超ブラック企業だけど、上司がいい人過ぎて辞めれない! 2
レクセクォーツという超有名IT企業へ入社した私と係長。
部署は別々だけど、たまに廊下で会ったりする。
「ぁ、係長、おはようございます」
「あぁ、深山さん。おはよう。でも僕はもう係長じゃないよ」
あぁ、そうだった。
新しい会社に入って……係長は……
「失礼しました。部長」
そう、係長は……わずか一年で開発部の部長になってしまった。
その社畜スキルを駆使し、毎日深夜まで残業をし、革新的なまでのソフトウェアを開発して……(でもややこしいから、今後も係長は係長です)
「ぁ、深山さん、悪いんだけど……今日、時間あったら僕の奥さんのお店で飲んでくれない?」
「いいですね、喜んで。係長は今日定時で上がります?」
「いや、僕は……なんか残業しないと落ち着かないから……でも奥さんは早く帰ってこいって言うし……。変わりに深山さんを……」
私が言えた義理じゃないが……引きずってでも帰らせるぞゴルァ。
※一緒に飲みに行きました(旦那も)
《同僚!》
私の旦那は係長と同じ部署のエース。高身長で眼鏡、周りからはクール眼鏡と呼ばれている。
「深山さんいいよねー、あんなカッコイイ旦那貰えて……」
まあ、確かに見た目はいい方かもしれない。
私も最初はそう思っていた。
「ねえねえ、家ではどうなの? 実は滅茶苦茶、甘えんぼだったりしてー!」
「そうですけど……」
「あはは、またまたぁ~」
私はそっと、旦那がフカモフパジャマを着て寝ている所を盗撮した写メを、同僚へと見せる。しばらく写メに釘付けになり……
「……ねえ、今夜行っていい?」
「むふぅ、今日はお鍋が食べたい気分なり」
「まかせな!」
※ちゃんこ鍋美味しかったです
《飲み会!》
本日は飲み会。私の部署と、旦那の部署で合同の。ちなみにその席には係長も居る。
「かんぱーい!」
幹事の音頭で乾杯を。私は旦那の隣を陣取っている。そして向かい側には係長。
「係長、コイツ(旦那)はどうですか。真面目にやってますか?」
「それはもう。何といってもエースだからね。頼りにしてるよ」
旦那は何も喋らない。
基本的に不愛想な旦那。しかし身長も高く顔も悪くないから、結構モテる。
しかしその実態は……
「……茜さん、トイレに行きたいです……」
一人で行ってこい
「そこをなんとか……」
ええい、小学生か!
「……全身マッサージ……一時間コース……」
よかろう
※旦那のマッサージは格別よ!
《飲み会! その2》
「もどりましたー」
旦那と共にトイレから帰還。
すると既に係長達は出来上がっており……
「うぐっ……あの時、深山さんが辞めてたら……」
またそれ思い出して泣いてんのか、係長。
「わかる、わかるぞぉ! さあ、のめのめ!」
そしてそれを煽る、我が社の社長。
社長は全部署の飲み会に顔を出している。
そんな社長は、係長を潰した後、次のターゲットを旦那に。
「おいエース! 飲んでるかぁ!?」
エースって……確かに旦那は開発部のエースと呼ばれてるが……一人でトイレに行けない、お風呂にも入れない、シャンプーハット基本装備の……
「飲んでるっす……」
ちなみに旦那は麦茶だ。しかし酔っている。
社長はそれを面白がり、旦那のグラスに麦茶を追加。
ちょ、あんまり飲ますと……
「茜たぁぁぁぁん! 大好きだよぉぉぉぉ! 好きスキ、大好きぃ!」
ぐわぁぁぁぁ! 人前ではやめろ! っていうか麦茶でなんでそんな事になるんだ!
※女子社員のスマホへと永久保存版にされました
《帰り道!》
結局三次会まで連れまわされた後、帰路へと付く私と旦那。
帰り際、お腹が空いたという旦那と一緒にラーメンを食べに。
「ラッシャーイ!」
深夜だと言うのに中々混んでるな。
しかし飲みの後のラーメンは格別な味。どれだけ並んでも食ってやるさぁ!
「茜たん……おなかすいた……」
「たん止めろ。もう少し待ってなさい」
大人しくメニューを見ながら待つ旦那。
おぉぅ、めっちゃ美味しそうなラーメンが……しかし最近太ってきてるしな、普通にラーメン一杯で我慢しといたほうが……
「チャーシューメン……うまみそ……あじたま……ギョーザ……」
ぐわぁあぁぁ! ボソボソ囁くな! お腹空くだろメシテロやめろ!
