ゲームスタート
ついに俺はそのボードゲームのスタート地点に立った。いや…立ってしまった。
今になって膝が笑いだす。決めたハズの覚悟も今になって簡単に崩れ去る。
「な、なぁ…やっぱりもう少し後にしないか?」
「ダメよ。何?今さら怖気付いたの?」
「だって不安に今にも押し潰されそうなんだもん」
ボードの盤面を見ても何もわからないし、何か情報があるわけでもない。
遠くの方に霞みがかった山が見えるくらいだ。
「案ずるより産むが易しよ」
「何でそんなことわざ知ってんだよ?」
その問いにミネルヴァはハッとした顔をして
「説明してなかったわね。久我は召喚された時点でコチラの世界の言葉を自動翻訳するスキルを手に入れてるのよ。読み書きもそのスキルで出来るわ。だから私が言った言葉が久我の知ってる一番似た言葉に変換されて聞こえてるだけ。初めから私と会話が成立してたでしょ?」
「いや、便利過ぎだろそのスキル」
なるほどねぇ。なんの苦労せず英語をマスターした様なもんか。ぜひこのスキルを地球に持ち帰りたいぜ。
「──とにかくそろそろ始めるわよ」
「──もうちょっとだけ待って」
よし、こんな時は深呼吸だ。深呼吸は吸うより吐くほうが大事だったな。
「ハァァァーーーー」
「スゥゥゥーーーー」
俺は目を閉じ、落ち着くまで腹の底から息を全部吐き出し、肺の限界まで息を吸う深呼吸を何度か繰り返した。
ヨシ!ここまできたらとにかくやるしかない。出たとこ勝負だ。
「──OKミネルヴァ…OKだ」
「なんで2回も言うのよ」
そう言いながら女神はいつの間にかルーレットを手にしていた。
…ん?
「ちょっと待てミネルヴァ」
「何よ今さら?」
「その手に持ってる小さい物はなんだ?」
「ルーレットだけど?」
イヤイヤ、それは見ればわかるよ。
「そうじゃない。このどでかいボードゲームのルーレットがらその手持ちの小さいやつなの?それ人◯ゲームのルーレットじゃね!?」
ミネルヴァはハァッと溜息をつきながら
「よく考えてみて?こんな大きなボードゲームなのよ?どこかに据え置きだと不便じゃない」
「ぐぬぬ…言われてみればそうだな。そうなんだけど、何となく腑に落ちん」
なんか星を救う為にボードゲームやるってんのに、なんかチープ過ぎるんだよなぁ。まあ元がオモチャだから仕方ないのか…
「なんだかなぁ…」
「もうつべこべ言わないの。細かい男はモテないわよ」
「――ぐっ…モテなくて悪かったな」
「自分だって男に会ったの初めてだからモテた事なんてないくせに」
ボソッと呟く。
「――聞こえてるわよ。私は神だからモテなくたっていいの」
「むしろ神様のがモテなきゃイカンでしょ。信仰されませんぞ?」
「──ぐぬぬ…」
ヨシ勝った!俺は拳を握りしめた。
「もう知らない。じゃあ始めるわよ!」
「おまっ…ちょ、待…」
言い終わる前にミネルヴァは徐にルーレットを回した。
「オイィィ…勝手に始めんなよ!!」
その間にもルーレットは回り続ける。
パタパタパタと小気味のいい音を立てながらルーレットは回り続ける。
「何が出るかな?何が出るかな?フフフフンフン」
ミネルヴァは鼻歌交じりに回り続けるルーレットを見ていた。
そんな光景を見て少し冷静になった俺はある事に気づく。
これってどんな数字が出たって、マスに止まるまでは何があるかはわかんないんだから、ここで緊張する必要なくね?
大きい数字で早く進めば良いってわけでもないだろうし。
そんな事を鼻歌交じりな女神を若干引いた目で見つめながら考えていると
パタパタ…パタ…パタ…
「──ゴクリ──」
ルーレットが止まる気配を見せ始め、俺は生唾を飲んだ。
パタ…パタ……バタ………
ついにルーレットが止まる初回に進む数字が決定した。
[4]
「4よ!4マス進むのよ久我!」
いきなり縁起の良くない数字出すんじゃねーよ
「はいはい、4マス進めばいいんでしょ?」
震える足で俺はついにその創造神様が造ったボードゲームに降り立った。
「1…2…3……4っと。着いたぜ〜」
すると俺が辿り着いマス目が淡く光り、マス目に文字が浮かび上がった。
[港町アクルスでパートナーを得よ]
うん?町はわかるけどパートナー?仲間?相棒?それとも恋愛的なアレか?分かりづれぇな。
「なぁパートナーてなに?何的なパートナーの事?」
「さぁ?それも含めてミッションなんでしょ?」
「クッ…やるのは俺だから他人事の様に言いやがって」
そんなやりとりをしていると、マス目がまた淡く光り出した。さっきより光が強いみたいだ。
「さぁ、時間よ。とりあえず一つ目のミッションよ。頑張って来なさい」
通常のゲームなんかで考えればスタート地点でそんな難しいことはやらされたりしないだろ。気楽に考えよっと。
すると足元に赤い魔法陣が浮かびあがり、強い光に体が飲み込まれ始めた。
「うわわっ!なにこれ?転送?」
「そう、それは転送陣よ」
完全に光に飲み込まれる寸前に
「頼んだわよ久我…星を…」
そう聞こえた瞬間に俺は光に飲み込まれ、浮遊感を感じたと思うと、次に目を開けた時は見たこともない場所に立っていた。




