閑話
久我たちが襲撃が実際に起きる事を証明する為に歩き回り、ジャイアントスタッグビートルを倒した頃、神界でその動向を見守っていたミネルヴァは、自分も下界に顕現して防衛に参加する可能性を考えていた。
「もしかしたら人手が足りないなんて事もあるかもね…真正面からなら、バルムンクが弾かれるほどの硬さ。一匹一匹倒すのに相当手こずるかもしれない」
やはり遠距離攻撃の手数は多い方がいいと考え、ミネルヴァは1人宝物庫に向かう。
厳重に掛かっている封印を解き、重い扉をゆっくりと開ける。
自分が扱えて、遠距離攻撃が出来るものとなると、やはり弓だ。杖で魔法を増幅してもいいのだが、魔法自体は杖がなくても使う事は出来る。杖は魔法の補正や補助といったサポートの意味合いが大きいものだ。
ミネルヴァは宝物庫に入り、納められている武具に目を通していく。
剣に刀に槍に杖、それに斧に鎚、様々な武器をその目にしながら弓が納められている場所に辿り着く。
そこにあるのは、イチイバルに生弓矢にシャランガ、雷上動に乾坤弓、アイジェク・ドージ、そしてフェイルノート…地球で数々の伝説や神話を彩ってきた弓の数々だ。
ミネルヴァはその中からイチイバルを手に取り、その感触を確かめる。
本来ミネルヴァが弓を使うならフェイルノートを使うところだが、今回はイチイバルを使うつもりだ。
イチイバルは、1本の矢を引く力で10本の矢を放つ事のできる弓だからだ。
──今回はいかに手数を多く出来るか…それにかかっている。
イチイバルを持ったまま、宝物庫を出て扉に厳重な封印を施す。
そしてそのまま試射が出来る場所に向かう。
目標に向かってイチイバルの弦を引き絞る。その右手には矢は持っていない。正確には魔力で作り出した魔法の矢を持っていた。
限界まで引き絞った弦を一息で放つ。放たれた矢は凄まじい勢いで飛んでいき、空中で10本に分かれ、それぞれ別の的に命中した。
「ふぅ…こんなものね」
手に持つイチイバルをしみじみと見つめながら、今回の襲撃ではミネルヴァ自身が顕現して参戦する可能性も低くはないと考える。
出来るならば、ミネルヴァは自分が直接下界に行くのは可能な限り避けたかった。
顕現するのに余りにも膨大な魔力を使ってしまうからだ。
だが魔力消費を渋って、久我たちが全滅していては本末転倒。
いざとなったら迷っている暇はない。
少しでもアイツの力に…。
そして彼女は青を基調とした専用の鎧に身を包み、戦いへと身を投じていく…




