第8話 ピュアな二人のカフェデート
テニスで汗をかいた仁とルーシーは昼になっていることに気づき、運動をしたことでいつもより空腹感が増していた。
「お腹すいたけど何食べたか?」
「ラーメン以外なら……」
ルーシーは仁の質問に対し、俯きながらそう言う。
仁は女の子とのデートでラーメンは流石にと思っていたからなのか元より視野に入れておらず、かと言って初デートがファストフード店で食事を取るのもどうかと思い頭を捻らせていた。
ルーシーは口を小さく開き「カフェとかどうかしら……」提案を出す。
「うん、その方が良さそうやね」
仁は頷きながらスマホで近くにカフェがあるかを調べ始めた。
「あったよ、ここ最近オープンしたばかりのカフェでネットの口コミだとかなりの好評価みたい」
「そこにいきましょ」
口コミで評判の良かったカフェへと向かうことにし、仁はタバコを口に咥えながらスマホで位置を確認していた。
「高校生がタバコなんて吸っちゃダメでしょ?それに歩きながらだと危ないわ」
ルーシーはタバコを吸う仁に注意を促し、仁はタバコを灰皿の中に入れた。
「そげんタバコ吸う高校生は嫌ね?」
仁はルーシーに尋ねるとムスッとした表情で言葉を発した。
「あのねぇ、女の子がヤンキーとかみたいな不良に好意を寄せるなんてそんなのドラマとかの世界だけだよ?それに私、タバコの匂い大嫌いだから仁にはタバコを吸って欲しくないの!一緒に生活している以上、タバコは辞めなさい!」
「分かった、君と一緒にいる時は吸わないようにするよ」
「私がいない時も吸っちゃメッ!です」
普段の仁ならここで喧嘩に発展するのだがルーシーの一面を知ったことでどうにも怒る気にはなれなかった。
デートをしてからピュアだけど芯はしっかりとしていて、仁の知っている日本の女性にはない艶かしさと妖艶さを兼ね備えているところに興味を少し示していた。
(ルーシーと一緒にいて思ったのはやっぱりいい匂いするなぁ……それに汗で胸の大きさとかもはっきり分かっちゃうしこれは俺じゃなくても絶対視線向けてしまうやろねぇ)
仁は少し変な妄想をしながらルーシーの傍にくっつき、肩に手を乗せていた。
「きゃっ!」
「ごっ、ごめん!手が勝手に……」
「もう、仁のスケベ……」
「肩触っただけでスケベ認定されるのね……」
ルーシーは顔を赤らめ、肩を触られるのを嫌そうに言うと仁は慌てて肩から手を離し謝る。
肩に触れただけでスケベ認定されるのはどうかとも思うのだが決して仁に下心があったと言うわけではないのだろうがほぼ無意識に行ったのは間違いないだろう。
二人はカフェに着き中に入るとすぐさま店員が「いらっしゃいませ」と営業スマイルをしながら空いてるテーブル席へと案内した。
カフェはとてもおしゃれな雰囲気をしており、壁紙はとてもシンプルな白色だったが若いカップルで行くにはもってこいの場所だった。
「お決まりになりましたらお声掛けください」
店員は優しい声で二人に声をかける。
メニューを開いてみるとドリンクは紅茶にコーヒー、コーラ、食べ物はパスタにカレー、ドリアにサンドイッチとさまざまだった。
「ルーシーはどれにする?俺はカレーにするけど」
「私も仁と同じにするわ」
二人は同じメニューを選ぶことにし、店員に「すみませーん」と手を振りながら声をかける。
「ご注文はお決まりですか?」
「カレーと紅茶をを二つお願いします」
「カレーと紅茶を二つですね。お二人さん、とっても仲のいいカップルなんですね?」
店員は笑顔でそう言い、仁とルーシーは顔を赤らめ否定しようとしたがカップルでもない男女がカフェで食事をするのはどうかと思い沈黙していた。
「俺たちそんなに仲良さそうやかね?」
「どうなんだろう?少なくともそうゆう風にも見えるってことでしょ?」
