元友彼の失脚
佐々木くんの暴走飲み会から1週間後の、日曜夜。
花枝は、彼と別れたお祝いの飲み会を、予定通り開いた。
メンバーはまだ女子3人、森くんは遅れて来るらしい。
今のうちに、破局までの顛末を、根堀り葉掘り聞かねば。
「で、結局いつ別れたの?」
美里は単刀直入に聞いた。
「え?
それはもう、月曜のうちに、話つけたよ」
はっやーー!!
「速攻だねぇ……。
半年で、もうガタがきてた感じ?」
「だって、思い出したっていいとこのが少ないのよ!?
そりゃ、別れの原因って10(じゅう)0(ゼロ)にはできないんだけどさぁ」
花枝はぐびぐびと酒をあおりながら、たまっていた恋人の愚痴を吐き始めた。
「いやしかし、花枝の交際が知れると思ったら、まさか別れ話まで聞けちゃうなんてねぇ」
「今日しかないから、思いっきり言わせて!」
こりゃ相当、しんどかったな……。
「アイツ、同じ大学で近すぎるから、お互いの友達には話さないようにしようって言ったんだよ。
それなのに、向こうのバイト先とか大学外の女の子と、遊びやがって!!」
「えぇーー!!
そうか、大学内では好感度の高い交際をしつつ、裏では遊びまくるって、かなりのワルですな」
「私だって、薄々女の影には気づいてたよ。
でも、みんなに何も言ってなかったから、相談もできなくって辛くってーー。
それで、生理遅れても寄り添ってくれないし、嘘ついて飲み会断行するし、奈緒にまで手出すなんて、もう無理だったよ」
「稀に見るドクズっぷりだねぇ。
被害も受けたけど、正体がわかって早く別れられて、よかったね」
「うん、二人のことも巻き込んじゃって、本当にごめんなさい。
でも、しっかり気づかせてくれたこと、感謝してる。
次は、遠慮しないでもっと話すようにするね!」
花枝は語りながら、気持ちが溢れて涙目になっていた。
私も、いろいろな意味でショックが大きかった。
でもそれは、花枝が佐々木くんの彼女になって発覚したワケで、彼女とつき合わないで私がいい仲になっていたら、私が同じ目に遭っていた可能性もあるよねーー。
そう考えたら、私も彼女の気持ちが移って、泣きそうになってしまった。
「私にも隙があったから、つけ込まれないよう、脇絞めていきます!」
「そうそう、雰囲気に呑まれないようにね」
美里も私を見て言った。
花枝は本当に救われたような、ぐちゃぐちゃの泣き笑い顔になった。
ひとしきり落ち着いた頃、彼女は化粧を直しに行った。
私と二人になった美里が、話し出した。
「花枝と佐々木、先週まではうまく行ってると思ってたのに、本当のとこはわかんないもんだね~~」
「うん……。
でもよかった、終わりにできたみたいで。
私だってあんな恋愛、したくないーー」
美里は意味深な目をして言った。
「まさか奈緒も彼のこと好きで、しかも狙われるなんてね!」
私はドギマギしながら答えた。
「1年の時だけだよ?
二人がつき合ってからは何もしてないし!
今回だって、二人とその友達の輪を広げようとしただけで、こんなことになっちゃって、もうコリゴリです!!」
美里は、フッと笑って言った。
「奈緒は正直者だよね。
これを教訓に、前進しないとね」
彼女の言葉に、心の傷をそっと手当されたような気がした。
そこへ、化粧を直してきた花枝と、遅れてやってきた森くんが、一緒に入ってきた。
「遅くなっちゃってすいません!
店入ったら花枝さんがいて、顔が赤いから飲み過ぎたのかなって、心配になっちゃって」
「もう、飲み過ぎてないって何回も言ってるのに、森くんてばさぁ……」
さっき泣き明かした花枝はすっかり戻っていて、なんなら森くんといい感じにさえ見えてしまった。
「……」
美里と私は目を合わせて、うなずいた。
「ごめんね、うちら明日一限あるから、早いけどお先に失礼するわ」
美里が切り出して、私達は帰り支度をした。
「え!?
ちょっと、これからみんなで始まるのにっ」
「さっき色々聞かせてもらったから、大丈夫!
森くん、後じゃあよろしくねっ」
「あ、えと、その……。
わかりました!」
まじめな顔で答える彼に私も笑いかけてしまい、二人を残して、私達は店を出た。
「奈緒、森くんと話してみたかったんだったら、ごめんね」
謝る彼女の言葉に、私はちょっとだけ考えてみた。
先週の飲み会が本来のメンバーで目的通りになっていたら、彼と友達になっていたかもしれない。
でもそれはもうないし、花枝と森くんが友達になれば私達も親しくなるだろうし、何より、森くんの花枝への好意が見えちゃってるしね。
「元から花枝のこと好きだったのかもね、森くん。
佐々木の近くでよく見てただろうし」
そうだよね、私も春くらいまではフワフワしてたよなぁ……。
森くんも実はそんな立場で、佐々木くんに嘘つかれて利用されたけど、逆に今度は盛り返せるチャンスかもしれない。
ハァーー、とため息をついてしまう。
「なに、奈緒、森くんいいなと思ってた?」
「いやーー、花枝がモテてうらやましいなぁって」
「本当だよねーー!
ねぇ奈緒、今度うちの彼氏の友達と飲まない?」
「ほんと?
彼氏さんの友達ってことは、年上だよね?」
「うん、3こ上。
先週送った後、そんな話してたんだ。
でも、あんなことがあった後だから、しばらくはうちらと4人で遊んだり飲んだり、でどうでしょう?」
「うれしい~~!!
じゃあ森くんの代わりに、年上の君に甘えさせてもらおうっと」
やなことがあればいいことがある、私の気持ちは上昇した。
それから3年になり、私は年上の男友達と、美里とその彼氏の4人で、よく一緒に遊ぶようになった。
夏頃になったら二人だけで会ってみたいなって、その時がすごく待ち遠しい。
花枝と森くんは、あれから程なくしてつき合い出した。
一途でまじめな森くんと、安心して楽しく過ごせているのがよくわかり、私達にも積極的に話してくれている。
そして当の佐々木くんは、その本性が暴露され、森くんはじめ周りの男友達が去り、大学も休みがちになっているらしい。
ほんの一、二年の間に、狭い人間関係の中で、恋して、くっついて、離れたりする。
明日だって、未来のことはどうなるかわからないけど、友情でも愛情でも、自分と相手を大事にできる関係を築いていきたいと、強く思った。