兄妹という絆
『本当に双子に俺たちの事話しちゃっても良いんだな!?』
『大丈夫よ。その子達が共に行動するなら避けては通れないでしょ』
……信じてもらえなかったらどうしよう…今になって不安に襲われる。
『こっちに転送されたら否が応でも信じるしかないんだから…男ならビシッと話しなさい』
――ミネルヴァは楽でいいよな。実際に2人に説明するのは俺なんだから…
トビウオ亭の俺の部屋で双子はパタパタ飛び回るピンクスライムと遊んでいる。
そんな微笑ましい光景を見ながら、俺はゆっくりと2人に話しかけ――俺が何者で、どんな場所から来て、なぜアクルスにいたのか、そして何より女神様とともに星を救うために動いている事を、だからこそ俺と行動する事がどんな事に巻き込まれるのかわからない事を出来るだけ分かりやすく説明した。
「その話は本当なんですか!?」
「信じがたいけど、兄ちゃんが異世界人かぁ…でも嘘つく理由もないしな〜」
……証拠も何もないしな。こんな話信じろって方がどうかしてる。俺ならこんな話する奴とは距離を置きたい。
「女神様曰く、神界に転送されたら信じるしかないって言ってるけど」
「転送魔法なんて本当にあるのか〜?なぁリリル」
「…村にいた頃も聞いた事すらないね」
信じてもらえるハズもないな、転送魔法はロストマジックだって言ってたし…
「転送云々は抜きにして、俺についてくるとマジでどんな事に巻き込まれるか、わかったもんじゃないけど、それでもついてくるか?」
……一応確認だけしとかなきゃね。俺なら即断るからな。
「何言ってんだよ兄ちゃん。ついてくに決まってんだろ!?」
「危険だったのは今までと変わらないしね」
「俺達を見くびるなっての!」
「ピイッ!」
──オマエら…オリちゃんまで…目頭が熱くなるのをグッと堪える。
滲む涙を悟られぬ様に、俺は顔を逸らして誤魔化す。
「ありがとな。」
2人はその言葉にはにかむ様に笑った。
改めて2人と一匹の意思を確認した俺は、夕食までにある程度の旅の支度をするために連れだって必要な物を買い出かける事にした。
まずは服屋に行き、3人分の肌着や着替えなどを買い、日用品店では人数分の水筒や邪魔にならない程度の大きさの片手鍋、食器などを買う。
他には双子の鞄が随分痛んでいたので、鞄屋に行き双子にはリュックサックを、自分用にはショルダーバッグを購入した。
――こうして買い物して回っていると本当に双子が自分の兄妹になった様な気になってくる。
……ふむ。こんな物か…大分お金を使った気がするが、まだまだ手持ちには余裕がある。物価が安いのは良い事だ。それでいて文明レベルが未開ということもない。
地球て言えば産業革命前って感じになるのかな?歴史は詳しくないから断言は出来ないが…
科学文明じゃないし、平成の世に生きていた俺にとったら不便なこともあるが、生きていくには困らないレベルだ。
逆に魔法があるから便利な点もあるしな。
宿に戻り夕食を皆でとり、今は自室で横になっている。
──パートナーを得よか…俺は達成出来たのだろうか…
『出来てるわよ』
──ファ!?
『だから達成出来てるわよ。いつでもこっちに戻って来れるから。準備が整ったら言ってね。転送してあげるわ』
『…なんですぐ教えてくれないんだよ』
少し腹が立ち拗ねた様に聞いた。
『だってすごく楽しそうに買い物してたから…無粋な真似出来なくて』
――ミネルヴァなりに気を遣ってくれたのか…
『それに星法器に少し雫が溜まってるでしょ?気づくかな〜って思って…』
───ファ!?
