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夜襲

 

 メイの村に着き、警備をしている冒険者に、軽く挨拶してから中に入る。

 村の周りは牧場や農場などが、広範囲に渡って広がっている。


 ――村自体は、小さな農村かもしれないが、敷地自体は、かなり広く感じられる。

 そしてどの農場や牧場にも、冒険者らしき人達が警備に当たっていた。

 トロールから、作物や家畜を守るだけの、割のいい仕事だからなのか、護衛依頼を引き受ける冒険者は多いようだ――人間、亜人、エルフにドワーフ…それぞれが得意の武器を持って警備に当たっている。


 そして村の奥の方に、目をやると、何やら見たことのある顔が見えた。


 ───うわ!会いたくない奴がいる…。

 まだアイツに気付いてない、マリルとリリルを、それとなくアイツからの死角に誘導する。


「お!?そこにいるのは、スーパールーキーじゃないか!!」


 ──チッ!間に合わなかったか!


 隠れる動きが、逆に目立ってしまったのか、それに気づいたアイツが、凄い勢いで近づいてくる。


「スーパールーキーもトロールの討伐か?まさか警備じゃないだろ!?」

 ――スーパールーキーなんて二つ名を名乗った覚えはない。名乗ったのはお前だ。


「…クガです。確かイケッサさんでしたっけ?」

「覚えててくれたか!」

 無駄にイケメンな槍使いは、屈託のない笑顔で無邪気に笑う。


 グイグイくる苦手なタイプだ。あまり話したい相手ではないが、情報の為に仕方なく相手をする。

 それによると、槍イケメンは単独でトロールの討伐に来て、すでに何匹も倒しているらしい。

 だが俺たちの目的とは、微妙に違う――それもその筈だ…トロールの巣を狙っている冒険者は、メイの村には久我達くらいだろう。


「どうだ久我、メイの村にいる間、一緒にトロールを狩らないか!?」


 おもむろに槍イケメンことイケッサが、共闘の打診を申し出る。

 ──ふむ、人手はいくつあってもいい──だが、断る。

 親しくもないのに、馴れ馴れしく、グイグイ来るこのタイプ苦手なんだよね。

 有り難い申し出だが――と、前置きしてから丁寧に断る。

「そうか、まだメイにしばらくいると思うから、気が変わったら、一緒に狩ろう」

 そういい、久我はイケッサと別れた。

 去っていくイケッサの背中を見ながら、


「相変わらずグイグイくる兄ちゃんだな」

「私は、少し苦手です」「ピイピイ」

 ――そうかそうか、リリルもオリちゃんも苦手か…わかるぞその気持ち。

 久我は、もう会わないで済むように、密かに祈る。


『やっぱり、あの槍…どこかで…』


 はじめて槍イケメンと遭遇した時から、ミネルヴァは槍が気になっているようだ。

 久我は、そのミネルヴァの引っ掛かりに、嫌な予感を感じずには、いられなかった。


「さ、邪魔者は居なくなったし探索に行こう」


 メイの村を出て、まずは手近な林からだ。

 俺を先頭に左をマリル、右をリリルで探索をして行く――ゴブリンの時と同じ隊形だ。

 今回は、オリちゃんにも加わってもらう。飛んでもらって高い位置からの索敵だ。トロールを見つけ次第、教えに戻ってもらう手筈だ。


 するとオリちゃんが、パタパタと戻ってきて、林の出口の方を訴える――どうやら、林を抜けたところにトロールがいるらしい。

 マリルとリリルに、隊形を縮めさせてから、林の出口に忍び寄る──いた!

 ここで、派手な音は立てられない――マリルとリリルの風魔法で静かに倒す。2人とも造作もないと言った感じだ。


『──おかしいわね』

『ミネルヴァもそう思うか?』


 ミネルヴァと久我は、違和感を感じていた。

 勝手なイメージなのかもしれないが、トロールやゴブリンなどの、家畜や女性を攫っていく魔物は、基本的には、狙った獲物がいる場所と、寝ぐらである巣の行き来しかしてないイメージだからだ。

