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星法器

 

 ──なんだかバルムンクやら飛竜のマントやら授けられてその気になりかけてる。上手()()()()たのか?

 でも悪い気はもうしなくってきていた。どうせこのボードゲームをクリアしなけりゃ帰れないんだし。

 さっくりクリアしてついでに星も救ってやろうじゃねーか。


「――ミネルヴァ、俺やるわ――」


 思いも寄らない言葉だったのか、ミネルヴァはその美しい瞳を大きく見開いたまま固まっていた。

 固まったままの美しい瞳から、静かに溢れ出した涙は、雪のように白い肌を濡らしていた。


「そう願っていたはずなのに…そう言ってもらえるとは思えるはずもなかったから…」


「──嬉しい…ありがとう」


 美しい髪はとても優しい顔で微笑んだ。


 ――――――――


「さて…準備はそれなりね。どう?覚悟は決まった?」


「――ああ、なんとかやってみる」


 そう閉じていた瞳を開いて、静かに…それでいて力強く答えた。


「なんか聞いておきたい事はある?」


「俺が下界に行ったらミネルヴァとは連絡はとれるのか?」


「そりゃとれるわよ?神さまよ私。心の中でいつでも話しかけて」


「念話…テレパシーか?便利なもんですな」


「でも話せてもほとんど力は貸せないわよ?私が力を行使すると周りへの影響が大きすぎるから」


「…つかえねぇ〜…」

「く、久我アナタ失礼よ、神に向かって使えないって!――もうっ!他にはないの?」


  俺は少しばかり逡巡してから口を開く


「──なぁ、このボードゲームって使うのは俺が初めてなのか?それとも以前にもこのゲームに挑戦した奴がいるのか?」


「その答えはいるともいないとも言えるわ」


「どゆこと?」



「このボードゲームって、元は私達に創造神様が作ってくれた遊び道具だったのよ」


「遊び道具?」


「そう。その時はこんなにも大きくはなかったんだけどね。創造神様が御自分の死期を悟られた時に、私達にコレをパートナーと共に使って完全な神になりなさいって作り変えてくれたのよ」


「元はオモチャ…オモチャに俺は自分の運命を預けるのか…」


 俺は急に肩の力が抜けていくのを感じていた。


「元…元オモチャだから!」


 慌ててミネルヴァは俺をフォローする。

 ふむ…慌てるミネルヴァも美しいね。



  そんな事を言いながら、ミネルヴァはまた魔法陣を描きその中から小さな箱と小袋を取り出し、小袋をおれに渡した。


「はい、まずは当面の生活資金ね。」


 渡された小袋の紐を解き、中を見てみる。

 中にはたくさんの金貨が入っていた。


「金貨30枚よ。足りなくなりそうなら向こうでミッションをクリアしつつ、冒険者ギルドの依頼なんかをこなして稼ぎなさい。」


「やっぱり冒険者ギルドとかあるんだ」


「そりゃあ魔物と危険な動物とかいる世界だしね」


 バルムンク渡された時に思ってたけど、魔物いるわな〜そりゃ。異世界物の定番だし。


「ちなみに金貨1枚でどれくらいの価値なん?」


「日本円で1万円てところかな」


 ふむ、旅立ちの資金に30万か。悪くはない。某世界を救うゲームとかだと雀の涙ほどしかもらえないしな。


ちなみにカイモンズの貨幣価値は


  金貨1枚―――10,000円


  銀貨1枚―――1,000円


  銅貨1枚―――100円


  銭貨1枚―――10円


他にも大金貨とかあるらしい。


 貨幣価値はこんな感じで、日本よりかは物価も安いらしい。お金の感覚は向こうで使いながら覚えた方が早そうだ。


 俺が小袋を懐に仕舞うのを見届けてから、ミネルヴァは小箱をこちらに渡す。その顔は妙に真剣だ。


「この小箱の中にあるものが本命よ。1番大事なもの。肌身離さず身につけてなさい」


 そう言って小箱の中から、ネックレスの様な物を取り出す。そのペンダントトップには意匠を凝らしたガラス?みたいな透明な土星の様なものがついていた。


「──これは星法器──創造神様が駒になる者に必ず渡しなさいと仰ってた神器よ。」

 

 そう言って俺に星法器とやらのネックレスをつけてくれる。

 そう言いながら、花の様ないい香りと共に不意に近づく顔に俺は鼓動を早くした。


「これでよし…と」


「──ねぇ?この星法器?だっけ?これは何なの?」


「――さぁ?私にも詳しい事はわからない。ただミッションをクリアするとその球体の中に光の液体の様なものが溜まっていくらしいわ」


「ほう…それを溜めていくとどうなるん?」


「このボードゲームには一応ゴールのマスはあるんだけど、そこに行く前に星法器を満たしておかなきゃいけないみたいなの。それにその液体を使って神聖な力を行使したりもできるらしいわ。使うとその分減っちゃうらしいんだけど…久我が地球に帰るのにも星法器の力が必要らしいわよ」


 ふむ。わからん。地球に帰るためにもゴールの前にとにかくこれを光の液体でいっぱいにしとけばいいってことか。


「ミネルヴァもあんまり知らない神器みたいだな」


「創造神様がそう仰ってたの聞いただけで

 、これを誰かに渡すのは私は初めてだからね」


「──私は?」


「創造神様が過去に邪神が現れて、討伐する際に一度だけ使った事があるらしいわ。その邪神討伐の件も私は詳しくは知らないんだけど」


  邪神とかいるのかよ。討伐したって言ってたけど怖すぎ。ミッションでそんなん出ないよな…出るなよ〜。アカンアカン──フラグが立っちまう。


「とにかくミッションクリアして、これを一杯にしてゴールすりゃいいってことね」

「そうね…カイモンズを…星の未来をお願い」


 ううぅ…期待が重いぜ。



「じゃあ準備もできた事だし、スタート地点に行くわよ」


 ついに始まるのか…どうなることやら…

 ――胃が痛くなってきた――


 痛む胃をさすりながら、歩いて行くミネルヴァの後を追い、ついに俺はボードゲームのスタート地点に立つのであった。

ここまでが書き溜めてたものです。

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