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温泉の街エマ・スプリングス3

「マリルとリリルじゃないか!久しぶりだな〜!元気にしてたか!?」



 声を掛けてきた男性がマリルとリリルに近づいて笑顔で話しかけている。どうやら2人の知り合いのエルフの様だ。

 …だが知り合いのエルフだからこそ大丈夫なのか?



「久しぶりピートのオッチャン」

「ピートさんお久しぶりです」


 2人は気まずそうに伏し目がちに話している。


「森でお前らの事聞いて心配してたんだ。元気そうで何よりだ」


「…いろんな人に助けられて何とかやってこれました」

「今はこの兄ちゃんと冒険者しながら旅してんだ」


 そう聞くとピートと呼ばれていたエルフの男は、久我を見て背筋を伸ばした。



「私の名前はピート。行商人をやっています。この子達とは違う村の出身ですが、行商で森を何度も訪れていて顔見知りなのです。森でこの子達の事を聞いて身を案じていたのですが…2人が世話になっているようで礼を言わせてください」


 …なるほど…マリル達を森から追い出したエルフとは違うわけか…


「はじめまして冒険者をしている久我と言います。どうか頭を上げて下さい。俺も2人には助けられていますから」


「いい人に巡り合えたみたいだな。とにかく会えて良かったよ。行商が上手くいったから奮発していい宿取った甲斐があったってもんだ」



 聞いてみると普段は近くに来てもエマ・スプリングスに寄ることは、まず無いそうだ。

 今日はたまたま行商で大商いがあり、自分への褒美として夜光蝶に泊まる事にしたそうだ。


「とにかく元気でいるみたいで良かったよ」


「ま…何回か死にかけたけどな」


「食べる物が何日も無かったりね」


「…お前ら笑ってるけど、笑い話じゃないからな」


 マリルとリリルも始めは気まずそうにしていたが、昔の馴染みに会えて何だか嬉しそうだ。


 久我は気を利かせてミネルヴァを連れて先に部屋に戻っていると伝える。

 するとピートが提案をしてきた。


「いろいろ話も聞きたいですし、2人が世話になってる礼も兼ねて夕食をご馳走したいのですが、いかがでしょう?」


「俺は2人が良いなら構わないよ」


「私もどちらでも構わないわ」


「マリルとリリルはどうかな?」


 ピートが尋ねると、マリルもリリルもタダ飯と聞いてOKサインを出す。


「では日が暮れる頃に、ロビーで待ち合わせということでどうでしょう?」


「了解です。じゃあ後ほど…」



 そう言ってピートは一旦別れて自室に戻った。

 自室に戻ってから、リリルの荷物をミネルヴァ用に取った部屋に移動させてから、再度男部屋に集まった。



 ◇◇◇◇


「…」


「…なぁミネルヴァ…なんでリリル拗ねてんの?」


「…リリルも女の子だからね。色々あるのよ」


「はぁ?」


「兄ちゃんはニブチンだよな。元の世界でもモテなかっただろ?」


「なんだよイキナリ。モテなかったけど何か関係あるのか?」


「こりゃ重症だわ」


 そう言ってマリルとミネルヴァが顔を見合わせてから大きくため息をついた。

 そして2人は久我を放ってお茶を淹れだした。


 その2人の行動が久我は何だか腑におちないでいた。


「…ったく何だってんだ!?マリルは何だか拗ねてるから話しかけて辛いし…もういい!昼寝してやる!」


 今度はマリルとミネルヴァに呆れられた久我が拗ねて不貞寝してしまったのだった。



 ◇◇◇◇



 ………


 ……


 …ここは?


『やぁクガ!お早いお戻りだね!』


 ───!!


