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もう1人の神

 

 ──転送魔法に驚いた2人はまだ動かない。


「お〜い、大丈夫!?」


 ミネルヴァは2人の顔の前で交互に手を振る。


 ……本当に大丈夫なのか?少しばかり不安がよぎる。


 そして時は動き出す──


「──す」

 す?

「スッゲェーー!ここ何処だよ〜!」「キャー!スゴイスゴイ!!一瞬で知らない場所に来ちゃった〜!」「ピピピィーー」


 ――我に返って大はしゃぎするとマリルとリリル。そして飛び跳ね回るオリちゃん。

 無理もない──ロストマジックとして失われて、その存在すら知らなかった魔法を体験したのだから。

 魔法を得意とする奴らには、堪らないものがあるのだろう。


 ……だが落ち着け。ミネルヴァが今度は固まってるぞ。


 俺はパンパンと手を強めにたたき、双子と一匹の注意を引く。

 さあ、ミネルヴァ…仕切り直しだぞとばかりに俺はミネルヴァを目で促す。


 コホンと軽く咳払いをしてから、

「…え〜、私の名前はミネルヴァ・テラース。女神よ」


「リリル!さっきの魔法凄かったなぁ!」

「うん!ビックリしたね!」

「これが噂のボードゲームか!?デカ過ぎぃ!」

「端っこ見えない〜」


 2人は聞いちゃいない。…お子様たちはまだ興奮冷めやらないんだろう…あ…ミネルヴァ涙ぐんでる。

 俺もう一度、手を強くパシンと叩き、双子を静かにさせる。

 ――いい加減落ち着け。このまま女神様が泣いて拗ねちゃうぞ。


「――良い加減静かにしろよ〜。女神様が自己紹介したがってるぞ」

 さあもう一度だミネルヴァ!オマエなら出来る!


「…私はミネルヴァ・テラース。女神よ…一応ね、話聞いて貰えないけど…」


 ……アカン、すでに彼女の心は折れている。

 俺はすかさず双子に謝罪を促した。


「女神様ゴメン」「申し訳ありません女神様…」「ピュイィ…」


「もう大丈夫よ、改めてはじめまして。アナタが兄のマリルでアナタが妹のリリルね。そして君がオリちゃんね。みんなこれからよろしくね」


 ふぅ…やっとここまで来たか。


 ロストマジックの転送魔法を直に体験した2人は、自分を女神と自称する女性を疑う事すらしなかった。


 ミネルヴァは膝を曲げ、リリルとマリルの目線に自分の目の高さを合わせると、俺を召喚した経緯──カイモンズがどんな状況で俺たちが何をしなくちゃいけないのか、2人の子供にもよくわかる様に、ゆっくりと丁寧に一つずつ説明していった。


 ──へぇ…神界にずっといたはずなのに、意外と子供と話す時の()()を分かってるな。

 …伊達に神様名乗ってないのな。


 長い時間をかけて説明を終えたミネルヴァは最後に、

「久我の力になってあげてね」と優しく2人に言い、2人は元気良くそれに返事をする。


「兄ちゃんの言ってた事、本当だったんだな〜」

「流石にここに来るまでは信じられなかったです」


 俺は嘘はつかないぞ!


