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港町アクルス


「だいぶ海の匂いがしてきたな。あれがアクルスか…陽が沈むまでにはなんとか着きそうだな」


 今歩いている街道沿いの風景を夕焼けが赤くつつみ始め、召喚される前に生きていた場所と同じ様に、この惑星カイモンズに来て初めての夜が訪れようとしていたころ、ようやく最初のミッションの場所【港町アクルス】に到着しようとしていた。


「――あの街でパートナーを見つけよ…か」


 パートナーの意味をぼんやりと考えながらも歩みは止めない。


『なぁミネルヴァ』


 思い立ったように念話を繋ぐ。


『あのゲームの指示って期限はないの?』


『――指示に期限が書いてなかったのなら、無いと思う…多分…』


 ……多分て…


『主催者サイドの女神様でもルール把握してないんだな』


『――仕方ないでしょ?私もプレーするのは初めてなんだから。創造神様に聞かされた事しか知らないわよ』


 まぁそれもそうか…造った本人はもう亡くなってるんだしさ。

 特別急がなくていいなら、とりあえず町に着いたら、寝床の確保が最優先だな。異世界初日から野宿なんて自殺する様なもんだし。


 晩飯何食べようかな〜?やっぱ港町だから魚か?さっき肉食べたしやっぱ魚だな。俺魚好きだし。

 そういや、果たしてこの世界には生食文化はあるんだろうか?日本人としては刺身買えないの結構キツイよな〜。



 そうこうしてるうちに港町アクルスの入場門が見えてきた。


 やっぱり魔物とかいる世界だから街が全体的に城壁みたいな高い壁に囲まれてるわ。

 でもココ港町なんだよな?海側はどうしてるんだろ?


 入場門にはやはり門兵が立ってるなぁ。身分証とか無いけど入れるんか?なんか不安になってきた。


『なぁ…俺何も身分証持ってないけど、町に入れてもらえるん?』


『大丈夫よ。この世界のほとんどの都市の入口で身分証求められる事はないわ』


『そうなん?ならいつ使うのさ』


『冒険者ギルドで依頼を受ける時と、達成報告する時…あとは商売を始めるときに商人ギルドでいるのと、高価な装備品をオーダーメイドする時くらいかな』


『なるほど』


 なら、いざ入りますか!カイモンズ初の町アクルスに!


 そして如何にも旅慣れた冒険者を装いながら、堂々と歩みを進める。


「お疲れ様〜」


 門兵に軽く挨拶をして入場門をくぐる。


「やっと着いた〜」


 ミネルヴァの祝福とやらのおかげで大した疲れもないが、やはり魔物が襲ってくる街道と、安全な町の中では安心感が違う。

 自分が思っていたより、精神的に疲れていたことに気づいた。


「とりあえず宿屋を探すか」


 うむ…どこがいいだろうか?まずは異世界ナビに聞いてみるか。


『なぁ、オススメの宿は?』


『私が知るわけないじゃない。──ねぇそれよりもアンタ失礼な事考えなかった?』


 ──女神センサーぱねぇ!これからは気をつけよう。


「うむむ…なら誰かに聞いてみるか」


 そう呟きながら辺りを見回す。


 いかにも旅人風な男の人、いかにも漁師風な男の人。どっちに聞いてみようか…う〜ん、こんなことなら門兵に聞いておけばよかったな。仕方ない旅人風な人に聞いてみよう。漁師風な人は見た目が怖い。


「あの、すいませ〜ん」

「何か?」旅人風な人は訝しげに此方を見てきた。


「この町にさっき着いたばかりなんだけど、いい宿知ってたら教えくれませんか?」


 道を尋ねられただけだと気づき男は少し警戒を緩めた感じで

「ああ、それならすぐそこに見えるトビウオ亭が値段もそこそこで飯も美味いですよ。値段が少し高くてもいいなら、港の方にある白鯨亭もオススメかな。飯もいいけど、部屋が広くてくつろげるよ」


「なるほど、トビウオ亭に白鯨亭ですね。ありがとうございました」


 礼を告げると旅人風な男の人は、港の方に向かって歩いて行った。親切な人で良かったぜ。


 ――なるほど、彼がこの町の人間じゃないのなら、白鯨亭に泊まっているんだな。ヨシ!今は金もあるし異世界初日だしってことで奮発して高い方に泊まろう!

