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手荒い祝福

 暗い海の底に沈んでいるような、深い眠りから徐々に目を覚ましていく――ここは?俺はどうして…オーガと戦って…あの槍イケメンめ…マリルとリリルは…?トロールはどうなった?…転送陣は…


 ───!そうか――なんとかトロールの群れから、メイの村を守れたんだったな。


 身体を起こし、ガチガチに固まった身体をほぐすように伸びをする。

 夜通し緊張しながら戦っていたのだ――身体のあちこちが筋肉痛の様になっているのも、仕方のない事だった。

 久我は、痛む場所を軽くマッサージしながら、窓の外に目をやる。


 ――時間的には昼過ぎって所か…マリルとリリルは、まだ眠っているのだろうか…。

 マッサージをし、軽くほぐれた肩をグルグルと回す。

 次は脚だ…ふくらはぎがパンパンに張っている。

 ──痛てて…女神の祝福により、身体能力が数倍に跳ね上がっているとはいえ、全力戦闘を長時間行うのは、やはり身体にかなりの負担があるようだ。

 入念にマッサージを繰り返していると、


『起きたのね』

 ミネルヴァからの念話が入った。


『ミネルヴァこそ寝てたのかよ?寝る前に念話したけど、繋がらなかったぞ』


 ――疲れもあり、あまり気に留めていなかったが、ミネルヴァと念話が繋がらなかったのは、初めての事だったのだ。返事がない時はあったのだか、すぐその後に繋がっている。


『もう1人の女神に、会いに行っていたのよ』


 ミネルヴァの、告白に胸がドクンと強く脈打つ。

 もう1人の女神…前から話には聞いていたのだが、ミネルヴァの口から詳しく語られることはなかった――久我も、踏み込んで聞いて良いのか分からずにいた相手だ。


『久我も薄々感づいてるんじゃないの?』


 ───!?やはりそうなのか!?


 確かに違和感はあったのだ…アイツが名前を呼ぶ時の発音に…アイツと話している時の感覚に。

 ――女神の祝福で、カイモンズの言語が自動で日本語に翻訳されているのだから、双子やギルドの職員達が俺を呼ぶ時に、発音がおかしいとかそんな事は一切ない。

 ただアイツが俺を呼ぶ時は、なんて言うのかフィルターを通していないと言うのか、自動翻訳が作動していないと言うのか…とにかくほんの些細な違和感…逆に言うと違和感が全くないと言う違和感だ。


『アイツ…も、召喚されたのか?』


 ──ゴクリ。

 生唾を飲み込む音が、嫌に大きく耳に響く。


『そう…あのイケッサと名乗る槍使いは、久我と同じ地球人よ』


 ────ヤッパリか!


『見た目は偽装してるけど、あの槍は聖槍アスカロン…神界にある神器の一つよ』


 どおりで銀色に光ってたはずだ。――ならあの強さも?何で偽装なんて…


『女神の祝福ね…ただアスカロンには剣聖の魂がない。なぜアスカロンを、あれほど使いこなせるのかは、分からないわ。』


 俺は剣聖の魂がバルムンクに眠ってるから、剣聖の助けで剣の使い方が直感的に分かったのだが…もとから何か武道を習っていたのか…


『偽装は、ミネルヴァに気付かれにくくするためか?』


『…おそらく。もう1人の女神…ブリジッダも、私達とは目的が違うって言ってたし…じゃあ何の為に…』


『そのブリジッダだっけ?イケッサとブリジッダも星法器持ってるのか?』


 肝心な事だ。久我とミネルヴァの、ボードゲームに挑む目的の一つが、星法器を満たす事なのだから。


『───!持って…ない…だって、1つしかないのだから…』


『なら目的は違って当然だよな!?目的は気にはなるけど、敵対してるわけじゃなさそうだし大丈夫だろ』


『…そうね。久我の言う通りね。ブリジッダも、まだ話せない言ってたから、話してくれるのを待つわ』


『今悩んでても仕方ねえよ。割り切って行け』


『久我の癖に生意気ね。…でも、ありがとう。少し楽になったわ』


 そう言うとミネルヴァは、少し休むと念話を切った。何かあれば連絡してくれとの事だ。

 ──もう1人の女神、ブリジッダか…どんな神様なんだろう?敵対はしてなさそうだが、目的が分からないのは不気味でもある――そしてイケッサが地球人…か。俺の勘では、おそらく日本人だ――顔つきくらいしか根拠はないんだけど。

 そのうちにどこかでまた出くわすだろ。その時タップリ話を聞き出してやろう。


 とりあえず、ギルドに行くついでに腹拵えをするか。


 クガは部屋を出て、マリルとリリルの部屋のドアをノックする。なかなか返事が返ってこず、1人で行くか──と、その場を後にしようとした時、ドアの向こうからリリルの声がした。今の今まで眠っていたようだ。

 昼飯がてらギルドに行く旨を伝えると、マリルがまだ眠っていて準備も出来ていないので、先にギルドに行っててほしいと言われ、久我はそうする事にする。


 宿を出てギルドに向かう。ギルドに近い宿だから、歩いてもすぐだ。

 ――ギルドに着き、窓口での手続きなどは後回しにして、併設の酒場兼食堂に向かう。

 食堂では昼過ぎだと言うのに、酒飲み達で大盛り上がりだ。


 席に着き、適当にマリル達の分まで食事を頼む。

 料理を待っている間に、酒を飲んでハイテンションな冒険者達に代わる代わる握手を求められた。

 何事かと困惑していると、皆メイの村防衛戦に参加していた冒険者らしく、久我や双子に助けられたと言うのだ。


「命の恩人だ」「危ないところを助けてくれて、ありがとう」「お前の的確な指示がなかったら、ヤバかったわ」「お前も双子も無茶苦茶強いな」「さすがスーパールーキーだぜ」