※体重が一キロ増えました
《出社!》
飲み会の次の日の朝。
私達は何事も無かったかのように仕事へと。
充実した生活、社内の人間関係も良好で、たまに早く帰れという虐めにも遭うが、今の所平和だ。
そういえば……なんか忘れてる気がする。
何だっけ……まあいいか。
「深山さーん、旦那さんが呼んでるよー」
その時、私の部署のIDゲート前に、旦那が来ていた。
なんだなんだ、お前も仕事中だろ。
「どうしたの?」
「……これ、昨日渡し忘れた」
ん? なんだ、コレ。
小さい箱……チョコレートか?
そっと小さな箱を開けてみる。
するとそこには、ピンクダイヤの指輪が。
「……ん? え、何……」
「昨日……結婚記念日……一年目の……」
「お、おぅ……」
やっべぇ……完璧に忘れてた……。
「……これからも……よろしくね……」
そのまま顔を赤くして去っていく旦那。
私はその背中へと、勢いよく抱き着く。
「あ、茜たん?」
「たん止めろ……。あ、ありがと……」
うわ、ヤバイ……顔がたぶん真っ赤だ!
もう駄目だ! 穴があったら……
「今日、あのお店にいこっか」
あのお店? あぁ、係長の奥さんが働いてる店だ。
よし、今日は私のおごりだ! 沢山飲んでお食べ!
※体重が一キロ増えました
《子供!》
結婚して一年とちょっと。
突然ですが妊娠しました。現在妊娠八ヶ月目。
フフゥ、お腹もだいぶ大きく……私の中に私達の子供が……。
しかし流石に会社に行くのしんどいな……。
上司とか産休取れとか言ってくるけど……そんなんじゃダメだ!
私は女性だ、それはどうしようもない。
だからって……軽い目で見られるのは嫌だ。産休なんぞいらん! 私は逞しく生きるんじゃ!
※そのまま出勤して上司と同僚にガチ説教されました。
《出産!》
陣痛が来た。
少し早いが出産する事に。しかも帝王切開……うぅ、お腹切るのか……怖い……。
しかも私の中には二人の子供が居る。つまりは双子。
いきなり双子か……いや、誰でもそうなんだろうけど、私大丈夫だろうか。
二人の子供を私が育てれるのか……? 今更な不安が頭を過る。ダメだ、なんだか最近常にネガティブに……
手術が始まる。
局所麻酔だから、意識はある。
……怖いな。
お腹にメスを……赤ちゃん大丈夫だろうか。
あぁ、神様……お願いです。
私の子供を無事に……いや、神様にお願いしてどうすんだ。
先生……先生……病院の先生……
お願いします、私の赤ちゃんを……お願いします……
※後日、凄い睨んでくるから怖かったと言われました
《双子ちゃんだよ!》
帝王切開の後、吐き気と痛みとその他諸々でベッドの上から動けなかった私。
そのまま入院し、後日やっと赤ちゃんと対面出来る事になった。
旦那と共に小さなベッドの上で眠る双子ちゃんを見に行く。
二人とも女の子だ。一気に我が家は女が三人になったな。旦那は肩身狭くなりそうだ。
「茜たん……僕達の子供だよ」
「うむぅ、可愛いな。双子とは……色々二つ買わないとだな」
「僕、頑張るから。茜たんの分も入れて三つ買おう、いろいろ」
「私は酒とつまみさえあれば……あぁ、でも当分アルコールは駄目なんだっけ……」
我ながらなんちゅう会話しながら赤ちゃんを見てるんだと思う。
双子ちゃん……私達の赤ちゃん……可愛すぎる、もう今すぐ抱きしめたい。でも今しばらくの我慢だ。
「茜たん、頑張ってくれてありがとう。これからは僕が頑張るから……」
「だが断る」
「え」
頑張るのは当たり前だ。
私はあの、係長と二人きりだった会社で、多くを学んだ。
頑張るのは当たり前なんだ。
「これからは……家族みんなで頑張るんだ。いや……頑張りたい。いや、むしろ、あんたは何もしなくていいから。この子達は私のなの!」
「ぴえん! 茜たん! そこを何とか……僕だって頑張りたいのに!」
「ええい、この子達は渡さん、渡さんぞぉ!」
※看護師さんに静かにしろと叱られました。
一枚の写真がある。
私が学生時代に撮った写真だ。
真ん中に私、両側に友達。今までこの写真が、私の部屋でセンター的な位置を維持していた。
でもごめんよ。センターの座は……どうか譲ってほしい。
新しい写真をど真ん中へと。
そこには、私と旦那。そして新しい家族。
二人の子供を抱っこして、満面の笑みを浮かべる社畜の姿が……。
「茜たん! オムツ変えたのにご機嫌ナナメなんだ! たぶんお腹が空いてるんだ!」
「はいはい」
これからもセンターの位置は入れ替わっていくだろう。
新しい思い出を、作る度に。
END