ネーミングセンス
夕食を終え、ミネルヴァが新たに作ってくれたリビングスペースで、家族の団欒の様なものを、久我たちは満喫していた。
1人用ソファに座るミネルヴァと、テーブルを挟んで同じ1人用ソファに座る久我。
そして3人用ソファに並んで座るマリルとリリル。オリちゃんはリリルの膝の上で寝ている。
──言い出しっぺは久我だった。
「なぁマリリル」
「なんだよ兄ちゃん。名前一纏めにするなよ」
マリルとリリルが膨れ顔だ。
「前から気になってたんだけど、お前達の合体魔法っつーの?2人で撃つ強力な魔法あるじゃん?あれの名前は誰が考えてんの?」
「あ、それ私も聞きたい」
ミネルヴァが乗っかってくる。やはり気になるよな。
「姉ちゃんまで何だよ急に」
「名前は2人で案を出し合って、いっせ〜の〜でで決めてるんです」
「だいたい採用されるのはリリルのだけどな」
────え!?
「2人の案を合体させる時もあります」
───イヤ、聞き間違いか!?
久我はミネルヴァと目を合わせる。そして、ミネルヴァに聞けとばかりに顎で指示を出す。
「え〜と…マリル。聞き間違いかもだけど、採用されるのは、どっちの候補って言った?」
ミネルヴァがキョドキョドしながら聞く。目は泳ぎっぱなしだ。
「だから〜、リリルのだって」
何故か残念そうなマリルと、勝ち誇った顔はリリルだ。
……あの物騒な名前はリリルが考えてる──だと!?
あの凶悪なネーミングセンスの持ち主は、リリル
──だと!?
ミネルヴァを見ると、口をパクパクさせたまま言葉が出てこない様子だ。
――ミネルヴァよ…俺たちの気持ちは今、確実に1つだぞ。
「いつも強そうなカッコイイ名前を考えてるんです」
───!?アレがカッコイイ…だと!?
リリル…そんな可愛い顔して、あの物騒な名前をカッコイイなんて言っちゃダメだ!
一応、マリルに確認しておこう。
「そ…そうか。リリルが考えてるのか…す、凄いな。ちなみにマリルは、どんなん候補に出してるんだ?」
ミネルヴァが激しく首を縦に振っている。
「ん〜と、この前トロールに使った風魔法の時は『エアロレーザー』で火魔法の時は『タワーインフェルノ』…だったかな」
───!!またもや久我とミネルヴァと思いが1つになる。
圧倒的にマリルの方が、ネーミングセンスあるじゃないか!というか、名前を合体させてる要素は何処だよ!?
念のため、水魔法のも聞いておこう。
「最初の水魔法のヤツ?アレは何だったかなぁ…あ、そうそう『ウォータープリズン』だ」
――やはり合体要素はない…そしてマリルの方がセンスがいい。だがこれはあくまでも俺の感覚でだ。
いや、ミネルヴァもそう思ってるはず…だけど2人は、いっせ〜の〜でで決めてると言った。
…つまり、マリルもリリルの案に賛同してるという事。
ダメだ…マリルも自分が思いつかないだけで、リリルの案の方が良いって思ってる…やはりこの双子のネーミングセンスはどこかおかしいのだろう…エルフの感覚では、これが普通なのか…。
ミネルヴァに目をやると、まだ口を開けて固まっている。
――そうなるよな…あの可愛いリリルが、あの物騒な名前付けてるんだもんな…やたら『殺』ってついた名前を…。しかも本人はカッコイイ名前って言ってるし…日本人の俺的には、カッコ悪いとまでは言わないけど、とにかく物騒過ぎるんだよな…。
久我とミネルヴァが困惑しているのに気付き、リリルが暗い顔になる。
「お姉ちゃん。私がつけた名前…変…ですか?」
リリルが涙目でミネルヴァを窺う。
慌てふためくミネルヴァは滑稽だ。
「そ、そんな事ないよ?私は素敵な名前だと思うな〜。だから誰が付けてるのか聞きたかったのよ、私はね!」
ミネルヴァが久我をチラリと見ながら、リリルの口撃を躱す――
───汚ねえ!そんな言い方したら、俺が疑われるだろ!
「…お兄ちゃんは?」
──やっぱりキタ!!