慌ててネックレスの先にある星法器を見る。
赤紫色の淡く光る液体が少しだけ溜まっている。
『──て事はアイツらがパートナーで正解ってことか…』
『そうなるわね…オリちゃんの事かも知れないけどね』
そうイタズラの様に言うミネルヴァに俺は、オリも含めて言ったんだと強めに返す。
『とにかく出来るだけ早く準備を整えて連絡して。あ…もちろん人目につかないところでね』
そう言って念話を終了する。明日朝メシ食べたら町を出るか…オリちゃんを逃がそうとした辺りなら人目につく事はないだろう――そう考えながら俺は目を閉じ眠りについた。
翌朝目を覚まして身仕度を整えダイニングに向かう。
案の定双子は先に来て食事を始めていた。
「おはよ兄ちゃん先食べてるぜ」
「クガさんおはようございます。お先にすみません」
――うむ、今日も元気でよろしい。
食事をしながら、朝食後に街を出る事を2人に伝える。
「言ってた転送かぁ…まだ信じられんけどね」
「私は転送魔法楽しみです」
――リリルはええ子や…。
「そうだリリル。もうクガさんて呼ぶの禁止ね」
突然の提案にリリルは驚き、「なんて呼べば良いんですか!?」と慌てる。
「兄ちゃんで良いじゃん」
マリルがすかさず言うとリリルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
すこしの間を置き意を決した様に、
「じゃあ、お兄ちゃんて呼んで良いですか?マリルをお兄ちゃんて呼ぶ事はないので…」
「リリルがそれで良いなら構わないよ。一回呼んでみ」
先程より顔を赤くしながら、
「…お、お兄ちゃん…」
小さな声でそう呼んでくれた。
――何この子…可愛すぎる。胸がキュンキュンするわ。
「もう一回」
「…お兄ちゃん…」
──はぅ。たまらん。これからもちゃんとお兄ちゃんと呼ぶんだぞ。
その光景をニヤニヤ見ていたマリルが悪戯っぽく笑い、「お兄ちゃん」と上目遣いで囁く。
──くっ。男だとわかっていてもリリルと同じ顔で言われるとキュンキュンしてしまう──俺にその気はないんだ、禁断の領域へ誘うのはよしてくれ。
「マリル…お前は今まで通り兄ちゃんでいい。…次ふざけてお兄ちゃんと呼んだら…殴る」
慌てたマリルは謝るそぶりを見せる。だが口元は笑ったままだ。
『お兄ちゃん』『だまれ』ブツッ
……うん。一瞬邪魔は入ったがいい感じだ。子供には笑顔が一番だし食卓は楽しい方がいい。これなら上手くやってけそうだ。
この光景を何も知らない他人が見たら本当の兄妹が仲良く食事してる様に見えるかも知れない。いや見えてるといいな。
エルフの特徴である尖った耳をハーフエルフの2人も受け継いでいるが、そんな特徴にさえ気づかなければ本当の兄妹に見える様になろう……いや、これから本当の兄妹になっていけば良い。種族の違いや血の繋がりなんて関係ない。
そう思える2人なのだから。
食事を終え、女将さんとメルシーに世話になった礼を伝える。
異世界に来て初めて泊まった宿がトビウオ亭で良かったと、心から思えるいい宿だった。飯も抜群だったしな。
別れを告げて2人と一匹を伴い街を出る。
双子を先頭に街道を歩いて行く。オリちゃんは自分で飛んだり、マリルの頭の上に乗っかったりと楽しそうだ。
道中魔物に襲われ事もなく順調に目的の場所付近に辿り着いた。
万が一誰かに見られることのない様、少しだけ街道から逸れて草むらの中に入って行く。
『いつでも良いわよ』
「──準備はいいか?」
「まだ信じてないけど良いぜ」
「ドキドキします」
『じゃあ頼む』
ミネルヴァに転送を頼む。
俺たちの足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから溢れる光が身体を包んでいく。
「お!?スゲエ」「スゴイ…こんな魔法…」「ピュイ!」
そう言い終わる頃、光が身体を完全に包み込み、一瞬の浮遊感と共に俺たちは神界へと転送された。
身体を包んでいた光がおさまり、ゆっくりと目を開くと目の前には先程の草むらとは全く違う景色が広がっていた。
──帰ってきたか。そう安堵する。
「お帰りなさい久我。そしてはじめましてね、あなたがマリルであなたがリリル。で君がオリちゃんね、これからよろしくね」
……相変わらず見た目は抜群だなこの女神は。
双子と一匹が静かな事に気付き目をやると、あまりにも驚いたのだろう――開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ――2人は目を見開き口を大きく開いたまま固まって動かないでいた。