閑話 激闘の裏で
「やっぱり…聖槍アスカロンだわ…てことは…」
思い当たる節がある。
聖槍アスカロン――神界で管理されている神器の一つ。
何故か見た目は、所々偽装されているけれど、アレは間違いなく聖槍アスカロンだ。
その神器である槍を、久我と共に戦っているあの男が持っているのは何故!?
考えられるのは、あの子があの男に授けたという事。
と、言うことは、あの男は地球人!?
あの子がボードゲームに参加しているなんて…。
確かに創造神様は、仲良く協力してクリアしなさいと仰ったけど…創造神様が亡くなられたあの日から、自分の部屋に閉じこもったままで、会えていない。
そんなあの子が、いつのまにか地球から適正者を召喚して、ボードゲームに参加しているだなんて…
――俄かには信じられない…でも、確かめない訳にもいかない。
ミネルヴァは、ボードゲームの対岸を目指して歩き出す。腕は組んだまま、眉間に皺を寄せたままでだ。
『ミネルヴァ!何かカッコイイ名前はないか!?技の名前!』
久我からの突然の念話。技の名前なんて正直どうでもいい。
『…知らないわよ、好きに付けなさい』
適当に返事をしておく。
ボードゲームに沿って長い長い距離を歩く。いつしかそれは早足に変わり、徐々に駆け足になっていく。
──あの子に会わなきゃ…。
そしてついにボードゲームの対岸に近づく。
予想通り、自室に閉じこもっていたあの子が、ボードゲームの側で椅子に腰を掛けていた。
「やっぱりアレはアスカロンだったのね」
ミネルヴァの第一声がそれだ。久し振りに会えた、姉妹のように育った女神に対する第一声がだ。
自室に閉じこもってしまった時から、どれだけ心配していたのか…それなのに、第一声がそれだったのだ。
「私は私なりに、このボードゲームで戦ってるのよ」
そう返すのは、もう1人の女神――
「久しぶりね、ブリジッダ」
――ブリジッダ・ジアースだった。
「創造神様が亡くなって以来ね。ミネルヴァ――アナタの召喚した彼も頑張ってるみたいじゃない」
──さも当然のように!アナタは全て把握してるみたいね!
「おかげさまでね。アスカロンの彼はアナタが召喚したって事で間違いない?」
──何故、強がってしまうの!?
「そうよ。私が授けたわ。でも、ミネルヴァとは目的が違うけどね」
「目的が違う?どう言う事?」
「全てを話すつもりはないわ…今はね」
──何故話してくれない?昔は何でも話し合えたのに…。
顔を合わせないように、意図的に視線を逸らしているみたい…
「…今は…か。ならいつか話して貰えるって事でいいのね」
「…そうね」
――いつからこんな関係になってしまったのだろう…何を話していいのかわからない。だけどこの違和感は何だろう…わざと突き放されているような――
「──わかったわ。お互いクリア目指して頑張りましょう。ゲームはまだ、始まったばかりなのだから」
そう告げて、ミネルヴァは自分の場所に帰るため歩き出す。
『ミネルヴァ、聞きたい事あるんだけど…』
『おーい、女神〜』
目に涙を浮かべ、久我に返事をする事もなく、もう1人の女神の目に涙が浮かんでいる事に、気づく事もなく───。