 口々に感謝を伝えられる――その事に久我は何やらむず痒く気恥ずかしくなりつつも、スーパールーキーという呼び名が定着しつつある事に、憤りを覚えた。

 そんな冒険者達の熱狂の輪は、マリルとリリル、オリちゃんが合流すると、さらに膨れ上がり食事処ではなくなっていく。


 ――見かけた顔、覚えのない顔、様々な種族の冒険者に感謝を伝えられる。

 冒険者達は、オーガまで出現していたことが伝わっているらしく、熱狂は冷める事はなかった。

 ほとほと疲れてきたが、皆の笑顔を見て、勝てて良かったと心から思う。


 隙を見て、双子とともに食堂を抜け出す…主役がいなくなっても、冒険者達は気付かず宴会を続けている。

 2人を連れ、窓口でトロール討伐依頼の達成を告げると共にギルドカードを提出する。

 すると少し待つように言われ、何事かと双子と話していると、ギルドの奥から壮年の男性が歩いてくる。


「ローランのギルドマスターのガクトと申します。この度はメイの村の防衛、誠にありがとうございます」


 ギルドマスターのガクトと名乗る男に、丁寧に礼を告げられる。

 奥の部屋で話を…と言われて、案内されながらギルドマスターの部屋に入る。

 ソファに腰を掛けると、すぐに別の職員がお茶を運んできた。その職員が退出するのを待ってから、改めて感謝を述べられ、トロールの夜襲が予測出来なかった事を謝罪された。


「その事なんですけど…イケッサという冒険者から聞いてないですか?」


「詳しくは…オーガが出た…と言うことくらいですかね」


 ───あんの槍イケメン、説明サボりやがったな。


「あのトロールの群れは、何者かが転送魔法を使い、別の場所から送り込んできたもので、オーガも同じです」


 久我の発言に、ギルドマスターであるガクトは驚きを隠せずにいる。

 ──無理もない、転送魔法だもんな。


「て、転送魔法ですか!?何かの間違いでは…」


「いや、俺が魔法陣も目撃してますし、そこからトロールやオーガが出て来る所も見てます」


「転送魔法…そんな魔法が存在するなんて…」


「そういう反応になるよな。俺たちも知らなかったし」

「シッ…話の邪魔しちゃダメ」


 暇そうにお茶を飲んでたマリルが突然口を開き、リリルに窘められる。

 だが、ガクトが言葉を失っても仕方がない。転送魔法は存在すら忘れられていたのだから。

「何故、転送魔法なんて代物使って、メイの村が襲われたのでしょう?」


「──確証はありませんが、狙われたのは冒険者そのものです。目的まではわかりませんが、悪意を持って仕掛けてきたのは間違いないでしょう」


「狙いは冒険者…ですか。これは由々しき事態です。すぐにギルドで情報の共有をします。」


「そうして下さい。敵が何者かわからない今、どこがメイの村のように狙われても、不思議ではないですから」


 ガクトは久我の言葉に頷き、職員を呼び情報の共有を迅速に行えと指示する。

 そして小さめの巾着袋を取り出すと、今回のトロールとオーガの討伐報酬だと言って、久我に手渡す。

 

 紐をほどき、中を確認しようとすると、

「金貨五十枚です。確認して下さい」


 ──ん?今なんて?金貨五十枚!?

 驚いて目を丸くする久我、お茶を吹き出すマリル、湯呑みを落とすリリル、何事が起きたかわかっていないオリちゃん、三者三様の反応を見せると、


「ギルドカードに記録されていたトロールの討伐数、オーガ二体の討伐、メイの村を救った事、それに転送魔法の情報まで加味したら、これでも少な過ぎるくらいですよ」


 真剣な顔のガクトを久我は愛想笑いで誤魔化す。


「足りない報酬の代わりと言うと卑怯な気がしますが、今回の防衛戦の結果から判断して、クガ様をAランク、マリル様とリリル様はBランク冒険者に昇格です」


 そう言い、金色の真新しいギルドカードを手渡してくる。


「え…Aランク!?」

「うお!やったぜBランクだ!」

「へへ…やった!ツーランクアップ!」


「オーガを単独で討伐出来る冒険者なぞ限られてますからね。トロールの討伐数も無茶苦茶な数字ですし」


「俺、先日冒険者登録したばっかなんだけど――」

 

「高名な冒険者の方は、皆さま一瞬で駆け上がっていかれますよ。Aランクともなれば、ほぼ自由な行動が認められますし、なっておいて損はないですよ。」


 ――いや断ったりはしませんけど…


「ただAランクともなると、ギルドから、討伐などの緊急要請があるかもしれないので、その時は協力お願いします」


「ぜ、善処します」


 ギルドマスターのガクトとの話を終え、通常の窓口に戻ってくると、久我達がまたもやツーランクアップした事を、何処からか聞きつけた酔いどれ冒険者達が手荒い祝福で迎えてくれた。


 ──痛い痛い痛い!でも悪くない痛みに3人の顔は笑顔だった。

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