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序章


 生きるのに必死だった。


 16歳になった頃、俺は死んだ。


 友達もおらず、唯一俺を可愛がってくれた母親は病で早くになくし、父親は毎日酒を飲んでは暴れ、俺はその度に殴られた。


 ある日、いつもの様に殴られた際に、頭の中で何かが切れる音がした。気付いた頃には、台所にあった包丁で父親を刺してしまっていた。

 俺は怖くなって、そのまま家を飛び出した。父親がその後どうなったかはわからない。

 こうして俺は、中学を卒業してすぐに天涯孤独の身となった。


 帰る家もなく、金もない俺は、生きるためになんでも食べた。

 公園の雑草、生ゴミから食べられそうな物を漁ったり。

 家を飛び出して最初の頃は、なんで自分は生まれてきてしまったのか、そんな事ばかり考えていた。

 しかし、いつしかそんな事も考えなくなっていた。考えれば考えるほど人生が嫌になるから。


 しかし、ある日そんな生活にも限界がきた。

 腐った食べ物を口にしてしまい、食中毒を起こしてしまった。不衛生な生活と栄養失調も重なって、身動きも取れない。ただただ苦しいだけの人生だった。最後の最後まで苦しみ、俺は路地裏で、生きるのを諦めた。



―――――――

「…失敗ね。弱すぎる。これでは勇者なんて成り得ないわ。」

 そう言って、空中に映るウィンドウ画面のような物を見ながら、美しく、神々しい女が呟いた。


「左様でございますか。ではこの人間はどうなさいますか?」

 全身白装束に身を包み、顔も白い布で隠した者が女に問う。


「そうね。必要ないから屑穴に放ってもらえるかしら。」


「かしこまりました。では記憶を消した後、屑穴に送っておきます。」


「…記憶の消去は必要ないわ。どうせすぐに蛆のエサになるだけだもの。」




 ――ここは神界。

 神と呼ばれる者が住まう聖域。

 そんな聖域にある、神殿のような建造物の一室。


 一面真っ白で何もない部屋に、女一人と白装束の者が複数人いる。

 その中心位置に、黒髪の青年が裸で横たわっている。年の頃は10代後半くらいだろうか。体型は華奢で、髪が長ければ、女の子にも見えるような見た目だ。


「私の子供に無能は必要ないもの。それにスキルも『悪食』なんて下品なものを持っているなんて。汚らわしいわ。さぁ、早く運んで頂戴。」


「御意。」


 そう言って白い衣装の者の一人が黒髪の青年の足を持ち、引きずりながら部屋を出て行った。


「…そう。私に必要なのは有能で強く、清い者なのよ。」

 女はそう言って、静かに目を閉じた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 白装束の者は青年を引きずったまま、大きな扉の前に来ていた。扉には無数の鎖と錠が付いており、厳重さが伺える。

 白装束の者が扉に手をかざすと、錠が開き、ジャラジャラと鎖が外れて、大きな音を立ててゆっくりと開いた。


 扉の向こうは、先ほどの部屋と違い、漆黒が広がっている。灯りも一切無く、まさに闇。


「これも神界、いや、女神様のため。…せめて、輪廻転生し、来世で幸せになれることを祈ろう。」


 白装束の者はそう言って、青年を扉の向こうへ投げ入れる。


 白装束の者が再び手をかざすと、扉が音を立ててゆっくり閉じていく。扉が完全に閉じると、鎖が伸びて錠が閉まる。


 白装束の者は、錠が閉まるのを確認すると、何も言わずに振り返り、去って行った。

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