っているのだから。

たとえ全身が守られている甲冑を着ていても、関節などの隙間から攻撃されては甲冑の意味がない。


そんな日を繰り返し、遂に兄が学校を卒業した。それと同時に"遊び"がなくなった。これだけは本当に嬉しくて、心の底から安堵した。

そして兄は次期当主となるためいくつかの村を任された。のだが、全く管理している様子さえ見えなかったことが不思議だった。



兄の妻となる女性を見たのは、披露宴が初めてだった。

それは当然だ。兄は全く会いに行かなかったのだから、護衛の俺が会うことも視界に入る機会もない。


そして結婚式中、シンプルながらもレースがふんだんに使われた白いドレスを身にまとった女性に、俺は見とれた。

こんなにも綺麗な人を見たことがなかったのだ。

それと同時にあの女性が兄の妻であることが残念に思い胸を締め付ける。

言うなれば俺は一目惚れをしたのだ。兄の嫁に。


式は滞りなく行われ、その日の夜、俺は痛みを訴える心臓を無視しながら月を見上げた。


(そういえばあの人が来てから精霊が増えたな)


好かれているんだなと、そう思う。

式中、ずっと微笑みを浮かべていたあの人に、好かれない要素なんてないと、そう思った。

そして今頃兄はあの女性と一緒にいるのだろう。

羨ましく思う気持ちを抑えながら月を見ていると、何故か外着姿の兄が現れる。


「外に行くぞ」


短く言われ俺は戸惑った。


「あ、の…奥さ、まは…」


「僕があんな地味な女と過ごすわけ無いだろ!」


そう答えた兄は足早に屋敷を出ていく。


(そうか…、そうか…。

あの人は兄と初夜を行わないのか。兄の言葉からすると初夜だけじゃなくてこの先ずっと共にしないのかもしれない…!)


嬉しさでどうにかなりそうだった。

今までただ重いこの甲冑を不快に思っていたが、このときばかりはにやける顔を隠してくれるこの甲冑に感謝をした。


それにしても兄には地味に見えているのか。

茶色の髪は大地を思わせ、自然を表すような緑色の瞳はとても綺麗なのに。彼女の周りを飛び交う精霊たちも嬉しそうで、それが彼女の心を表しているというのに。

兄には地味に見えているらしい。


(だけど、兄には彼女の魅力が一生伝わらなければいい)


嫁いできた彼女には悪いが、心の中だけでも自由にそう願わせて欲しいと、そう思った。






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