召喚の森
「うわぁぁぁぁあ!!!!」
ドサッ…
「っ痛てぇ …なに、なんだ、何が起こった」
白色の世界から一瞬、体が地面に叩きつけられるような痛みを感じ、閉じたままだった瞼を開ける。
得体の知れない空間に横たわりになる体に冷たい風が当たり、何事も無かったかのように辺りは静かな暗闇だった。
「寒っ…と言うか外?辺りも暗いし…一体なんなだ。俺は、図書室に居たはずなのに……」
夕暮れ時の図書室に居たはずなのに何故か今は
夜風に晒され辺り一面、木々の生い茂る森にいた。
冷たい風が吹く暗闇の中で唯一の光は夜空に輝く満月だけ。
何が起こっているのかさっぱり分からず頭の中をフル回転させるが何一つとして分かる事はない。
「それに…ここはどこだ。
はぁ、とりあえず、何か…を…」
バキッ…
地面に強く打ち付けた腰を起こそうと立ち上がろうとした瞬間、その拍子で何かを下敷きにしていた事に気づく。
「なんだ…?!」
音のした方を向くと緑の草むらに月の光で見えたのは液晶画面がバキバキになっているスマートフォン。
「最悪だ…。これじゃ誰にも連絡は取れないし、今時スマホがなきゃどうすれば…」
壊れたスマホを拾い上げ電源ボタンを押してはみるものの、画面はなんの変化もない。
途方に暮れつつも何をするべきか考えてはみるが全く理解できないこの状況では特にいい案は思いつかずため息が続く。
「はぁ…とりあえず、何かある所まで歩いてはみるか。突っ立ってるよりはマシだ。にしても肌寒いなぁ、いくら夏の夜は涼しいと言ってもこれじゃまるで秋の夜だ」
冷たい風が吹き続ける中、夏の制服姿では寒すぎるように感じ、身震いをしながらとりあえずは適当に歩いてみるが特に変わり映えしない風景に段々と不安が増していく。
「くそ、だいぶ歩いたはずなのに何で森を抜け出せないんだよ…。このままじゃ……」
不安や恐怖に混じって宛もなく歩き続けて体もそろそろ限界だと悟りはじめる。
「はぁ…ほんとになんなだ?まったく…夢ならこんなに目が覚めたいと思ったのは初めてだな」
ヒラヒラヒラヒラ
パタパタ……バサバサッ!!!!!
そう呟いた瞬間何かが俺の体を取り囲み無数の大群が飛び続ける。
「な、何なんだよ一体これは……
はっ、!ち、蝶!?」
「……こっち、こっちです。その子達に着いて来てください。奏様。」
蝶の大群の羽の音がうるさいはずなのにまるで頭の中から声がしたかのように誰かが俺に話しかける。
女の子のような声、それにどうして俺の名前を知ってるのか。
その途端無数の蝶が徐々に1つに、大きくなってまとまり始めた。
俺の腰ぐらいまで大きくまとまった蝶は俺のそばを離れそのまま森の中をゆっくり飛び進め始める。
「お、おい!今のはなんなんだ!どうして俺の名前を知ってるっ!着いてこいって、一体どこに……」
数時間歩き続けた森の静けさに、大きな蝶に向かって声を上げる。
「つ、ついて行くしかないか……」
さっきのあの声、どこかで聞いたことがあるような気がする。
懐かしい、寂しい、何度も何度も聞いたことがある。そんな気がした。
俺の名前も知っていたし、もしあの声の人に会えれば今何が起こってるのか、解決策も聞けるかもしれない。
「なぁ、蝶……どこまで歩くんだ……?」
そう、呟いたとその時。
ガサガサッ…
「なっ……今度はなんだ!?誰かいるのか?!」
ふいに何かが動く音がし、声を上げる。
続けて全身に突き刺さるような視線を感じ
体が勝手に震えだす。
何故だか恐怖のあまり動けない。
何が、そんなに怖いんだ。まるで怯えているみたいに。
「ガサガサッ……ガサガサ……」
「っ……なんだ!誰だ!出てこい!」
反動で音のする方に体が向く。
暗闇、月の光だけが頼りのこの森のなかで
音のした方だけを睨みつける。
今までの冷たい風が急に止み、辺りが一層闇と静けさに包まれる。
次から次に起きる異変に恐怖と不安で足がすくみ全身の冷や汗が止まらない。
「はは……くっそ……何なんだよ……」
一刻も早くこの状況から救われたいはずなのに
恐怖や不安に混じってこれから起こる出来事を心の底から待ち望んでいるかの様に心が騒ぐ。
震えてると思ってた体は、背筋に電流が流れてるかのうよにゾクゾクして自分でも何かは分からない感情が底から湧き上がってくるように身震いする。
「……こいよっ!!!」
そう言い放った瞬間、生い茂る木々の中の1つがキラキラと輝き出す。
息をのんで、あまりの静けさに少しでも動けば体が崩れるのではないかと思う程に、空気も月の光も、何もかもが輝き出した1本の大きな木に集中する。
「やっと、やっとだね。ずっと待ってたよ……。
召喚……我、主の元に」
どこからか聞こえてきた心地のいい声。
この声はさっきも聞いた。
まるで止まっていたかのようだった時を切り裂きその光がより一層強まる。
スーーーッ……パサッ
強まる光の中から異様なオーラをまとい金色の髪をした少女が地に足をつける。
凍りついていた世界がそれと同時に息を吹き返したかのようにざわめき出す。
「お待たせ致しました。奏様。」
そう言いながら髪を風になびかせ真っ白なドレスの裾を掴み、ただ呆然と見つめるだけの俺に深くお辞儀をした。