 話を終わらせて、立ち上がったミネルヴァは背伸びをしながら、俺たちに風呂を勧めた。


「身体拭いてただけだもんな…ゆっくり湯船に浸かりてぇ」


 俺達は部屋を移動して、双子に先に風呂に入るよう伝える。

 マリルは面倒くさそうだが、リリルはとても嬉しそうだ。小さくても女の子ですな。

 流石に2人一緒には入らないようで、先にリリルが入り、次にマリルとオリちゃんが入るみたいだ。



 2人が風呂から上がり次は俺が風呂に入る。

 湯船に浸かると身体の隅々まで湯の熱が沁み渡る。


 ──はぁぁ生き返るわぁ──束の間の休息だ。

 湯に浸かりながら、次のマス目はどんな指示が出るのか考える。

 ――俺の勘だとあのゲームは、おそらくミネルヴァを含めて俺たちに力がつく様、成長させるための指示が出ると思うんだよなぁ…


 ……でもそれが正解だとするならば、最後の指示って多分ヤバイのがくるんだよなぁ…勘が当たってほしくない気もする。


 ──今ウダウダ悩んでも仕方ないか…とりあえずはゲームを進めるしか出来ることはないのだから。




 風呂から上がり皆の元に戻る。

 するとなにやらミネルヴァが、リリルとマリルに渡すものがあると言い出した。


 そうして2人に手渡した物は二本の短杖だ。

 何やら神器とはいかないまでも、世界樹の枝で作られた逸品らしい。


「この杖があれば簡単な魔法なら2人一緒にいなくても使えるはずよ。この前みたいな強力なのは無理だけど」


 ーーどうやら使用者の魔力コントロールの補正効果が高い杖みたいだ。


「サンキュー神様のねーちゃん!」

 ──相変わらず明け透けな奴だ。

「女神様ありがとうございます」

 ──さすがリリル、ええ子や…。


 しかしこの短杖のお陰で、このあいだの様な1人の時のリスクは減るだろう。簡単な魔法と言っても2人の魔力なら、そこそこの威力になるだろうからな。

 ミネルヴァ、グッジョブだ!たまには役に立つな。



 ミネルヴァが食事をしようと言い、廊下に出て違う部屋のドアを開ける。そこは真っ白なテーブルがあるダイニングルームだった。


 ──前来た時こんな部屋あったか?ミネルヴァにそう聞くと、

「久我が下界に行ってる間に作ったのよ。みんなに個室も用意したから」


 ……マジか!?神様ハンパないな。てか、俺が下界に行ってる間、暇してずっと俺の様子見てただけじゃないんだな。



 食事をしながら、次のルーレットは明日に回す事が決まり、今日は各々身体を休める事になった。



 ミネルヴァが用意してくれた部屋でベットに身体を預けて休んでいると、ノックが聞こえミネルヴァが部屋に入ってきた。


「──夜這い!?」

「殴るわよ」

「だって俺ノックに返事してねーぞ。何勝手に入ってきてんだよ」

「男の癖に細かいわねぇ」


 違う、これはマナーの問題だ。親しき仲にも礼儀ありだ。


「念話って双子も使えるのか?」

 俺の問いかけに、

「無理ね…アレは召喚者と被召喚者の繋がりを利用してるから。」


 詳しく聞くと、出来ない事はないらしいのだが、膨大な魔力と神の啓示という一方通行なものになってしまうらしい。

 なら、俺が通訳した方が早いわな。

 で、この部屋に来た本来の目的を聞こう。


「ーーあのスライムの事なんだけど…」


 ん!?オリちゃんの事か?


「どれだけ調べても羽付のスライムなんて存在した記録がないのよ…ましてや鳴くなんて…」


 ──どういう事だ!?


「新種…の可能性がないわけではないけど、多分もっと異質な存在ね。今のところ貴方達に全く敵意がないことだけが救いだわ」


「──スライムじゃないって事か?」

「その可能性もあるわね。とにかく何もわからないのよ」


 ……オリちゃん、偶然居合わせて助けただけだけど、何か因果を感じるな…

 でも、ペットみたいなもんだし、わからない事は今考えても仕方ない。

 わからない事と言えば…


「──なぁミネルヴァ…前に神界にはもう1人神様がいるって言ってたよな!?どこにいるんだ?」


「…ああその事…もう1人の神は、私の妹みたいな子よ。年齢は一緒だけど…本当の姉妹の様に一緒に育って、オモチャだった頃のボードゲームを創造神様と3人でよく一緒に遊んだわ」


 柔らかな表情で、その神様との思い出を懐かしんでいるようだ。

 そして椅子から立ち上がって俺に背を向けドアに向かって歩き出す。


「──あの子も今、反対側からボードゲームを使用しているはずよ。」


 ───!!


「私と同じように地球から誰かを召喚してね」

「完全なる神の座を奪い合ってるのか!?」


 するとミネルヴァは目を閉じ少し思案して、

「私はそうは思っていない。創造神様は仲良く協力してクリアしなさいって…そう言って亡くなられたのだから」


 でも確か前にクリアした奴を完全なる神とする──みたいな事言ってなかったか?


「そう言ったわ。でも先にクリアした者をとは言ってない。最後に、仲良く協力してクリアしなさいって仰ったわ」


 ーー1人ではクリア出来ないのか…それとも協力する方が前提なのか…2人してクリアしたらどちらが完全なる神とやらに選ばれるのか…


「俺は会う事は出来ないのか?」


 ミネルヴァは背を向けたままドアノブに手を掛ける。


「今はまだ…でもいずれ会う事もあるかもね。さ、もう休みなさい」


 新たに俺が口を開く前にドアを開け「おやすみ」と小さく呟いて部屋を出て行った。


 ……俺の他にも地球から召喚された奴がいるのか…いつか会えるといいな…その時、敵対する事がなければいいな。


 そして俺は明日からまた始まるゲームに不安を覚えながらも眠りについた。


「簡単な指示が出ますように」そう願いながら…。



ここまでが第1章です。

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