「オ、オレ?オレモ…カッコイイッテオモッテルヨ」
酷い棒読みになったが、何とか取り繕う。
「良かった…」
リリルが心底ホッとした顔をする。
「ねえ久我、何で今カタコトだったのよ?」
ミネルヴァが、ここぞとばかりに俺に全てを擦りつけようとしてくる。
──女神の癖に、やり口がセコイ…セコすぎる。
「べ、別にカタコトじゃねーし。あ、そうだ!俺の技にも名前つけてもらおうかな〜…なんてね。」
久我は動揺を隠せず、その場凌ぎに適当な事を言ってしまう――その結果、
「お!?いいじゃん。名前俺たちでつけてやるよ」
「そうね、カッコイイのつけてあげる」
「──!?べ、別に無理に付けなくていいよ。一応、『絶険・白夜』って名前あるし…つ、次に出来た技に付けてくれたらいいから…」
――アカン…双子はもうその気だ。もう考え始めてる
。助けを求めてミネルヴァの方を見るが、ミネルヴァは処置無しとばかりに、目を閉じ首を振っている。
その間にも双子は盛り上がって、候補を出し合っている…時々物騒な技名が聞こえてくるが、気のせいだろう…。
「なぁ…最終決定権は、俺にあるんだよな!?」
──そう…どんな名前を候補に挙げられるようが、決定権さえあれば問題はない。
「はぁ?」「お兄ちゃんに決定権はありません」
「そうよ。2人がせっかく考えてくれてるんだから」
ミネルヴァがニヤニヤしながら便乗する。
───こんのクソ女神がぁ!悪ノリしやがって!
どうしよう…凶悪な名前に、無理矢理変えさせられてしまいそうだ――助けて神さま…ダメだダメだダメだ!その神様に嵌められて、こんな状況なのに神さまに頼ってどうする。
考えろ…切り抜けるんだ…。
「「いっせ〜の〜で!!」」
「お兄ちゃん、決まりました!」
───ゴクリ──。
「結果発表〜!」
空耳なのか?ドラムロールが聞こえる気がする。
「撃殺フラッシュです!」
「はい却下」
一瞬の間もおかずに却下する。躊躇いなど無い。
撃殺フラッシュは無いわ〜。
「却下ってなんだよ、俺達がカッコイイの考えたのに」
「お兄ちゃん…ヒドイ」
いやいや、ヒドイのは君達のネーミングセンスだから。
何故がミネルヴァまでジト目で見てくるし――。
だが撃殺フラッシュか…合体させてるぽいな…今まで合体要素なんて一つも無かったのにだ。
一応どんな案があったのか聞いてみるか。
「フラッシュセイバー」
「撃殺刃」
「すぐこの二つに絞られたんだぜ?」
「どっちも捨てがたいから、合体させたの」
……まあどちらも微妙だ。ここからどうやって撃殺フラッシュに改名するのを防ぐかだが…
「良い名前…付けて貰えたじゃない…ぷっ…」
ミネルヴァは今にも吹き出しそうに笑いを堪えている。
──!!よく見ると太腿をつねっている。そうでもしないと吹き出してしまうのだろう。
――ここだ!…このチャンスを逃したら、改名の流れは変えられん。
「おや?女神様…太ももをつねってどうなされました?何か笑いでも堪えているように見受けられますが?」
ミネルヴァは久我の思わぬ反撃に、体をビクッとさせる。
「お姉…ちゃん?」
リリルの疑いの目だ。ふふふ…俺を嵌めた罰だ…リリルを悲しませたという十字架を背負うがいい。
「え?ちょ…何の事かな?ちょっと久我!」
「これはこれは…女神様はひどく動揺なさっている御様子」
──くくく…。
「なんだよ、結局姉ちゃんもバカにしてんのかよ」
「お姉ちゃん…酷い…」
マリルは膨れて、リリルは今にも泣いてしまいそうだ…少し可愛そうだが、撃殺フラッシュへの改名の流れだけは、回避させてもらおう。
「違う!違うの!名前で笑い堪えてたわけじゃないの!」
──くくく…無駄なあがきを…。
「久我よ!久我の顔見てたら…ね!わかるでしょ!?」
──オイ。
「わかんね〜よ。兄ちゃんの顔が面白いのはいつもの事だろ!?」
───コラ。
「そうだよ!お兄ちゃんはいつも面白い顔してるもん!お姉ちゃんは、私達の付けた名前笑ってたんだ!」
────リリルまで…。
「違う!違うのよ!?久我は確かに、いつも面白い顔してるけど、特別変な顔してたから…」
─────もういい。
久我は1人静かに立ち上がると、リビングのドアの前に音もなく移動して、
「お前ら酷すぎ…面白い顔してて悪かったな」
そう言い残し、涙目になってリビングを出て行った。
――残された3人は、飛び上がるように立ち上がり慌てて久我を追いかけた。
残されたオリちゃんだけは、何が起きたかわからずにまた眠りについたのであった。