『トロールは、もっと群れ単位で動く魔物なのに…』

 ──トロールのいる場所が、散りすぎている。斥候なのか、それとも別の目的で動いているのか…

 とにかく今は数を減らしていくしかない。


「兄ちゃん――向こう」

 マリルが指差した方向にも、数匹のグループがいる。

 気配を殺しトロールに近づく。

 ──静かに音を立てず、鞘からバルムンクを抜く。

 昨日の一撃を思い出し、バルムンクの力を引き出す事に集中する。

 ――刀身が白く光りだす──それをトロールにぶつけるイメージで、バルムンクを振り抜く。


 ──────ヒンッ──と空気を斬る音だけがして、そしてバルムンクを鞘に仕舞う。

 その頃には、少し離れた場所にいたトロールは、音も無く両断されていた。


「──凄い力だ。剣の間合いの外の敵も攻撃出来るなんて…言い方悪いけど、便利過ぎる」


 カッコイイ名前を付けたくなる技だ――恥ずかしいから、付けないけど…剣聖に次会ったら、技名がないか聞いてみよう――名付けが俺じゃなければ、恥ずかしくないからな。

 俺が、そんなしょうもない事を考えてる間にも、マリルとリリルは、見つけたトロールを始末している。


 ──これだけ倒しても、一向に巣は見つからない。

 陽が傾き始め、世界を赤く染め始めているのに、未だ巣のある場所の検討も付いていなかった。


「村の方に退きつつ、開けた場所で野営の準備に入ろう」


 そうして、薪になりそうな枝などを拾いつつ、村から15分位の場所まで下がり、火を魔法で起こして、野営の準備を始めた。

 ――野営の準備と言っても、焚き火の火を絶やさないようにするのと、夕食の準備くらいだ。

 寝るのは、カバンを枕にして、アクルスで買った毛布を羽織って、その辺に雑魚寝だ。


 買い込んできた、材料で簡単な食事をつくる。

 干し肉を炙り、パンに挟んだものと、適当な材料で簡単に作ったスープだ。

 寒いわけではないが、温かいものがあると無いとでは、安心感が違う――温かいご飯は、心を癒すのだ。


 日が沈み、完全に夜になった頃に食事が完成する。

 水魔法で手を洗い、双子とオリちゃんに先に食事をさせる。

 腹ペコ魔法使いが食べてる間は、俺は周りを警戒する。


「兄ちゃん、急いで食うから!」

 マリルが俺に気を遣っているのか、急いで食べる。


「気にせずゆっくりと食べろ。食べとかないと明日保たないぞ」


 それにマリルとリリルが頷き、食事を続ける。

 それが終わると、久我と見張りを交代し、久我も簡単に食事を済ませる。


 食事の後、双子に先に休むよう言われ、小1時間ほど仮眠をとる事にした。


 ――仮眠から目を覚まし、双子と交代で見張りにつく。双子が毛布を羽織って、寝付いたのを確認してから、見張りを続ける。

 火を絶やさないように、薪がわりの小枝を火にくべながら、


『なぁミネルヴァ――今回のトロールの動き、どう思う?』


『…明らかに不自然ね。作為的と言うか、意図を感じると言うか…』


 ――やはり同意見か…。

『操ってる奴がいる可能性は?』


『無くはないわね――背後に何か居る居ないに関わらず、警戒するべきよ』


 周辺を警戒しながら、ミネルヴァとの念話を続ける。

 トロールの動きが、ただの偶然なのか、斥候部隊が散っているだけなのか、それとも陽動なのか――。

 陽動だとしたら、何のために?

 ──冒険者を散らすため?でも、だとしたら警戒レベルを上げられる前に、奇襲した方が成果を上げられると思うが――。

 既にメイの村には、冒険者が多く集まっているのだから。


 ――狙いはローランか?それとも冒険者こそがターゲットなのか!?

 前者の場合は、人を攫う事が目的…後者の場合は、家畜がいるメイの村がターゲットになるが、メイの村には冒険者が多くいる。ということは冒険者の数を減らす事こそが真の目的!?――となると黒幕がいる事になる――単なる偶然だと思いたいが。



 そして夜も更けた頃、飛んで近くを偵察に行ってくれていたオリちゃんが、ソレを見つける…トロールが、群れとなって移動をしているのをだ。


「ピピピピピィ」


 大慌てで戻ってきたオリを見て、異変が起きたのだと直感が告げる。


「マリル、リリル、起きろ!」


 久我はすぐさま仮眠をとっている双子を起こす。そして焚き火に砂をかけ消化する。

 暗い所に目を慣らすためだ。松明を持って移動していたら、格好の的になってしまう。

 月も出ているし、月明かりだけで、充分な程に闇に目を慣らすと、オリちゃんに連れられ移動を開始した。


 そして見つける。

 ──あの方向は、狙いはメイの村か!


 俺たちは、トロールとぶつからないように、メイの村へと急いだ。

 メイの村に近づくと、すでにトロールと冒険者の戦闘は始まっていた。


 メイの村は、夜襲を受けたのだった。

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