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そしてあっという間に時は過ぎた。


まず侯爵家の資金問題については当面の間大丈夫そうだと判明。

クズがアグリーさんに買い与えた宝石たちは、少し前に流行ったという流行遅れの物もあったが、次流行ると言われているエメラルドが多くあった為だ。

タイミングって本当に大事。

少し早かったら高く売れないし、遅かったら高くは売れていたと思うが、その分出費もしていただろう。


そしたら次に取り掛かるべきことは血縁判定証明書の正確さと需要の証明だ。

貴族の結婚について、正妻に立つ立場の者は純潔が求められるが、側室の立場の者には求められることが少ない。

それは次期後継者を早々に求めているためだ。

だから実際に生まれた子供が父親に似ていなくとも、その子供を後継者として育てなくてはならない。

私はいくつもの茶会に参加し、そのような理由からいい環境で育てられなかった貴族の子供がいることを知った。

だから他にもどのようにして育てられたのか、どのような理由があったのか、また血縁判定証明書が正しいのかを証明する為に様々な茶会やパーティーに出席して統計となるデータを集めた。

勿論、領地で取れるようになった蜂蜜や織物等を持参してである。

その結果、判定は百発百中であること、側室を持たない夫婦も判定証明書を欲していることを知った。

親に似るのなら信じてもらえるが、子供が先祖返りをした場合、どちらの特徴も引き継がない場合があるからだ。

ある女性は言った。「私には旦那様だけなのに、いまだに子が自分の血を引いていることを信じて貰えていない」と。

ある女性は言った。「側室の子供は旦那様に似ていない。他の男の子供ではないのか」と。

私は求めている人たちに協力を仰ぎ、そして集めたデータをまとめ上げ書面にし、証明書の正確さと需要の高さを証明したのだ。



その頃になって、クズが帰ってきた。

キラキラと輝いていた金髪の頭は今ではツヤツヤと輝く地肌に変わったが、それ以外はクズの姿のままだった。

いや、少しだけ私に対する憎悪が増したのかもしれない。

ギロリと睨みつける視線はすぐに逸らされたが、きっと精霊書を危惧したのかもしれないと私は思った。

何はともあれ、精霊書に“プライベートには関わらない”、そして“正妻の扱いをすること”を記入したおかげである。

あのときの私を褒めてあげたい。


しかしながらクズが帰ってきたことで少しだけトラブルが生じた。

ケインがクズに詰め寄られたのだ。

『なんだその姿は!?』と。

元々ケインはクズに命じられて重い甲冑を着ていた。

その甲冑を脱ぎ捨てていたのだからクズが反応するのも当然の事だった。

だから私が言った。

『私が命じたのです。彼はディオダ侯爵家の騎士なのだから、他の者と同じ制服を身に着けるべきだと』

少し口論したが、ケインがディオダ侯爵家で働くことになったのは先代の頃だった為、『では彼がディオダ侯爵の騎士であるのかないのか、お義父様にお話を伺いましょうか』と尋ねるとクズは引き下がった。

父が殺そうとした兄弟を自分が招き入れたことを知られたら、と考えたのだろう。

寧ろそれがバレて困るのは先代の筈なのに、自分に咎があるかもしれないと思ったクズは本当に小さいなと感じた。


ちなみにツヤツヤな頭に変身した為か、それとも資産がなくなったことが恋人さんに伝わったからか、クズがアグリーさんを連れてくることはなかった。

もしかしたら振られたのかもしれない。



そんなこんなであれこれ動いていると、私がディオダ侯爵家に嫁いでから一年が経った。

様子見、という名目で先代がやってくるという手紙を貰った私はとりあえず領地に関しての報告を陛下に伝えるべく登城。

そして遂に離婚の話を切り出した。

勿論陛下に手助けしてもらう為である。


「やっと決めたか」


「はい。そこで恐れ入りますが陛下には…」


「皆まで言わずともわかっておる。そなたには王家の影を付けていたからな。

状況はある程度わかっているつもりだ」


にやりとほくそ笑むような表情を浮かべる陛下に私は目を瞬かせる。

そしてこの一年を走馬灯のように脳裏に思い浮かべた私は頬に熱を感じた。


(この王様はどこまで知ってるのよ!)


まさか、ケインの両親に挨拶をしに行ったことまでも知っているとか?!

やだ!弟やお父様にも話せてないのに!


