彼の本性
二人になって追加した飲み物で乾杯を促され、彼はお酒、私は相変わらずソフトドリンクを飲んでいた。
「美里ちゃんが言ってたけど、野沢さんて、奈緒ちゃんていうんだね?」
馴れ馴れしい……。
「俺も、奈緒ちゃんて呼んでいい?」
「それは、ちょっと……」
「そっかあ、残念。
じゃ、野沢さんで」
彼は部屋を見回した。
「せっかくの飲み会、結局二人になっちゃったね。
対面だと照れるから、隣行ってもいい?」
「いや、あのーー」
彼は私の話も聞かず、1メートルくらい隣に飲み物を持って移動してきた。
酔っ払ってる?
でも、それだけじゃない意図を感じるーー。
「野沢さんて、俺のこと見てた?
俺、何回か視線合ったことある気がするんだけどーー」
「た、たまたまじゃない?
佐々木くんて友達たくさんいるから、結構目立つんだよ~~」
私の密かな行動を言い当てられて、ひどく動揺した。
彼は私から視線を離さず、続けて言った。
「俺の高校の友達に、俺のこと聞いてたよね?」
嘘……、バレてる!!
「そんなことも、あったかも」
私は必死にとぼけた。
「うれしいな、俺、モテないからさ」
「彼女、いるじゃない」
「うん……。
実は、最近あんまり彼女とうまくいってなくって」
これ、よくあるパターン。
「そうなんだ」
「うん、だからさ、彼女の友達の野沢さんに、いろいろ話聞いてもらいたいんだよね」
さっきからずっと、意味ありげな目で見られてる。
「いや、私そんな資格ない……」
なんだか、逃げられなくなってきてる!?
「俺のこと気にかけてくれてた野沢さんなら、俺のだめなとこもいいとこも、わかってくれるよねーー」
私にも、脈があったってこと?
彼は私の手を握って、頬と耳の間にチュウしてきた。
でも、彼は花枝の恋人ーー。
その後も彼は離れることなく、密着して顔やら手やら動かしてきた。
これじゃ、私の好意を利用して、性的に軽く扱われるたけだ!!
悦楽は一瞬、その後に待っているのは、予想もつかないたくさんの苦難。
「い、嫌だよっ……」
大きな声も出せない、力も叶わない!
「!!
ちょっと、奈緒から離れなさいよっ」
その時美里達が入ってきて、彼氏が佐々木くんを私から引き離してくれた。
「ごめんごめん、ちょっと飲みすぎちゃって」
佐々木くんはごまかすように言った。
美里は思いっきり彼を睨みつけて、テーブルの端の私のスマホを回収して再生した。
二人になったほんの数分のやりとりが暴露され、私は消えてしまいたかったし、佐々木くんは居心地悪そうにしていた。
「佐々木くんて、こういう人だったんだね。
今から、花枝呼んでもいい?」
「それはちょっと、勘弁して下さい。
野沢さん、本当にすいませんでした……」
彼は、バツが悪そうに私に謝った。
美里と彼氏は、小声でやりとりした。
「じゃあ、佐々木くんだっけ?
とりあえずお会計しよっか」
佐々木くんの支払いに彼氏が立ち会い、私は美里に付き添われて店の外にいた。
やがて男達が出てきて、佐々木くんは目を合わせずに頭を下げて、歩き出した。
「今日のこと、花枝に全部報告するからねっ!!」
美里の言葉に彼は一瞬立ち止まって、すぐに去って行った。
「美里、私、ごめんなさい……」
やっと安堵して、涙が出てきた。
「ごめんね奈緒、二人だけにして」
私が落ち着くまで二人は待っくれて、帰り道送ってもらうことになった。
「本当は花枝にすぐ報告したいんだけど、体調悪いって言ってたからなぁ。
月曜日の昼でもいい?
奈緒の音声、聞かせることになるけど……」
「うん、再生は美里に任せるよ、私は離れてるからさ」
はぁ、と彼女はため息をついた。
「なんか、佐々木のくずっぷりにもびっくりだけど、まさか奈緒がヤツに気があって、それを利用されるなんてーー」
「本当に危なかった……。
私もショックだったけど、きっと花枝の方がーー」
「だよね。
月曜の決戦で、ヤツの呪いを解くかっ」
半分重い気持ちを残しながら、私達は帰路についた。