彼女のいない飲み会
「とりあえず、何飲む?」
佐々木くんは何事もなく、予定通り飲み会を始めていた。
「ウーロン茶」
「オレンジジュース」
「え!?
ひょっとして酒飲むの俺だけ??
せっかくの飲み放題なのに~~」
佐々木くんは大げさに驚いて、残念そうな反応をした。
「この後、予定があるから」と、美里。
「まだ20歳じゃないんで」と、私。
私本当は飲めるけど、会の流れが変なので、安全策を取った。
「そっかあ、じゃあ俺、代表してがっつり飲ませて頂きます!」
「飲み放題、一人いくら?」
美里は確認した。
「いやいや、俺の彼女と友達の都合で迷惑かけてるから、こっちでまとめて出すんで大丈夫だからね」
「……」
一見、気前よく見えるけど、やっぱりなにか裏があるような気がして、私と美里はアイコンタクトを取りながら、慎重に注文していった。
「佐々木くんてさ、2年になってすぐ花枝とつき合い出したじゃない?
1年の時から、仲良かったの?」
美里は、ぐいぐい聞き出していた。
「うーーん、去年の後期の授業、一緒だったんだよね。
で、その試験範囲のノート友達から借りたら、原本が彼女のだったんで。
よくまとまってたし、直に教えてって頼んで、そっから仲良くなった感じ」
そうだったのか、私は別の授業だから、どうりで知らなかったわけだ。
「花枝って努力家だし、おまけにかわいいもんね」
「そうそう!
これは行かなきゃだなって、勉強よりそっちがんばっちゃったよ」
彼が惚れたのかぁ、なんかちょっと心が痛い。
もう半年以上も経って大丈夫だと思ってたけど、やっぱり少し揺れてる。
「二人は学校以外って、どんなとこ行ってんの?」
「んーー、ちょっと離れたとこで遊んでる」
「なるほど、人目を忍んで逢い引きしてるんだ?」
「彼女照れ屋さんだからさ、知り合いに見つからないところで、二人の世界を作りたいのよ」
美里と佐々木くんは、花枝と彼の話で盛り上がっていた。
本当はそんな興味ないんだろうけど、時間をつぶすために共通の話題をふっているんだろう。
私はジュースを飲んだり、つまんだりして友達と彼氏の話をやり過ごしていたけど、早く終わらないかなーーと内心願っていた。
それから少しして、美里のスマホが鳴った。
「もしかして、美里ちゃんの彼氏?」
佐々木くんは意味ありげに言った。
「あぁうん、そうそう」
え、美里に彼氏、いつの間に!?
「じゃあ先約って、デートだ?」
「そうなの。
もうすぐ来られそうなんだ。
だから私、そろそろ……」
「野沢さんは、この後大丈夫?」
それまで美里としゃべっていた佐々木くんは、私の方に視線を変えてきた。
「え……、ちょっとなら?」
私は食べモードに入っていたので、当初の警戒が緩んでしまっていた。
「じゃあ、時間半分残ってるけど、30分だけつき合ってよ、ね?」
佐々木くんは、私をうまくキープしていた。
しまった、どうしよう、美里~~!
私はすがる目で彼女を見たが、困ったような顔をして言った。
「じゃあ奈緒、私先帰るから。
困った時は、連絡してよ?」
失敗した!
ああ……。
二人きりになった後、彼は追加の注文をした。
その時、美里からメールが入った。
「うちの彼氏が近くまで来てる、合流するから待ってて。
心配だから、録音しといてね!」
よかった!!
佐々木くんが店員さんに注文の話をしている間に、私は動画モードを起動して、画面を下にしてテーブルの隅にセットした。