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ピクシー・クレドール


「な、なんだ、誰だお前。なんで俺を知ってる」


やっと動く事を許されたかのような空間で、俺を知る少女に恐る恐る声をかけた。

少女はゆっくり顔をあげて微笑み、同時にまるで愛しいモノを見るかのような表情をする。


「ずっと……お待ちしておりました。このピクシー・クレドール、お迎えにあがらせて頂きます。さっそくですが奏様、貴方様にこの〝異〟世界セカンドを壊して頂きたいのです」


そう言いながら少女は二度目の微笑みを見せる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。そもそも君は何者なんだ……幻覚でも見てる気分だ。一度この状況を整理したいし、もう何がなんだかさっぱりで、悪い夢ならそれでいいんだけど、とりあえず……これって夢で合ってる??」


「えっ……??あっ、えっとその……」


まるで突拍子もないとでも言わんばかりに、俺から返された言葉に驚きを見せ戸惑う美少女。


「いやぁー、参ったよ。こんなに自分の意思と身体がはっきり分かる夢は中々ないからね。最初は本気で何かが始まったと思ったけど、よく考えたら俺は図書室に居たし、きっと心地よくてっ」


「あっ、あの!!えっと、夢じゃないです……。奏様も私も、〝異〟世界セカンドに実在している人間です」


一方的な認識。

人が生きていくにあたって1番無くては困るのは知識だ。

知らない事ほど恐ろしいものは無い。

だからこそ俺は自分が少しでも得をして生きていけるように何かを知る事には時間を惜しまない。

だが、今回に限ってはどちらかと言えば知りたくはないと思った。

夢の中の住人に夢じゃないと言われ、一週回って冷静になりつつもある。


「夢……じゃない??一瞬で元いた場所と違うところに移動していて、蝶に囲まれ、光の中から美少女が姿を表す事のどこが夢じゃないって言うんだ……」


「ええ。普通なら信じられません。ですが、私は奏様が〝異〟世界セカンドに召喚される事も、今後何をなされるべきかも、存じ上げております。私はそのお手伝いをするべくお迎えにあがられせて頂きました」


「まっ、待て待て!夢じゃないのならもう少し分かりやすく説明してくれ。君は全て知っている口振りだけど、俺は何が起こっているのかも全く分からないんだ。少しでも君の言う事を理解するにはもう少し分かりやすく教えて欲しい」


「かしこまりました。それでは可能な限りご説明させて頂きます」


輝く月の元、光る髪を夜風になびかせながら少女は淡々と語り始める。

恐怖こそもう無いが、訳が分からなさすぎて

冷静になりつつもある自分に心無しか落ち着きさえみえてきている。


「まず、現在奏様や私がいるこの場所は〝異〟世界セカンドと言われる空間です。話を分かりやすくする為にここでは簡単に、二つ目の世界と致しましょう。加えて、奏様がこれまで日々生活してきた空間が世界ファーストと呼ばれる一つ目の世界になります。要するに、奏様と私が実在、日々生活を共にしてきた空間は全くの別物と言うことです。これを前提に前置けば話は分かりやすいのです。ここで分かる、大きな違いと言えば世界ファーストでは、〝異〟世界セカンドの認識が無い。逆に〝異〟世界セカンドでは世界ファーストが存在している事は誰もが知る常識です。通常誰かが二つの空間を行き来する事は不可能なのですが奏様のように例外で、召喚書にお名前が載る人物に限り、どちらの世界にも存在する事ができ、二つの空間を好きなように渡る事が出来ます。結果、召喚書にお名前が載っている奏様は現在どちらの世界にも存在するお方となります。ここまで宜しいでしょうか?」


「よ、よろしいでしょうかと言われても。

さらに訳が分からなくなっただけなのだが……」


今までいくつもの物語やフィクションの世界をこの目で読んで、言うなれば1つの知識として自分の中に取り込んできたが、それはあくまで非現実的であるからこそ興味を持つ事ができ、知りたいと思えるものだった。