「まぁよかたい、ようは学校の奴に見られんどけばよかっちゃけん」
「そうよね……」
同級生や友人にカフェデートしているところさえ見られなければと願いながら注文した料理がくるのを待っていた。
「ルーシーって趣味ってあるの?」
「しゅっ……趣味?」
「俺はご覧の通りハードロック聴いたりギター弾くの好きやけど他にはイラスト描いたらアニメ鑑賞とラノベを読書するくらいかな」
「わっ、私も……アニメとかラノベ……読むわよ……」
ルーシーは視線を逸らしながら自身の趣味を仁に教える。
「へぇ〜、アニメとラノベ好きったいね〜。結構共通点のある趣味あるやんね、中学に入ってからは絵が上手くなりたかったけんラノベとかの挿絵模写したりとか結構しよったばい」
「知ってた……仁が描くことが好きなの……」
「えっ、俺ルーシーに今初めて言ったったちゃけど?」
「あっ!そうだったわね……私ったら何勘違いしてたのかしら……」
焦燥ぶりを見せていたルーシーは手を振りながら勘違いしていたことを主張し、仁は首を傾げていた。
(やっぱりあの頃のことは忘れているのね……)
ルーシーは過去のことを思い出し、胸が痛くなっていた。
会話をしているうちに注文していた料理がテーブル席に置かれ、女性店員は「ごゆっくりどうぞ」と笑顔で言った後すぐさまカウンターへと戻った。
「カレーがやっぱり無難やねぇ、俺カフェとか行かんけん何頼んだらいいか分からんかったっちゃん」
「大体予想はつくけどラーメンとかファストフード店にしか行ったことないでしょ?」
「お手頃な値段で食べるならそっちの方がラーメンかファストフードの方が安いけんね。ルーシーとデートしとるっちゃけんカッコつけてカフェにしたけど」
「仁も結構女の子に気遣う心ってあるのね」
女の子の気持ちに気遣っている仁にルーシーはどこかホッとしていた。内心ルーシーはラーメンかファストフードでもよかったのだが女の子とデートしているわけだからとわざわざカフェで食事をしたいと初デートに気合いを入れていたことで見直していたのだ。
「このカレーと紅茶美味しかばい!ルーシーも食べてみらんね」
「うっ、うん……」
頷きながらそのままカレーライスをスプーンですくい、小さな口に入れ込む。
香辛料が少し効いてて、唐辛子のような辛さではなく、少しピリッとはくるものの、程よい辛さであるためルーシーは次々にカレーを口に入れる。
「あなたの言う通り美味しいわね」
普段死んだ魚の目のような瞳に輝きのないルーシーが笑顔で美味しいと言ってくれた。そのルーシーの瞳はとても輝いており、学校にいた時の愛想笑いとは違い心から笑っているのだと言うことが仁にも伝わり、「口コミ通りやね」と微笑していた。
「やっぱりルーシーは可愛かね」
「……もう、バカップルみたいなこと言わないでよ……」
ルーシーは恥ずかしそうに顔を赤らめる。男性に免疫がないため、異性に褒められることに少々抵抗があり、素直に喜べずにいたが裏を返せば可愛いと言われたことを嬉しく思っていた。
昼食を食べ終えた後、カウンターで会計を取り、仁はルーシーが食べた分も支払おうとすると「私が食べた分くらい自分で出しますと」会計は別々にした。
普通なら男子が女子の分も奢るのが常識と言われているのだがルーシーは自分で食べた分はきっちりと支払ったのだ。
仁はそんなルーシーを見て(男としての面子が………)と思いつつも女だから男に奢られるのは当たり前という考えを持っていないことに関心していた。
「またのお越しをお待ちしております」
女性店員はマニュアル通りの挨拶を二人にした。
「よし、家に帰るとしますか」
「そうしましょっか」
カフェを出た後、仁とルーシーはつたない会話をした後、仁の父親にデートをしたという証拠写真もしっかりと撮ったのでマンションへと踵を返した。