 心にそう決め歩き出そうとした時、何かマントが後ろに引かれている事に気付いた──


 マントを引いた原因を探ると、そこには猫耳をつけた12、3歳の女の子が俺のマントを掴んでいた。


「──おわっ!」

 体がビクッと小さく跳ねる。


「ビックリしたぁ」


 まだ心臓がバクバクしてる。その原因をマジマジと見てみる。


 ――猫耳に尻尾まである。あれか、亜人てやつか?とりあえずなんでマント掴んでるのか聞いてみよう。


「どした?…なんか用かな?」


「…宿…」

「宿?」


「ウチ…トビウオ亭…白鯨亭より安くてオススメ…」


 ──なるほど客引きか…でもごめんなお嬢ちゃん。俺の心は白鯨亭でリッチな気分を味わいたがってるんだ。心がそう叫んでるんだ――


「…ごめん、宿は白鯨亭にしようかな〜て決めたトコなんだよねぇ」


 申し訳なさそうに伝えると、女の子は涙を浮かべながら

「…グスっ…トビウオ亭オススメ…グスっ…お客様連れてくまで家に帰れない…グスっ」


 ──!

 オイオイやめてくれよ…そんなん言われたら断れないじゃないか。くうぅぅ…仕方ない…残念だけど白鯨亭は諦めよう。

 なんてったって犬も猫も好きな俺だけど、どちらかと言われれば完全に猫派な俺なのだから。

 猫の亜人の女の子泣かせてまで他所には行けないぜ。


「分かった分かった。お世話になるから泣かないでくれよ」

「良いんですか?ありがとうございます!」


 うん、良い笑顔だ。


 そうしてなし崩し的に宿は決定した。


 手を引かれるままにトビウオ亭に入る。


「お母さん!お客様お連れした!」


 その声に受付の奥で何やら作業していた大人の少しだけ恰幅のいい猫の亜人女性が振り返る。


「あらまあ、いらっしゃいませ。トビウオ亭へようこそ」


 うむ、この子の母親だけあって笑顔の気持ちの良い接客だ。


 どれくらいこの町にいるかが、わからない。とりあえず一週間くらい宿とっておくか。

 いや、途中で白鯨亭に宿を変えてもいいしなぁ。


「アキトシ・クガと言います。三泊ほど泊まりたいんだけど、お願い出来ますか?」


「これはご丁寧にありがとうございます。大丈夫ですよ。料金は朝食と夕食付きで一泊銀貨2枚、三泊で銀貨6枚ね」


 一泊2食付きで2,000円か…確かに物価は安いみたいだな。

 懐の小袋から金貨を一枚取り出し支払いを済ます。お釣りを受け取ると


「メルシー、お客様をお部屋に案内して。二階の奥の部屋だよ」

 そう言って鍵を娘に渡す。


「お客様こちらです」


 案内されるままについて行きながら、この女の子の名前は()()()()か…名前からして()()()()()なんて接客業の鏡ですな。まぁこの世界でメルシーはありがとうて意味じゃないんだろうけど。


 そして部屋に着くと、メルシーから鍵を受け取る。


「ごゆっくりおくつろぎください。夕食は今の時間からならいつでも準備出来ますので、いつでもお声をお掛けください」


「ありがとうメルシー。メルシーていい名前だね」


 そう伝えるとメルシーは恥ずかしそうに礼を述べて部屋を出て行った。


 ──さて、夕食の前に…


『おーい』

 女神に念話を繋ぐ。

 …

 ……

 ………あれ?

『おーーい、ミネルヴァ〜!』


『はいはい、なに?』


『何ですぐ返事しないんだよ』


『――い、色々あるのよ私にも!…で、何よ?』


『…まぁいいか。それよりもこの世界は亜人とかいるんだな。ビックリしたよ』


『地球人から見たらそうかもね。他にもエルフやドワーフもいるわよ』


『やっぱりいるのか。ファンタジーですな』


 亜人にエルフにドワーフか…ベタだな。一生懸命生きてる人達には失礼だけど。


 さて、先に夕食をいただきますか。


 そして俺はダイニングに向かい、夕食をお願いした。

 見事に魚尽くしだが、メインのフライもスープもどれもかなりの味だった。

 こりゃコッチにして正解だったかもな。


 腹を満たして部屋に戻ると、ベッドに身を投げ出し指示について考えようとしたが、その柔らかさと安心感から、そのまま眠りに落ちていった。

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