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ミネルヴァ・テラース

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ――――――眩しい。


 少しづつ感覚が戻ってくる。

 とても長い間寝ていた気がする。

 そうだ…俺は変な小説を読んで…


「死んだ…のか?」


 そう独りごちながらゆっくりと目を開けた。



「どうやら生きているようだぞ。」


 突然声をかけられ、ビクッとしながら声の方に顔を向けた。

 視線の先には雪のような白い肌、光り輝くような金髪に、透き通るような海の様な青い瞳の、まるで物語の中にしか存在しないような美しい女性が椅子に腰をかけこちらを見つめていた。


「綺麗だ…」

 ありふれた言葉だかそうとしか表現出来なかった。


「その様子なら、ひとまず大丈夫そうだな。痛いところとかはないかい?」


 おそらく年上の美しい女性はそう俺に尋ねた。

 まだ力の入りにくい身体に神経を巡らせる。

 少し頭痛はするが、おおむね問題はなさそうだ。


「大丈夫です。少し頭痛いですけど」

「そうか…頭痛はしばらくすれば治るだろう。それより体を起こせるかい?少し水を飲んだほうがいい」


 そう言って女性は俺の体を起こして、水差しで水を飲ませてくれた。


 ゴクリと口に流れ込む水を一思いに飲み込んだ。


「うまい…」


「それは良かった。さぁ、もう少し飲んだほうがいい。大量の水分を失ったハズだからね」


 そしてまた水を飲んだ。その水が体に沁みこんでいくのを感じる。

 そしてようやっと頭が回転を始めた。


「ん?ここは…どこだ?そしてアナタは?誰?」


 今になっておかしい状況に気付く。

 俺は自宅の部屋にいたハズだ…仮に倒れて病院に担ぎ込まれたにしても、付き添いに家族がいない。

  辺りを見渡してもとても病院とは思えなかった。

 広く大きな良い香りのする柔らかいベッド。部屋の壁はゲームなんかに良くある洋館のような赤い壁。

 大理石で出来た暖炉の様なもの。高級そうな絵画。とても病院の病室とは思えなかった。


「俺は死んだんですか?ここは天国ですか?」


「生きていると言っただろう?そして天国ではない」


「俺は倒れたんですか?」


「倒れたかと聞かれれば倒れたな」


「ハッキリしねーなぁ」


 あやふやな回答に少し苛立ちを覚える。もともと気は長い方じゃないんだ。


「まぁ落ち着きたまえ。冷静にならないと私の話は君の理解を超えるぞ」


 理解を超える?何言ってんだこの人は。そう思いゆっくりと深呼吸しながら6秒数える。何かの本かネットで読んだアンガーコントロールってやつだ。それをを試してみた。


 ───────ふぅ。


 よし落ち着いた。その理解を超える話とやらを聞こうじゃないか。


「まず君の名前は、久我彰利で間違いないか?」

「はい。合ってます」


 ん?なんでこの人俺の名前知ってんだ?

 そんな事を考えている間にも話は続く。


「わたしの名前はミネルヴァ・テラース。この世界の創造神の後継者だ」


 は?何言ってんのこの人。


「すでに理解を超えました」


 創造神?その後継者?何言ってんの?


「だから言っただろう?理解を超えると」


「イヤイヤ、いきなり創造神だの後継者だの言われて理解出来るわけないでしょ」


 もしかしてヤバい人に捕まってんのかな…


「ふむ…それもそうだな。ではミネルヴァ・テラース…この名前に聞き覚えは?」


「いや、あるわけないでしょ。外国人の知り合いなんていないし。有名人でも聞いた事ないし。」


「言い方が悪かったな。聞き覚えではなく見覚えは?」


 見覚え?聞き覚えと何が違うんだよ。

 そう心の中で毒づきながらふと何かが引っかかった。

 見覚えだと?

 …

 ……

 ………!!!


「著者!作者!著者!俺の事を書いた小説の!」

「やっと思い出してくれたようだな。」


 ミネルヴァ・テラースと名乗るその女性は得もいわれぬとても美しい笑顔でそう答えた。


 そんな頃にはさっきまであった俺の頭痛もいつのまにか治まっていた。

 

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