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主役になれなかった少年は美少女に恋をする  作者: 桐ヶ谷スバル
第一章 仮初の婚約から始まる同棲生活
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第6話 朝食

 頭を布団を被りベッドでぐっすりと眠っていた仁は、気持ちよさそうに寝息を立てていた。


 土曜にお見合いをさせられたかと思ったらいきなりお互いの親の目を眩ませるために仮初の婚約をすることになり相当な疲労が溜まっていたのだろう。


 カーテンからは眩しい光が漏れ始めていたのに仁は一向に目覚める気配がなかった。仁は基本的に何もしていない日は寝ることしかないのでその習慣が身についていることから不規則な生活を過ごしいていた。


 「………きなさいよ!仁!」


 仁は可愛らしい女子の声が暗闇の中耳の中に入り込み、「う~ん」と声を唸らせながらゆっくりと閉じていた瞼を開けた。


 「早く起きなさい。朝ごはんの準備ができないでしょ?」


 目を開けるとそこにはルーシーが仁の身体を揺さぶりながら起こしているのが分かった。


 「ふぁ~っ……今何時ね?」


 「もう朝の七時よ。早く起きて!」


 仁は大きく欠伸をしながら尋ねるとルーシーは唖然としながら時間を教える。


 言われるがまま顔を洗い歯磨きを済ませテーブル席に座るとルーシーはリビングで朝食を作っているようで仁は眠い体をコクッコクッと小刻みに動かしながら眠気を堪えていた。


 「はい、朝食できたから食べましょ……」


 ルーシーは可愛らしいエプロンを身に纏い、頬を朱色に染めながら促す。


 そんなピュアな一面を見せるルーシーを見て仁は(何でこの子はそんなに顔を赤くしているんだ?)と理解に苦しんでいた。


 朝食には味噌汁、炊き立ての白米、焼き魚に漬け物が食卓に置いてあり、仁は最初に味噌汁に口を付ける。


 「やっぱり味噌汁はよかねぇ、最近朝はカップラーメンかパンで済ませてたから久しぶりに味噌汁は本当に気持ちのよかばい」


 「………そうっ、それなら嬉しいかな……」


 ルーシーはデレながら味の感想を言ってくれる仁に視線を向けていた。


 「ルーシーは食べんとね?」


 凝視していたルーシーに尋ねると、「今から食べるわよ……」と頬を膨らませながら雪のように白く艶やかな右手で箸を持ち、左手で味噌汁の入ったお椀を持つ。


 ルーシーの味噌汁を飲む姿はとても美しく、とても新鮮だった。


 「それにしても朝からこげん作るなんて気合入っとるやんね?」


 「別にいいでしょ?私が作りたくて作ってるんだから……」


 「それはそうと婚約の件やけど学校で知られるわけにもいかんけん暫くは登校する際は時間を少し開けてからにした方がよかと思うっちゃんね?」


 「そうよね、エミリーは妹だから知ってて当然だけど他の人に知られるわけにもいかないしこの事は口外しないようにしましょ……」


 仁はルーシーの瞳を見て輝きがないことが気になっていたようで、エミリーのようにイキイキとしてなく鯉や鴨などが住み着いてない綺麗すぎる水のようだった。 仁の眼から見たルーシーは一見クールで冷静沈着そうに見えて実は臆病で人目をいつも気にしているのではないかと考えるようになり、婚約を結んだとはいえ、所詮は仮初の口約束であることを考えるとズケズケと踏み込むわけにもいかなかった。


 エミリーと違い胸は大きいけれど誰にでも若隔てなく接してくれるところは変わりなかったがルーシーはどこか近寄りがたく高嶺の花的な位置ではあるが、仁の前ではこうしてデレたりと可愛らしい一面もあるのだ。


 「そういえばルーシーの御両親はお見合いの際見かけなかったけどどこにおったとね?」


 「仁のお父さんと軽く会話した後にすぐに帰ったわ……私の今の両親は義理のおやだから……」


 表情を曇らせながらルーシーは顔を俯かせる。


 「義理の親たいね、漫画とかでも義理の親から陰湿な虐めをなんて描写はよくあるけんね……」


 「お義父さんは仕事が忙しくてあんまり何も言ってこないけどお義母さんの方は私とエミリーにちょっと冷たくて義妹達との温度差は激しい方なの……」


 ルーシーのビクついた表情を見て仁は溜め息を吐きながら無言で味噌汁を啜っていた。


 「まっ、どの道この婚約も仮初のものなんだし今はこのままでいいんやない?それに俺はこうして美味い味噌汁とご飯が食べられる。エミリーちゃんはイケメン彼氏とラブラブなんだしそんな卑屈になるなと言われても無理に閉ざした心を開いて悪化したらいかんけんねぇ……んで、義理の両親ってことは親戚か何かに引き取られたってことね?」


 「うん、両親が交通事故で亡くなってからは母の姉夫妻が引き取ることになって私とエミリーが母に似ているからって理由であまりいい眼で見てくれないというか……でも養父の方はそんな養母のことを注意したりはしてくれるけど私、なんだか怖くて……」


 ルーシーは両親が事故で亡くなり、母親の姉とその夫である日本人男性の家で養子として恐怖に怯えながら生活をしていたようだ。


 仁はそれを聞いて昔両親に読み聞かせてもらっていたシンデレラの内容を思い出し、ルーシーとエミリーはまさにシンデレラのように養母から虐めを受けているのだと実感し、顔を顰めながら朝食を完食し、食器を洗い終えた後ベランダで煙草を吸う。


 「ルーシーの今の親父さんは日本人か……それなら日本に留学する口実にはなるだろう。それと気になるのはルーシーの養父はなんかの会社の社長をしていてそれなりに地位はいいはずなのに俺みたいな庶民の人間とお見合いすることを拒否しないってのがどうにも引っかかる。親父のことだからあれこれハッタリかまして口裏合わせたんだろうけどそんな簡単に引っかかるものなのか?社長しているとはいえ経営難になっているとかなんとかっても聞いたがそれこそ俺みたいな庶民とくっつけるなんてありえないな………丈みたいにこんなご都合主義展開が訪れるなんて思ってもいなかったぜ……丈の奴、異世界で何やってるんだろうなぁ……」


 仁は煙草の煙を吐きながらベランダで顔を見上げ、朝の綺麗な青空を眺めていた。

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