「それにしても随分色々と動いておったな。

血縁判定証明書といったか、それはそなたの発明品か?」


どうやら陛下は私の結婚報告宣言のことなどどうでもいいらしい。

まず尋ねられたのが私が精霊たちと一緒に作った血縁判定証明書だった。


「はい。その通りでございます」


「ほぉ。それで、そなたはそれをどのようにして作ったのだ?」


来た。とそう思った。

血縁判定証明書が百発百中であったとしたら、次に必ずといって作成者に関して尋ねられるものだろう。そしてその作成過程を尋ねるのだ。


普通の方法で作られていないそれは普通なら答えられない。

何故なら私が精霊が見えることを公言すると言っているものだから。

でも私は逆にそれを利用したい。

だからこそ、陛下に協力を仰いだのだ。


本当は離縁をすることは私一人でも可能だ。

離縁後、私がディオダ侯爵領を離れたとしても、ケインと婚姻を結べば再びディオダ侯爵領に嫁ぐことになる。

だけど、私が陛下に協力を要請した本当の理由は、私の存在価値を世に広めず、この血縁判定証明書を認めてもらい、そしてスムーズに問題を解決したいため。

色々と動いてはいたが、まだなにも出来ていないのだ。


「精霊の力を借りて、にございます」


「精霊の力とな?

…となれば、そなたは精霊が見えると?」


「はい」


私が肯定すると陛下は口を閉ざす。

ちらりと目線だけ動かして様子を窺うと、なにやら考え込んでいる様子だ。

とはいえ、前回会った宰相はなにも表情を変えていない事から、もしかして既に影を通して知っていた、もしくは予想していた可能性もある。

いわゆる、今知った。という茶番劇を行っている可能性があるのだ。


「…して、何故それを口にしたのだ?

精霊が見えると口にすることは、確かに益があるがその分のリスクが伴うだろう。

それに我が子、王太子との婚姻を勧められるという可能性も考えなかったのか?」


陛下が言ったことに私はなるほどと納得する。

確かに私が精霊を見えるだけなら、陛下に王太子殿下との婚約を促されてしまえば拒否はできないからだ。


「…何故、という理由に関しては陛下には既に円満な離婚、そして私がディオダ侯爵家に留まれることをお願い申し上げているからです。

私はお願いをする以上、嘘はつきとうございません。

それは信用を失う事に繋がると考えているからです」


「ならば、我が子、王太子との婚姻をどう考える?」


陛下の子供である王太子殿下は今年成人である。

すでに結婚適齢期を通り越して出産適齢期である私が年上になってしまう為、普通に嫌だ。

それに王太子は金髪碧眼というクズの外見と共通点が多い。

勿論次期王という立場を期待されている存在であるため、変な性格はしていないが、流石に私が年上というのは……。


「私と王太子殿下が互いに愛を育められるのならば…、と考えております」


勿論これはケインと出会っていなければの話であるし、王太子殿下も私へ恋心を抱いてくれればという話である。

そして陛下は大げさなほどに笑う。


「ハハハハハ!思ってもいない事を!

そなたが好意を寄せている者の存在を知らないと思っているのか?」


「いいえ。影を付けているということは、私の情報が一切の漏れなく伝わっているという事。

既に私の心がどこにあるのか、陛下はご存じのはずです」


「そうだな。だが王命として命ずれば…」


「それはやめておいた方がよろしいかと」


食い気味に告げた私に陛下は首を傾げた。

どうやらこの情報は知らなかったらしい。

まぁ無理もない。

精霊が見えるだけの普通の人ならば、精霊の声は聞こえないのだから。


「何故だ?」


「私が精霊の愛し子だからです」


「っ」


「流石に王家には伝わっていますよね。

この世界の維持には精霊が深く関わっていることを。

そして精霊が寄りそう魂の持ち主の幸せを、精霊が一番に考えていることを。

だから精霊の愛し子である私は幸せにならなければなりません。

その為、私の存在価値を陛下にお伝えしたのです」


流石にこれには陛下も目を丸くして驚いていた。

ちなみに宰相の眼鏡もズレていた。

精霊が見える人なら長い人生、どこかで会うこともあるかもしれない。

それが王城ならば尚の事。

安全と引き換えで自分を売り込む人だっているだろう。


でも精霊の愛し子は唯一無二の存在だ。

私が公言しなければ絶対にバレるわけがない。


(何故かケインには知られていたけど、でもあれは精霊が教えたらしいから…)


何故ケインに精霊の声が聞こえたのかまではわからないけど、でも愛し子は私である。

それは間違いない。


「……ふぅ。わかった。

この国を治める者としてそなたには全面的に協力をしよう」


「よろしいのですか?」


陛下の言葉に宰相が尋ねる。


「なに、こやつの要望は離縁と新しい婚姻の承認だ。

付け加えるとするなら障害となるものの解決ぐらいだろう。

国を脅かすどころか、国を良くする結果になるのは目に見えている。

拒否する理由が見当たらないだろう」


どこか力の抜けた笑みを見せる陛下に宰相は頷いた。

どうやら私に協力することが本気で嫌だと思っていない様だ。よかった。

陛下が問題なくても宰相が否定的な考えのままだったら、流石に気まずい。


「では打ち合わせといきましょうか」


輝く眼鏡をくいっと上げ、宰相が告げる。

私はこくりと静かに頷いた。





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