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星の指輪  作者: 結城 凪
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変化する日常

母さんの声を聞いてまだ眠い目を擦りながらベッドから立ち上がる。時間は午前十時頃。とりあえず寝間着から動きやすい服装に着替えて、リビングへ足を運ぶ。そこには朝から豪勢な食事が用意されていた。

「あ、おはよう。朔夜。よく眠ってたみたいね。」

「ああ、昨日ちょっと疲れてたから。

「あら、大丈夫?ちょっと作りすぎたかしら?」

 昨日、家で晩御飯を取らなかったからそれを取り返さんとばかりの気合の入った料理だ。ただこれは今日が特別だからではなく、たまにこういうことがある。親父が早く帰ってきたときや昨日みたいに晩御飯を取れないときがたまにある。だから、次の日は母さんが栄養面を考えて豪勢になりがちなのた。

「いや、今は大丈夫だから。いただきます。」

 一気に食らいつく。今日のメニューはハンバーグにトマトとレタスのシーザーサラダ、そしてコーンポタージュだ。もちろん、レトルトではなく全部手料理だ。

「うん、美味い。母さん、白ご飯のお替りもらうね。」

「ええ、もちろん。いっぱい炊いてあるから。」

 二杯目のご飯をよそって席に座ったときに昨日聞こうと思っていたことを話す。

「そういや、今日親父は?」

「確か、休日だから八時くらいには帰るって言ってたわ。どうしたの、今日の晩御飯のこと?」

「あ。いや。晩御飯は六時くらいに食べるよ。そのことじゃなくて、ちょっと道場を使いたくて。」

「え。」

 母さんは俺からもう出ないであろう言葉を聞いて少し沈黙してから、

「まさか、剣道を?」

「いや、単に筋トレをしたくて。最近、体力が落ちてきてるなって思って。」

「何を言ってるの?たった十六歳じゃない。まだまだこれからじゃない?」

「まぁでも俺帰宅部だし。最低限の運動はしておきたいなって。」

「なるほどね。それでお父さんのことを聞いたのね。」

「うん。親父なら、「そんなもんはそとでやれ!ここは剣道するものの場所だ!」って追い出されるだろうから。」

「そうね。あの人のことだもの。いつ、使うの?」

「お昼ごろから遅くとも五時までかな?」

「ええ。だったら、大丈夫だと思うわ。」

「ありがとう。これから、たまに使うことがあるかもだから。」

「ええ、いいわ。あなたは一ノ瀬家の長男なんだから、気にすることないわ。」

「うん。よし、ご馳走様。じゃあ、鍵借りていくね。」

「頑張ってねー。」

 俺は食事を済ませてリビングから出た。がっつり食べたのでいきなり激しい運動はやめとこうと思い、家の周辺を散歩することにした。ついでに、昨日返せなかったバスケットを千代に返そうと思い、片手にぶら下げて家を出た。


今日は、太陽がしっかりと顔を出しているおかげで冬とはいえそこそこ暖かい。通り道に昨日のような異変はなかった。いつも通りの日常が広がっていた。歩くこと約十分、千代の家の前に立ち、インターホンを押す。

「はーい。」

「朔夜です。千代さんのバスケットを返しそびれたのでお返しにきました。」

「あら。朔夜君。久しぶりね。今、ちーちゃん呼んでくるからちょっと待っててね。」

 千代のお母さんが出てくれた。うちの母さんとも仲がいいので、ちょくちょく話す機会がある。普段は、看護師をしているらしくかなり忙しい人という印象だ。

「あ、朔夜!ごめんね、わざわざ。」

 千代がドアを開いて門の前にやってくる。

「いや、いいよ。俺もうたた寝してたから。今来ても大丈夫だったか?」

「うん。今は学校の宿題をやってるところだったから。それよりも、昨日は家の外に出てない?」

「えっ?」

 いきなりそんなことを聞かれて少し驚いた。確かに、家の外には出たがあんなことを千代に話すわけにはいかない。だから、千代には悪いが、

「いや、出てないけど。何かあったのか?」

「もう、ニュースくらいは見なよ、朔夜。実はこの地域にも出たんだって、神隠し。」

「神隠し・・・」

「そう。なんでも二十歳の女子大学生で、午後十一時過ぎにコンビニに行くといって家を出たっきり帰ってこなくて連絡がとれないらしいよ。三時間も家に帰ってこないから警察に通報。今も捜索は続いているけど、手がかり一つ見つかってないらしいよ。」

 正直、昨日の体験を得て恐らく最近世間を騒がせている神隠しは恐らく人外による仕業だと思う。じゃないと、広範囲での行動や、証拠すら残さないその完璧性は人間には不可能だ。無関係化もしれいが、もしかしたら、この犯人が俺を狙っているのかもしれない。

「朔夜?」

「あ、ああ。大丈夫。ちょっと考え事をしてただけだ。」

「ふーん・・・あっ!じゃあ、これ!バスケットを持ってきてくれたお礼!」

 そういって彼女はポケットから何かを取り出す。

「これは?」

「今日、お父さんからお守りをもらったんだけど同じものもう持ってるから朔夜にあげる。」

 千代のお父さんは神社に努めている。神主というやつだ。

「いいのか?」

「うん、まぁ別にこれを持ってるから安全とかそんなことないけど。お守りなんだから朔夜がつけている指輪のネックレスのようにできるだけ肌身離さず持っててね!」

 俺の腕を取り、手のひらの上にお守りを置かれる。

「分かった。できるだけ常備しておくよ。」

「うん、よろしい。じゃあ、また明日。学校でね!」

「おう、また明日。」

 手のひらに置かれたお守りをポケットにしまい家に帰った。


「えっと確か電気は・・・」

 家に帰った俺はそのまま道場に向かった。鍵を開けて道場内の明かりをつける。そして、改めて広い道場を眺める。

「九年ぶりか。」

 九年。それは、俺が剣道辞めて経った年数だ。これまで、外から見ることはあっても決して中に入ることはなかった。親父のこともあったが、幼い頃の剣を向けられた恐怖を今も覚えている。

「違う。俺は人とは戦わない。あれは人外だ。」

 あれは一般的に化物と言われる存在だ。そんな奴に俺は狙われている。なら、自衛手段がないと俺は成す術がない。

「とりあえず、腕立てからやるか。」

 黙々とトレーニングをこなしていく。昔から一人でいるときの集中力は高い方だ。現にテスト勉強も基本自分の部屋にこもってする方が多い。かといって、一人が好きというわけでもないのだが。

「いやー。こんながっつり動くのは久々だからきついな。」

 およそ、二時間くらいたった頃肉体が悲鳴を上げていた。これまでにやった運動は腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットをそれぞれ五十回三セット、ランニングを三十分。そして木刀を使った剣技を三十分行った。

「今日はもうここまでだな。これ以上は待ち合わせに出れなくなるな。」

 今日の十時にはまた規格外の化物にして俺の友達になったアヴァロンとの待ち合わせがある。俺の武器を作ってきてもらうので待ち合わせに遅れるわけにはいかない。ちょうど今が二時過ぎだ。晩飯は七時だから幸いまだ時間に余裕がある。

「シャワー浴びてひと眠りするかな。」

 俺は道場の掃除をして自分の家に戻った。

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