核心──推測
仲間との朝食を済ませ、冒険者ギルドに向かうため、各々自室で準備をする。
剣聖との白い空間での邂逅は、マリルとリリルには話さなかった。
だが女神ミネルヴァには、話さなければならない。
『ミネルヴァ、俺――剣聖に会ったんだけど――』
しばしの沈黙のあと、
『熱でもあるの?』
まともに受け取ってもらえない――それも仕方がない。剣聖マナ・ブラックリーバは20年も前に、居なくなった存在なのだから。
――集合的無意識の世界であった事を、ミネルヴァに説明する。
剣聖の願い、それに応えたいという想いも──。
『…なるほど。前に久我が言ってたのほ、本当だったのね。バルムンクに、剣聖の魂がら封印されてるだなんて――』
封印されているのか、それともバルムンクを依代にして、留まっているだけなのかは、わからないが。
だがその事実と、剣聖の話から導かれる真実がある──。
『──剣聖は、邪神討伐の際に…命を落としている──』
『やっぱりそうなるよな、そしてその話の肝はそこじゃない』
――そうだ…邪神を討伐に行った剣聖が、命を落としている。命を落としたのは、邪神を討伐する前か、後なのか…
その際に、1度だけ使われた事のある、星法器――そして、予想外の事態で寿命を縮めた創造神……
『邪神を倒せていない──?』
『おそらくだけど…そう考えるのが自然だよなぁ…剣聖もカイモンズを頼むって言ってたし』
『何か確定してる憂いがなきゃ、言わないセリフね』
もう一度、剣聖に会えるのなら、そこら辺のことを詳しく聞かなきゃならない…時間が足りないから、全ては話せないって言ってたし…。
運命に導かれ──てのも、捉え方によれば、意思とは関係なく、巻き込まれるって事だしな。
『倒せずに、創造神様と星法器の力で封印した──そして命を落とした剣聖は、己の魂をバルムンクに託し──ってところかしら。』
剣聖の魂を、バルムンクに封印したのは、苦肉の策なのか、望んでそうしたのか、それは今となっては剣聖本人にしかわからない――次、会うことが出来たのなら、全部聞いてやろう…そう心に誓う。
『ボードゲームのクリア条件――俺たちの旅の終着点は、封印された邪神の討伐なのかもな』
『――そのために、ボードゲームは久我に、試練を課して、星法器に力を溜めさせる――』
正直、偶然選ばれて、召喚された身としては、邪神の討伐とか勘弁してもらいたい。
だが、これが真実なのだとしたら、邪神を倒して星法器を満たさなきゃ、地球に帰れないんだよな。
俺なんかに、邪神を倒せるとも思わないけど…。
『邪神を倒すなんて、あとどの位強くなればいいか、検討もつかないよ』
『そのへんは、ボードゲームに任せておけば良いんじゃない?久我とマリルやリリル、まだ見ぬ仲間が、邪神を倒せると判断したら、マス目に邪神の討伐って出るでしょ。それまで死ぬ気で強くなりなさい』
──断定して話てるけど、まだ邪神が本当に討伐されてないのか、確定してないからね!?
マジで剣聖に次会ったら、彼女の言いたい事そっちのけで、こっちの聞きたい事聞いてやる――。
『──そういえば…物語では、邪神討伐は剣聖1人で果たしたんじゃないんだよね』
『相棒でもいたのか?』
『そ、神竜カニーリェと果たした事になってるんだけど…今のカイモンズに、神竜なんて存在しないのよね』
――ここに来て新キャラかよ。しかも神竜て…なんて強そうな仲間なんだ。
俺なんて、魔法は強力だが、ネーミングセンス皆無の、食い意地の張った、双子のハーフエルフと、スライムなのかすら怪しいスライムだぞ……この差は何なんだ!?
