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主役になれなかった少年は美少女に恋をする  作者: 桐ヶ谷スバル
第一章 仮初の婚約から始まる同棲生活
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第10話 仁とルーシーの学校生活

 月曜の朝、仁とルーシーは朝食を取った後に学校へと登校するのだが登校時間を五分ずらしていた。


 その理由は一緒に歩いているところを他の生徒達に目撃されないためだ。


 あれこれ質問攻めされて二人の関係がバレるのが色々面倒になるため極力平穏な学校生活を送りたいからだ。


 仁はいつも通り自分のクラスの席に座り、ヨハンが仁の方へと駆け寄る。


 「なぁ、お見合いの件はどうだったんだ?」


 ヨハンは仁の耳元で囁く。


 「それならダメだったよ」


 当然、仁の言っていることは嘘だ。


 「マジかよ……まぁっ、俺には関係ないからいいとしても期待してたんだけどなぁ……」


 ヨハンはどこかガッカリしているようで、仁は「そんな都合よく金髪碧眼の巨乳美少女が来るわけがないだろ……」と溜め息を吐く。


 「仁君、ヨハン君、おはようございマス」


 「「おはよう」」


 ルーシーとは違う笑顔で仁とヨハンに挨拶をし、仁とヨハンも笑顔で返事をする。


 「仁君、ルーシーとはそれなりに上手くいっているようですね」


 エミリーも仁の耳元で囁く。


 「……エミリー、面倒だろうけど絶対ルーシーとの関係は誰にも言っちゃいかんばい」


 「はい」


 仁はエミリーに念を押すとエミリーは笑顔で頷く。


 「仁とエミリーってそんなに仲良かったっけ?」


 「別にそれ程でもないけどな……一応同じクラスメイトだし……」


 「その割には他の女子とは全然会話しないよな」


 「ばっ……他の女子と違ってエミリーはいい子だからだよ!」


 ヨハンに的確に当てられそうになったために声を少し強めにエミリーがいい子であることを強調した。


 「お前って結構エミリーみたいな子が好きなようだな……」


 「絶対何か変なこと妄想しただろ?」


 「さあね」


 もしかしたら仁はロリコン疑惑を持たれたのかもしれない。ヨハンから見たらエミリーと耳元で囁いていることからそれなりの関係があると思い、仁は怪しまれていた。


 その会話を盗み聞きしたクラスメイト達からも「仁ってロリコンだったの……」「まぁ、サングラスとかしてる時点で怪しいもんな」と変な噂が一気に広まった。


 「ヨハン、何変なこと言うんだよ!俺はロリコンなんかじゃない!」


 「ごめんごめん、俺の思い違いならいいんだ。でもよ、エミリーとあんな感じでヒソヒソ話とかしてるからてっきり……」


 クラスメイト達は「なんだ、ヨハンの勘違いかよ」と唖然としていた。


 昼休み、仁はヨハンにルーシーの手作り弁当を見られないようにするため一人で誰も寄らない校庭のベンチで食べることにした。


 弁当の中身は卵焼きにウインナー、レタス、ミニトマト、白米と日本人の弁当としてはベターなものだった。


 「やっぱり美味しかぁ~」


 仁は自身の頬っぺたを押え、口元がとろけそうになるほど緩ませていた。


 普段はほぼ一日カップラーメンやパン、コンビニ弁当で済ませている仁からしたらルーシーの手作り弁当を一気に食べるのはどこか心もとない気持ちがあったのかゆっくりと味わっていた。


 弁当を食べ終わった後、暫く景色を眺めようとしていると、ルーシーが男子生徒にどこかへ連れられているのを目撃した。


 「ルーシーじゃん、それにあの男は何ばしよっとやか……」


 気になった仁は後ろからバレないように距離を置きながら尾行をした。


 行きついた先は体育館裏で、仁はすぐさまこれから何が起きるのか勘ぐった。


 (間違いない、これは愛の告白をするつもりだ)


 そんなルーシーと男子生徒を陰から見守っていた仁はどういう状況になるのかを半ば楽しんでいた。


 「何でだよ?」


 男子は軽薄そうな声でルーシーに尋ねる。


 「なぁ、いいだろ?……三日だけでもいい……お試しとして今日だけでも……それでもダメなら友達からでも」


 仁は物陰に隠れながら煙草を口に咥えながら眺め、男子が冗談めかした雰囲気を出していたがどこか怒気が含まれているようにも感じ、会話の内容から色恋沙汰をしているのだ鈍感な仁でも理解できた。


 「別に私はあなたのことが好きでもないのにどうして付き合わなければいけないんですか?ちゃんと《《好きではない》》と伝えていますのに」


 ルーシーは妖艶で白磁色の肌に金髪碧眼美少女で愛想笑いを分け隔てなく振る舞うのとは裏腹に、無機質で冷たい声で男子のお誘いを断っていた。


 そのしつこさに仁も(いい加減諦めろよ)と苛まれており、これが婚約者だからなのかルーシーだからなのかは本人自身分からず、煙草を吸う本数も増えていく一方だ。


 仁の仮初の婚約者にくどく縋っている男子生徒は仁達より一学年上のバスケ部でもっとも実力の高い次期キャプテン候補とも呼ばれた福海ふくうみだ。


 福海は朝礼などでも表彰されているのでそれなりに実力があるのは確かだ。しかし、バスケ部員同士での噂に関してはお世辞にも良い方ではないことは同じ軽音部の部員でもある紫龍とドラムの悠野はるのと会話している際に情報を得ていた。


