5年ぶりに帰省した娘が張遼を連れてきた
娘が5年ぶりに帰ってくる。
妻からそう聞いた私は、咄嗟に笑みがこぼれ出た。
「あ、彼氏も連れてくるみたいよ。きっと結婚の挨拶ね」
妻からそう聞いた私は、咄嗟に顎がしゃくれて「はぁ?」と首をかしげた。
──当日、私は五杯目のお茶を飲み干しマグニチュード10.0の貧乏揺すりでその時を待ち続け、遂に娘達が──
──ヒヒーン!!
「馬!? 馬で来た!?」
娘はどういう訳か馬で帰省し、どういう訳か武将みたいな男を伴い、どういう訳か笑顔で私に手土産を渡してきた。
「お父さん、こちら張遼さん」
「遼来々」
無言で妻に『どういうこと?』と人さし指でジェスチャーをしたが、妻はニッコリと笑って栗羊羹を配りそそくさと台所へともどっていった。どうやら既に私以外は周知の事実らしい。
「張遼さん、こちらお父さん」
「奇々怪々」
フォークで栗羊羹を突き刺し、そのままパクリ。こういうのは威圧された時点で終わりだ。こちらも圧を強める必要がある。
「……で、二人はどこで?」
「やだなお父さん。勿論合肥だよ」
「来々」
無言で妻に『どういうこと?』と人さし指でジェスチャーをしたが、妻はニッコリと笑ってお茶のおかわりを注ぎ、台所へと戻っていった。どうやら既にその辺りの馴れ初めはどうでも良い段階らしい。
「えーっ……と…………何故? いやいや、彼を否定する気はないんだが……なんで?」
「うんとね、張遼さんはね……生け花が素敵なの」
「この形でか!?」
妻に「どういうことだ母さん!」と人さし指で訴えたが、妻はニッコリと笑ってリビングの隅にある小さな花瓶を指差した。菊か百合か薔薇か何かは知らないが、白い小さな花が数本活けてあった。上手いかどうかは当然分からぬが、とても武人の活けた花とは思えなかったのは確かだった。
「でね、お父さん……」
「言うな」
もう、それは確定事項なのだろうが、私の脳──いや、私の心はそれを拒み続けている。
「聞いてお父さん」
「あなた」
それまで気配を潜めていた妻が、手を拭きながら俺を見る。覚悟を決めろと言わんばかりの眼差しに、すぐ目をそらしてしまう。
「お父さん、私……この人と結婚する」
……遼か来しか言わない奴とかぁ…………
「オトウサン ワタシ フランス リョウリ トクイ。 ミセデ シェフ ヤッテマース」
「キャラがブレるから、君は遼か来しか言わないでくれ」
「お父さん結婚を許して!」
「遼来々はダメだ!!」
「オトウサーン!」
「君は遼か来しか喋るなー!!!!」