表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/59

剣聖の導き

 

 ──両肩にのしかかるプレッシャー…それは先ほどまで簡単に蹴散らしていた、ゴブリン共とは全く違い、

 その者を強者であると、久我に告げている。


 この世界に来て、はじめて見える強敵と呼べる存在…平和な日本からやって来て、初めて感じる命の危険、その緊張感が、久我の腕を重くする。

 先ほどまで、風のようなスピードを生み出していた両朝は、まるで鉄の枷でもハメられたように重い。


 ──動け動け動け動け!

 反応の鈍い脚を、なんとか動かし横に倒れ込むように転がる。

 その刹那、何かが破裂したような音が、洞窟に響き渡る…元立っていた場所に目をやると、ゴブリンジェネラルが、持っていた斬馬刀を叩きつけて、地面が割れ石が弾け飛んでいた。

 そしてその巨躯に見合わぬスピードで、返す刀で横薙ぎを繰り出そうとしていた。


 ……ダメだ、やられる……

『久我!!』


 強くなった気でいた。魔物なんかに負ける気はしないでいた。

 全滅させてやると、救えなかった者を悔やみ怒る心でさえ、ただの驕りであった事に気付く…加護と祝福の効力…何より神剣と剣聖の強さに頼っていただけの自分、全てを受け入れ、諦めにも似た気持ちで目を閉じた。


「「ストーンウォール!」」


 諦め目を閉じた俺を、ゴブリンジェネラルの横薙ぎから守るように、二重の石壁が地面からせり出した。

 その石壁に斬馬刀の横薙ぎは防がれる。


「何やってんだ兄ちゃん!」

「お兄ちゃん、今のうちに態勢を立て直して!」


 リリルとマリル、同時の土魔法に救われたらしい。


『久我!下がりなさい!』


 その言葉にハッとする。子供の2人に任せて下がる?

 そんな事出来ない。俺は2人を守ると決めたんだから…その思いが恐怖と不甲斐なさを塗り替えていく。


 ──俺は強くなんかない…でも守りたいものがある。力になりたい人がいる。

 弱さを受け入れ、意思を再確認した時、久我の思考が加速する。時が加速する。

 今までにない程の集中を生み出す。


『──今なら聞こえるわね!?』


 誰だ!?念話の様だが、ミネルヴァじゃない。

 だが、いつか聞いた事のある声だ。


 ――声の聞こえる…いや、伝わるほうに目をやる…そこにあるのは銀色に輝く神剣バルムンクだった。

 バルムンクが鈍く淡く光る。


「バルムンク…か?」


『そう。正確にはバルムンクの中の私、マナ・ブラックリーバよ』


 ……マナ・ブラックリーバ…剣聖か!?

『そう呼ぶ人もいたわ』

『なんで剣聖がバルムンクの中に?』


 加速し続ける思考の中で、剣聖に問う。


『今は理由を話してる時間はないわ。目の前の敵を倒す事に集中しなさい──

 魂だけの私に大した力はないけれど、バルムンクと、これだけシンクロできたアナタなら、もう一段剣の力を引き出せるはず。その手伝い位ならしてあげられる。力を…受け入れなさい。そして恐れなさい。守りたいものを守るための力を…』


 バルムンクの中の、剣聖と話した時間は、現実では1秒にも満たず、加速した思考が元の時間に戻りだす。

 剣聖の魂の導きで、バルムンクと自分の意思が重なる。

 ──わかる…前よりも格段にバルムンクの使い方がわかる!


 バルムンクの刀身が白光を帯び、新たな力が解放される──「喰らいやがれ」そう言い放ち立ち上がると、石壁の向こうにいるゴブリンジェネラル目掛け、バルムンクを振り抜く。