 「え~、俺のどの辺がダメなの?ルックスも成績も悪いとは思わないんだけどなぁ~」


 「全体的に好みではありません」


 仁はそんな福海が何故バスケ部員から嫌われているのかを理解した。


 この鼻にかけるような態度と中身の軽薄すぎる部分が主な原因だろうということを。


 そしてルーシーはバッサリと斬り捨てる。


 ルーシーは少し苛立っているようで、それは福海自身同じことだった。


 自分の告白をバッサリと斬り捨て断る女子など今までにいなかったのだろう。


 否、上手く断れなかったという方が正しいのかもしれない。


 「そうお固くならいなでさぁ……俺だったら君の役に立てるとお思うしお願い」


 「別に私、あなたに助けてなんて言ってませんしそこまで困ってませんから」


 「でも、噂によると君のお義父さんは経営難って聞いたけど?俺父さんこの辺でも有名な議員だからほら、きっと……」


 ルーシーの無機質な表情がさらに凍えるように冷たく、鉄仮面のように表情は変わっていった。


 「お断りします!」


 ルーシーは吐き捨てた後、教室へと踵を返し立ち去ろうとすると福海はルーシーの華奢な腕を強引に掴んだ。


 「放してください!これ以上しつこいようですと先生に言いますよ!」


 「なぁ、もう少し俺の話を……」


 仁はあまりの苛立ちに煙草を地面に捨てた後、煙草を踏みつけ地面に擦り付けた。


 そのまま放っておいても良かったがあまりにも状況が悪化しているため大惨事になる前に止める必要があった。


 「彼女、嫌がってますばい」


 仁は姿を現し博多弁で強く福海を咎め、じっと見つめながらふくうみへと近づく。


 「なっ……誰だよお前、……には関係ないだろ?」


 福海は表情を歪め、自分が無理強いをしていることを自覚していたのかは分からないが少し焦っているようだ。


 「クラスメイトのお姉さんが困っているから放っておけないとたい。それに先輩、そうやって可愛い女の子を見つけては毎度の如く告白しとるとでしょ?」


 そう言って仁は迫ると福海は視線を逸らした。


 「一年のくせに調子乗るなよ!それになんだよその髪型、九十年代のアイドルだか俳優だか知らないがそんなロン毛にしてよ、お前それカッコいいとかおもってるんじゃないの?正直言ってダサい!それに一瞬女子かと思ったぜ」


 福海はそう言いながら仁の体を押すように手を伸ばしたが殴るほどの勇気はないようだ。


 案外このような人は気が弱いことがある。


 仁は中学の頃、虐めにより不良と化した親友のジョセフと共にギターの練習をしたり筋トレをしていたりとしていたため、近づかれても怖いと思うことはなかった。


 しかし、下手に殴って問題になるのも後々面倒になるだろうからと手を出すことはできなかった。


 「どうでもいいけどよ、その汚ねえてを放してやれよ。それにそのドブのように臭い息を吐くのはそれぐらいにしておけ」


 福海は仁の煽りでルーシーを掴んでいた手を離した。


 ルーシーは仁の背に隠れ物凄く怯えていたようだ。


 「お前……名前はなんて言うんだ?」


 「ヤリチンやろうに名乗る名前などないが敢えて言おう。坂本仁だ」


 本当は教える気もなかったが臆したり隠す理由などが特変なかったため仁は訝し気に答えた。


 「…………坂本仁か、その名前…………よーく覚えておいておこう」


 福海はそう吐き捨て、逃げるように去ったのだ。


 「ふぅん、根性のない野郎だったな……」


 仁は鼻で笑いながら唖然としていた。


 「…………仁、あの」


 「どげんしたとね?」


 ルーシーはどこか遠慮しがちにおどおどとした表情で仁に声をかけ、「…………その、さっきはごめんなさい」とぺこりと謝った。


 「よかばい、俺の方こそ勝手に割り込んで迷惑やなかったね?」


 「いいえ、私もあれは困ってたから助かったわ……」


 ルーシーは介入されるのをあまり快く思っていないのか、仁もあの場で留まるつもりでいたが本能的に動いた結果を考えれば仁は婚約者としての責務を果たせたであろう。


 喧嘩っ早い仁の性格上介入してしまったのは仕方のないことではあるが。


 「そうね、でもっ……俺が入って邪魔やったならごめんね」


 「……私は大丈夫よ。仁の方こそ…………大丈夫なのかしら?」


 ルーシーは心配そうに言い、仁は何のことか分からず首を傾げた。


 そして、ルーシーが心配しているのは自分のせいで福海に目を付けられたことであることも理解した。


 「やっちまったもんはしょんなかばい。あいつああやって粋がってるけど俺を殴れんかったってことは案外気の弱い小心者やろうけんくさ」


 「でも、あの人って次期キャプテン候補でお父さんは有名な方なんじゃ……」


 「そげんみたいやね。あいつ評判はばり酷かばってん」


 「そうなの?」


 クラスメイトや軽音部内でも福海の悪口を言うものは多数である。しかし、仁は人の他人の悪口ほど不愉快になる物はない。


 「バスケ部以前に学校中の生徒にもあまり慕われとらんけんね。あいつ可愛い女の子見つけては告白しまくっている最低男みたいだからさ。エミリーにもちゃんと警告しとかないかんばい」


 「そうなの、エミリーにはあなたが言いなさいよ。同じクラスなんだし」


  仁は何も言わず頷いた。


 福海は自分の地位を向上させるために行っているため質が悪すぎる。


 「本当に大丈夫かしら?」


 「無視したよかばい。何かあったら俺がぶちのめしといちゃるけん」


 「……はい、って……仁、暴力はメッ!」


 ルーシーはいざとなったら暴力で解決しようとする仁に注意を促した。

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