特別が欲しい私
友達の女の子二人が付き合うことになった。二人は幼馴染でずっと一緒にいる仲良しさん。告白の前は気付いてなかったけど、両想い。私も応援してたから二人が恋人になったのはすごく嬉しい。
だけど、そんな特別な二人に少し嫉妬してしまった。
私と私の好きな人の間にはそんな特別はないから。
私が好きな人の名前は飯島彼方。テニス部所属で一年からレギュラー入りする実力者。高身長でイケメン、豪快でかっこいいプレイスタイルなのも相まって同性含めてものすごくモテる。
快活で明るい性格だから友達も多いし、物怖じしない性格で先輩から気に入られているし、強くてかっこいいから後輩からも慕われている。
一方私、桃井美鈴は美術部で賞もとったことないし、友達も多くない。とても彼方と釣り合うとは思えない。でも、私は彼女と友達同士だ。それもかなり仲が良い方の。その理由には付き合い始めた二人の友達が関係している。
「海香ちゃん。先週のノートだよ」
「わーい!美鈴ちゃんのノートだ!」
彼女の名前は大空海香。付き合い始めた友達の一人だ。テレビで活躍する大物女優で、仕事で学校を休むことも多い。最初は海香が付き合っている島本卯月、私達は委員長って呼んでる子が代わりにノートをとったり、勉強を教えたりと世話をしていたけど、あまりにも大変そうだったから私も手伝い始めた。
それに彼方が加わって、私と彼方と委員長は海香の世話係として学校から公認されることとなった。それがきっかけで私は彼方と仲良くなって、彼女に恋愛感情を抱くことになった。
「やっぱり美鈴ちゃんのノートは見やすいね」
海香ちゃんはペラペラとノートをめくって、一週間分の内容に目を通す。彼女は物覚えがいいから数時間教えたら充分にできるようになる。
教える役は本来委員長なんだけど、地区大会が近いからと委員長と彼方はテニス部の練習してるので、代わりに私が勉強を教えることになった。
「とりあえず数学からでいい?」
「うん!」
海香ちゃんが元気いっぱいに返事してくれたから、教える側の私にも自然と気合が入る。こんな生徒がいたら授業がやりやすいだろうなと思いながら、シャーペンを手にとって数学の教科書を開いた。
○○○
「よしっ、今日はこれくらいかな」
「美鈴ちゃんありがとー!すっごくわかりやすかったよ」
「海香ちゃんもすぐできるようになるから、教え甲斐があったよ」
シャーペンを筆箱にしまい、ノートと教科書を閉じる。ぶっ続けで二時間勉強した疲れから、海香ちゃんは椅子に身体を預けて天井を見上げている。
勉強の間に冷めてしまったコーヒーに口をつける。私は苦いのが飲めないから砂糖を多めに入れるんだけど、冷めたコーヒーには少し甘すぎたみたいだ。捨てるのも勿体無いからなんとか飲み切って、クッキーを摘む彼女に目を向けた。
「ねぇ海香ちゃん。彼方と委員長の試合は見に行くの?」
「もちろん!個人も団体もどっちも見に行くよ!恋人の勇姿はしっかり見届けないと!」
海香ちゃんは恋が実って以来笑顔が増えた。海香ちゃんは大物女優で学校でも有名人だから、委員長も一歩引いちゃってすれ違いも多かった。だから二人の本音を話し合って恋人同士になった今はすごく楽しいんだろうな。
「美鈴ちゃんも行くでしょ?」
「うん。二人とも頑張って欲しいから」
この言葉に嘘はないけど、本当の目的は彼方が見たいから。普段の彼方もかっこいいけど、やっぱり一番カッコよくて生き生きしてるのはテニスしてる時だから。
「なら一緒に行こうよ」
「うん。朝早いけど寝坊しないでよ?」
「だいじょーぶ!」
海香ちゃんがあんまりに楽しみにしてるから、こっちも自然と頬がほころぶ。
私は海香ちゃんと違って恋人を見に行くわけじゃないし、この想いも実るとは思えないからどうしても後ろ暗い気持ちがついて回ってしまう。
でも、彼女の幸せそうな笑顔を見ていると少しそれが紛れる気がする。だからこの笑顔を壊さないように、私の気持ちに気付かれて心配させないようにしないと。