少女が語る物語をまともに聞こうと思えば理解出来ないが、話している事が仮に夢物語のような事だと過程をするならば聞く事だけはさほど難しくはない。が、今の段階ではそこまでにしか及ばない。


「簡潔に言えば、奏様は選ばれしお方だと言うことです」


「か……仮に世界が2つあったとして、そのどちらにも存在する事ができる人間が偶然にも俺だって事か?だとしても俺に何をして欲しいんだ?」


「簡単です。壊して頂ければいいのです。〝異〟世界セカンドを。そもそもあらゆる観点から考えても似たような空間が二つある時点で秩序のあり方が歪みます。加えて召喚書に名前が載る人物がどちらの空間にも行き来が出来るとするなら尚更です。そんなチート技を永遠と許していては争いに発展してもおかしくは無い。言えば、どちらの空間にも居て、どちらの空間にも居ない存在、世界ファーストに存在する時の奏様、〝異〟世界セカンドに存在する時の奏様、どちらもあってどちらもない。こう言い換えることも出来るのです」


「だからと言ってなぜ……その……〝異〟世界セカンド……??を壊さないといけなくなるんだ?いつから存在していた空間なのかは知らないけど今までもそうだったのなら今更になって壊すなんて事する必要があるのか?」


月が沈み始め光輝いていた髪が徐々に本来あるべき姿へと戻り始める。

暗がりの中若干の影になっていた小さすぎる顔も薄らと明るくなる彼方で全てをさらけ出すかのようにはっきりと見え始め、早朝の清々しさに心が深呼吸をするみたいに2人以外誰もいない森の中で言葉を交わし合う。


「全ては失敗の上成り立っているのです。この〝異〟世界セカンドすら本来は有るはずがないもの。それを維持するには何かしらの犠牲を欲しる必要があります。それを終わらせるべく私達は存在し、肉体から心までもが偽りだと認識しています。望まれない形で存在している〝異〟世界セカンド……」


「だ……だとしても。望まれない空間でも君や俺のように〝異〟世界セカンドでは世界ファーストと同じように暮らしている人達がいるんだろ?その人達はどうなる?」


一瞬、美しくも可愛らしくも整いすぎたその顔が引つる。


「何故、どうして……そんな事は、今ここで私の口から聞いてもさほど重要ではないのです。何故生まれてきたのかを説いても答えはみつかりませんし、例え結論があったとして、それでも生きるか死ぬなかのその二択。ならば起こるはずではなかった悲劇を起こさない為に知識を使った方が先決です」


今ここで最も知りたいと思える事を知る必要が無いとうやむやにされ、それによってその部分の結論を知ったと言っても過言ではないが、話を聞くだけでも他に手の打ちようがあるのではと思えて仕方がない。

このタイミングで触れられて欲しくない部分に触れた事で話は終わりかける。

事の重大さがいまいち分からないまま、ふわふわとしか頭ではそれが残らず仮に事実だとしてもいかに穏便に事態を収束させるかと、悩むしかない。


「それもそうだけど……まあ、俺にメリットが無かったとしても俺にしかできない事があるって言うなら協力はするけど、納得がいかなければ力にはなれない」


「ええ、その時はその時です。心しております。さて……もう夜も明けます、近くの村へ移動して格好をどうにかしましょう。今のままですと目立ちますので世界ファーストの人間だと直ぐに察しがつきます。面倒な事に巻き込まれて、もしも奏様に何かあろうものなら私が消されますので、どうか慎重に行動致しましょう」


「村?近くに村があるのか?ずっと森しかないと思っていたけど……」


「ええ、大丈夫です。奏様の今の格好では少々肌寒いでしょう。調度良いのでご案内致します」


確かに早朝の涼しさにしては寒過ぎる程の冷え込み。

俺が日々生活している空間、世界ファーストと今いる〝異〟世界セカンドでは季節が違うのかもしれない。

二つの空間について俺は何も知らない。

夢だと思うには体に当たる風と空気が痛く、生々しく感じるのはこれから何が起こるのか予兆しているかのよう。


「え……あぁ、分かったよ」

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