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MULTISTORYPARKINGSPACE

作者: 羽生河四ノ

「楽しい時間ってあっという間だな」

何でか知らないけど。なんで楽しい時間だけあんなにあっという間なのかわからないけど。不平等な感じすらあるけど。


千葉時代の友達からラインが来て、その日私は車で出かけたのです。んで、ある商業施設の立体駐車場に車を停めて友達のいる所まで向かったのです。


「久しぶりい」

「いえーい」

友達は友達でした。千葉時代の友達のままの友達でした。そんで近くにあったカフェに入って、そこでアイスコーヒーとかオレンジペコーダージリンとかを注文して、

「え?オレンジペコーダージリンってなにそれ?」

「知らないの?おいしいよ」

「じゃあ、私も抹茶ラテフロート。グランデ」


そんで、そのままそこで席について話をしたのです。


「実はね、結婚することになってね私」

「うえええ!」

千葉時代からの友達はそんな事を言いました。4/1でもないのに。だから本当って事?え?そうなの?今もたまに会う中のその子が結婚する。私みたいなもんでもなにか時の流れを感じました。


「じゃーねー、また連絡する―」

「はーい」

迎えに来た彼と思われる人の車に乗って帰っていく友人を見送り、私も帰ろうかという事になりました。


「結婚かあ。結婚式とかするのかな・・・」

友達が寝ゲロを吐いたときの話を何とかできないだろうか。公衆の面前で。電報とかで送ったら読まれるかな。そんなことを考えながら、車を停めている立体駐車場に向かうエレベーターに乗りました。


「結婚ってうまい事行くのかな?」


自分の車を停めた階でエレベーターを降りると、すでに薄暗くなっていました。立体駐車場の中だからかもしれません。さっき友人を見送った時はもう少し明るかったと思うんだけどな。じゃあやっぱり立体駐車場の中だからかもしれません。


自分の車が停まってる場所まで歩いていると、


「もーいーかい」

と声がしました。


私はあたりを見回しました。しかし誰もいません。車の陰に隠れているのかもしれません。何にせよ危ないなと思いました。立体駐車場でかくれんぼなんて。でもまあ、あまりうるさい事は言えません。自分だって子供の頃は同じような事をしていたのです。除雪車が駅前のタクシープールに集めた雪の山の上に登ったり。そこを家にしようとしたり、斜面を滑落して血がいっぱい出たり、だから子供の気持ちもわかりました。立体駐車場なんて、そらかくれんぼしたいもん。寧ろかくれんぼするための施設だろ。かくれんぼか、64の007とかパーフェクトダークみたいな四画面バトルか、あるいは車内でAV撮影。親になったらこの辺の感情も変わったりするのかもしれません。他人の子でも危ない事をしてたら危ないぞって言えるかもしれません。なんかバイアスかかるのかな?でも、私は親でもないし結婚する予定もないので、わかりません。全然。


「まーだーだよ」

また声が聞こえました。


見回しましたが、やはり誰もいません。


私は自分の車に乗り込み、助手席にカバンを置いて、シートベルトを装着して、そんで車のエンジンをかけました。


「帰ろ」

サイドブレーキをおろし、車を発進しました。


その瞬間、目の前を何かが横切り、


「あ!」


ドン。


音がしました。


急いで車を降りると、ヘッドライトの明かりの中に子供が倒れていました。


「うああ・・・」

真っ白い。真っ白い子供でした。上下真っ白い。今日日こんな子供にこんな真っ白い服を着せるか?上下に。すぐ汚れんだろ。こんなの。しかも上下って。どこで売ってんだ。無印か?


で、それをどうしたらいいんだと思っている間に、ふと、

「これどっかで見たことあるな」

と、思いました。


どっかで。


見覚え。


既視感。


デジャブ。


デジャブ。デンゼル・ワシントンの映画。


映画?


映画。


ザ・セル。


ザ・セルの手法だ。


コレ。


白い。真っ白いアルビノの犬。それを車で轢いてしまったと思って、車外に出て、そしたら。


気が付いたら咄嗟に後ろを見ていました。

「はあ」

誰もいませんでした。


「・・・」

自分の車のエンジン音だけがする薄暗くなってきた立体駐車場の中。


少しその辺を見て回り、誰もいないのを確認しました。


その後自分の車の所に戻ると、先ほど倒れていた白い子供もいなくなっていました。


薄気味悪くなってさっさと車に乗って、家に帰りました。


家の近所の駐車場に車を停めた頃には外はもうすっかり真っ暗になっていました。


「夢だよ。夢」

きっと何か自分でもとらえようのない、分類できない動揺があったのではないかと思いました。例えば、

「例えば・・・」

まあ、友人の結婚とか。


そういう事もあるかもしれない。そういう事も。まあ、そういう事もまあ。


車を降りて鍵をかけようとしたら、鍵がつるっと手から落ちました。


そして車の下に入り込みました。

「ああもう」

しゃがんで車の下に手を突っ込んだら、その手が掴まれました。


覗いたらそこに子供がいました。


白い子供です。


こちらを見ていました。


目が合いました。


「もういいよ」

もういいよ?どういう事?かくれんぼか?ああ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワンテンポ遅れで、笑いが込み上げます。かくれんぼ中だったのですね(・_・; その白い服の子供、謎。だいたい、見つかったあとに「もういいよ」って、どういう意味なのかズレたところが面白かったで…
[良い点] アメリカの都市伝説の「黒目だけの子供」を頭の中で再生して怖くなったですよ。 後、映画でいうと「クリープショー」(2の方だったかも)で交通事故で人を轢いた女の人の話も思い出しました。
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