 するとどうだ…白光を伴った斬撃が、斬馬刀の横薙ぎを防いだ石壁と、その斬馬刀ごとゴブリンジェネラルを両断していた。


「スッゲェーー!」「…スゴイ…」


 マリルとリリルが目を丸くしている。

 この2人が居なかったら、両断されていたのは、おそらく久我自身だっただろう。


『──?どうなってるの!?』

 ミネルヴァが聞く。

『バルムンクの声が聞こえたんだ…いや、バルムンクの中にいる剣聖の声かな』


 あの瞬間に何が起き、何を体験していたのかを3人に説明する。

 神剣とその中にある剣聖の魂。それらに導かれ新たな力を得た事を。


『本当にバルムンクの中に剣聖が?』

『本当だよ。理由までは聞けなかったけど…もう声聞こえないし』

『…剣聖に何があったのかしら…興味深いわ』


 しばしの沈黙をやぶるように、

「ピューイ!ピィピィ!」

 いつのまにか、マリルのリュックから出ていたオリちゃんが、洞窟の奥に向かって鳴き出した。

 パタパタと飛んで、俺たちに奥へ行けと催促しているようだ。


「とにかく勝ったんだから、他は後でいいだろ!?」

「オリちゃんが何かに気付いたみたい」


 ……そうだ。今は剣聖の事は後回しだ。この洞窟のゴブリン共を殲滅しなくては。


 オリちゃんに連れられる様に、奥へと進む。

 するとそこには、攫われた女性達が監禁されていた。


 ――バルムンクで牢を壊し、女性達を救出する。

 救出される事に涙を流す者、俺たちに気付いてすらいない、心が壊されてしまった者もいる。

 ゴブリンに攫われて、何をされたかなんて想像に難くない…


 洞窟の最奥まで調べ、ゴブリンを殲滅した事を確認すると、俺たちは女性達をローランの町まで護送する事にした。


 …女性達を連れ、出て行く久我達を、最奥の闇の中から見つめる影が1つ…久我達一向が完全に見えなくなると、その影はゆらりと揺れて闇の中に消えていった。



 ローランの町に着くと、攫われた女性たちを見つけ、人だかりが出来ていた。

 無事を喜ぶ者、変わり果てた姿に涙する者、心が壊れている事に気付き絶望する者、その反応はそれぞれだ。


 女性の身内や恋人、身元を証明出来る人達を伴いギルドに入る。

 ギルドは、入口から入ってくる女性やその身内などを見て、歓喜の渦に包まれた。

 大抵攫われた女性の命は絶望的らしいからだ。


 喜びに沸く人々を擦り抜け、窓口で依頼達成の確認を行う。

 ギルドカードも魔導具の技術が応用されているらしく、倒した魔物や数が自動で記憶されるらしい。


 今回の小規模なゴブリンの巣の掃討と、攫われた女性達の救出で、報酬は金貨2枚だ。報酬が高い気がしたが、ゴブリンジェネラルの討伐で、金額が跳ね上がったとの事。

 また、今回の依頼達成で、俺はCランクに、双子はDランクにランクアップした。双子は嬉しそうにハイタッチをする。


 ──またランクが上がってしまった…この情報も一瞬で世界中のギルドに共有されるのだろう…またおかしな奴に絡まれない事祈ろう──


 ギルドを出て宿に向かい、部屋で腰を下ろす。

 救出した女性たちは、長い時間を掛けて、心のケアをしていく事になるのだろう…でもきっといつか笑顔を取り戻してくれると信じよう…そうでなければ、救われない。



 そういえば…ふと思い出し星法器を手に取る。

 ――また少し赤紫の液体が増えてる。それに気づきミネルヴァに確認を頼む。


『…まだ指示は達成されてないみたい。』


 ――やはりあの洞窟1つじゃないのか…だが次の魔物の巣については情報がない。下手したらローランの町だけでは、済まないのかもしれない。

 ベッドに寝転がり考え込む。

 指示は達成されてないのに、星法器の中の光る液体は増えていた。

 指示を少し達成したから増えたのか、それとも違う理由で増えたのか…


『ミッションクリアの他でも増えるのかって?』


 だがミネルヴァにも詳しい事は分からないらしい。

 そもそも星法器自体、過去に一度だけしか使われた事がない神器なのだから。


『ただ、星法器は願いを叶える神器って聞いたわ』

 

 ──願いを叶える神器…ね。


 もしかしたら、助けた人達の感謝の気持ちや喜びが、光る液体になって溜まってたりしてな。


 身体を起こし、暗くなった町を窓から見ながら、今日あった出来事を思い出す。

 バルムンクを触りながら、俺は上手くやれているのだろうか…この神剣や星法器と言った神器に見合う、働きは出来ているのだろうか…?

 1人で考え込み、深くため息をつく。

 そのタイミングで部屋のドアを、ノックする音が聞こえ、それと同時に


「お兄ちゃん起きてる?」「兄ちゃん飯行こうぜ」

 相変わらずの双子の声が聞こえ、少しだけ安心すると、俺はドアに向かって「今行く」と返事して立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
押してもらえると励みになります→小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=781306879&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