「うげっ…師匠!」


『うげっ!…は酷くないかい!?』


「す…すみません!まさか俺自身もこんなに早く戻ってくるとは思ってなくて…」


『でも来てしまった以上は稽古の時間だ。私の貴重な時間を無駄にしてくれるなよ?』


「…マジか…嫌すぎる…昼寝するんじょなかったよ…」


『嫌だろうが何だろうが、強くなる為には避けては通れないぞ。さ、今回は硬い敵と戦う時の基本的な剣の使い方だ』


「硬い敵…この前ザナスでの甲虫系の魔物は結構硬くて大変だったなぁ…」


『馬鹿者!あんな敵を硬いと言っててどうする。もっと硬い敵はいくらでもいるぞ。そもそも素人は、どんな敵でも斬りかかろうとし過ぎる。本来剣とは相手に押し付けてから、手甲などを剣の背に当てて押し切るものなんだ』


 剣聖と呼ばれたマナ・ブラックリーバが木剣を使い、身振り手振りしながら説明している。


 …なるほど、アニメや漫画なんかでカッコよく敵を斬り裂いているのを良く見かけるが、アレは本来の剣の使い方ではないのか…。

 本来の使い方は、剣の背を手甲で押し込むのか…何だか不格好だな。


 一通りの説明が終わると、師匠との実戦形式の稽古が始まった。

 1日に2度目の地獄の扉が開いた。




 ◇◇◇◇



「うわああぁぁああ!!」


 昼寝をしていたはずの久我の突然の叫び声に、ミネルヴァ、マリル、リリル、オリちゃんの3人と1匹が小さく跳ねたかの様にビクッとなる。


「!!ビックリしたぁぁ!」


「胸がドキン!としました」


「急に大声出さないでよ。ビックリするじゃない」


「ピィ!ピィ!」


 各々自由に寛いていたところを、突然の叫び声で驚かされた面々が、口々に久我にクレームをつけた。



「す…すまん。だが俺も地獄から何とか生還した所なんだ…」



「何言ってるの?」


「?」


「…まさか兄ちゃん…」


「…そのまさかだ」


 昨晩同じ体験をしたマリルだけが、久我に何が起きたのか見当がついたようだ。


「何アンタ達だけで分かりあってるのよ!?」


「マリル何か知ってるの?」



 理由に心当たりのありそうなマリルにミネルヴァが尋ねる。



「知ってるも何も…昨夜も同じ事があったんだよ」


「マリル俺から話すわ。夢の中で剣聖に剣の稽古つけられてるんだけど、それが地獄の辛さなんだよ」


「アラ…光栄な事じゃない。剣聖に剣の稽古つけてもらうなんて、クガ以外どれだけ望んだって叶わないのよ?」


「待て待て待て待て。俺は1秒たりとも望んじゃいないぞ。強制参加させられてるんだ。…そりゃ稽古つけてもらえるって分かった時は、強くなれるし嬉しかったけど、まさかあそこまでの地獄とは…」


「そうだとしても、強くなれるんだから頑張りなさい。ザナスで倒した魔族が、魔族の中で一番強いはずがないわ…私達ももっと強くならなきゃ」


「それはもちろん分かってるさ」


 そう…俺自身もっと強くならなきゃいけない事は、十二分に理解している。この前の魔族くらい一人で難なく倒せるようにならなければ…。



「…あの…」


 それまで久我とミネルヴァのやり取りを、ハラハラした顔で見ていたリリルが口を開いた。


「そろそろ陽が落ちてきたので、ピートのおじさんとの待ち合わせ場所に向かいませんか?」


「そうね…行きましょうか。念のために言っておくけど、私が女神という事は秘密よ」


「言っても信じないだろうけどな。ま、言わないに越した事はないかもね」


「どっちでもいいから早くこうぜ。俺腹減って死にそう」



 そうしてエルフのピートとの待ち合わせ場所に向かう事にした。

 部屋を出る時にリリルに軽く礼を言っておく。


「リリルありがとう。助け舟出してくれたんだろ?」


 ミネルヴァと言い合いになりかけてた時に、絶妙なタイミングでリリルが口を開いてくれたんだ。


「いえ…」


 そう一言だけ言ったリリルは、とても嬉しそうにしていた。



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