『日頃の行いの差でしょ?』
──くっ!邪神の討伐出来なくても、知らないぞ――日頃の行いの差で、神竜とスライム?なんて差をつけられたのなら、やってらんない。
『私はずっと神竜の話は、それらしい英雄譚にするための、創作だと思ってたんだけど…邪神が討伐出来てないのなら、尚更そう思うわ』
──ふむ…確かに。一理はある。討伐出来なかった邪神を、討伐した事にしたい…となると、強い仲間がいた事にした方が、都合がいいのは確かだ。
誰かが、真実に手を加えて、後世に英雄譚として残したと――なら犯人は、創造神様だな。
剣聖は魂だけになっちゃってるし、その後も、普通に行動出来たの創造神様だけだし。
その方がカイモンズに住む人間にとって、都合がいいと考えるのも、真実を知っている創造神様だけだろう。
でも、創造神様は何故ミネルヴァに真実を伝えなかったんだ!?……そこだけが腑に落ちない。
『創造神様を犯人とか言うな』
『女神のくせに、何も知らない人は黙ってて』
『ちょ──久我、アナタねぇ…』
ミネルヴァが、俺に文句を言おうとした時、それを遮る、ドアをノックする音。
――ナイスタイミングだ、双子よ!
『じゃ、俺は指示に従う為に、可愛い双子達と情報集めに行くから、またな』
『──ぐぬぬ』
女神らしからぬ声が聞こえてくるが、無視無視。
なんか核心に迫る話だったけど、あくまでも推測の域を出ないからな──今は目の前の課題を、1つずつクリアして、少しでも強くなろう――そうすれば剣聖マナ・ブラックリーバの願いにも、少しは近づく事が出来るはずなのだから。
――――――――
迎えに来たマリルとリリル、そしてオリちゃんと、昨日に続き、冒険者ギルドに情報を集めに来ていた。
窓口で聞いてみても、魔物の巣の発見報告はないらしい。
――どうしたものか…ボードゲームの指示は、昨日のゴブリンの巣だけでは、達成されていない。
だが、条件である魔物の巣の情報はない。
少々困った事になったな。
するとクエストボードを見て、ジッと考え込んでいたリリルが口を開く。
「お兄ちゃん、これトロールから護衛して欲しいっていう依頼、こっちは牧場の警備依頼、こっちはトロールが度々目撃されるから、討伐してほしいって依頼なんだけど…」
──!!なるほど…さすがリリルだ。
「だからなんなんだ?」
リリルの説明にピンと来ないマリルが口を挟む。
――やはり頭の出来が違う。
「全部同じ村からの依頼なんだよ」
──そう。これらの依頼は同じメイという名前の村からの依頼だ。おそらく小規模の村で、冒険者ギルドが無いのだろう。それで最寄りのローランに依頼に来ていると。
場所をミネルヴァに確認すると、
『転送された方向と、反対に1時間ほど行った所にある農村ね』
それらの依頼から、トロール討伐の依頼を受注する。
そして、職員に巣を発見した場合は、報告する前に殲滅してもいいのか確認する。
問題はないが、報告してくれた方が、万が一の場合救助に向かいやすいとのことだ。
それに了承して、メイの村に向かう事にした。
メイの村は、完全な農村のため、宿がないらしく野宿になる事を想定して、日持ちのする食べ物を多めに買って、鞄に詰め込む。
「じゃあメイの村に向けて出発〜」
マリルは本当に馬鹿なのか、肝が太いのかわからない。オリちゃんと一緒に先頭を鼻唄混じりに歩いて行く。
リリルは、俺の横をニコニコして歩く。
──コイツら今から危険な場所に行くと、分かっているのか疑問に思う。まさか、野宿と聞いてピクニック気分じゃないだろうな。
しばらく進みメイの村が近づくと、道中でトロールの小さいグループを、チラホラ見かける様になった。
その度に倒して来たが、ごれだけのグループが動いているとなると、群れの規模は小さくはなさそうだ。
とにかく今はメイの村へ急ごう。
村の人達から、情報を集めてなくては。
そしてメイの村に着いた時、遠くの方に、何やら見覚えのある奴がいた。




