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仲間と仲魔

 

 ──ダメだ…俺が泣いちゃダメだ。でも涙が止まらない。


『グスッ…グスッ……ブーーッ』

『うわぁっ!?鼻かむなら念話切ってくれよ。てか泣いてるだけなら繋ぐなよ!』


 女神の意表をつく攻撃で俺は冷静になれた。




「――大した事言えないけど、頑張ったな」


 そう言うと双子は大粒の涙を流して泣いた。


 ──あんな凶悪な魔法が使えてもまだまだ子供なんだ。親に捨てられたのならコレが普通なんだ。兄妹で力を合わせて必死に生きてきたんだ。

 心が緩んだ時くらい我慢せず泣いたらいい。泣いて泣いて、そして泣きやんだらまた笑えばいいんだ…


 リリルはスライムを抱きしめ顔を埋めて泣いた。

 マリルは右手で目を隠す様に泣いた。


 そして2人は泣き疲れたのかそのまま俺の部屋で寝てしまっていた。


 ──そりゃ昼も大変だったから疲れてるだろうしなぁ。このまま寝かせてやるか。俺が向こうの部屋で寝ればいいんだから。


 ――しかしこの2人…寝姿まで瓜二つだ…泣き疲れて眠るその寝顔は年相応の子供のソレだった。


 2人を起こさない様に静かに席を立つ。スライムに後は頼んだぞと声を掛け、小さく鳴くスライムを見届けた後、そっとドアを開け隣の双子の部屋に向かう。


 メルシーが用意してくれた双子の部屋に入りドアを閉め鍵を掛ける。そしてそのままドアに背を預けて膝から崩れる。


 ──どんな想いを抱えて双子は旅を続けてきたんだろう?故郷の森を追われ帰る家を失い、たった2人で…

 俺があの歳で同じ状況になったら、とてもじゃないが生きていく自身はない。

 それなのにあの双子はスレる事なく子供のままで、1年も旅をしてきたんだ…どんだけ大変だったかなんて想像に難くない。


『…辛いわね』


 ふいに話しかけきたミネルヴァと今後について、夜中まで話し続けた俺は、その後もなかなか眠りにつく事が出来なかった。



 ――――――――



 ガバッと身体を起こし、いつの間にか眠りについていた事に気付き慌てて身支度を整える。


 双子の部屋を足早に出て、双子が寝ている筈の自室のドアをノックする。


 ――コンコン


 ――コンコンコン


 ――返事がない。妙な胸騒ぎがして、開けるぞ!と声をかけながら自室に入る。


 ──!!部屋の中を見渡しても双子の姿がない。それどころかスライムすらいない。

 あるのはスライムが入っていた小さな檻だけだ。


「──アイツら!チッ」


 胸騒ぎが的中して、俺は廊下へ飛び出す。


 また旅に出てしまったのか、スライムを逃がすために外に出ただけなのかは分からない。

 だがそんな事はどうでもいい──早く後を追わなければ!


 転げ落ちる様に階段を下り宿を飛び出す。

 宿の前を掃除していたメルシーに軽く挨拶だけして、俺は町の出入り口に向かって走る。メルシーが何か言いたげだったが、今はそれどころじゃない。


 女神の祝福により数倍に跳ね上げられた運動能力をフルに使い全力で走る。

 まるで風の様に町の門をくぐり抜け街道へと飛び出した。

 疾走しながらも門兵が驚いて飛び上がったのを横目で確認する。


 ──まだ近くに居てくれよ。そう願いながらもスピードは緩めない。


 ──どこだ!?俺はお前達に話したい事がまだあるんだ!


「──いない!」

 少しスピードを緩め、女神に頼る。

『ミネルヴァ!起きたら双子が居ない!!どこら辺にいるかわかるか!?』


 その問いに女神は笑いを堪えた様な声で、

『…ご飯食べてるわよ…クク…』


 ──ん?今なんて言ったんだ!?


『だからご飯食べてるわよ。トビウオ亭で!──プッ…もう無理!キャハハハハ』


 全力でブレーキをかけその場に止まる。

 ──飯食ってる…だと…!?


『あ〜お腹痛い!あの子達目を覚ましたら、久我がいない事に気付いたんだけど、気にせずそのまま朝食食べにダイニングに向かったのよ。は〜苦しい…アンタ女神を笑い死にさせる気!?』


 居なくなったワケじゃなくて良かったと安堵して身体から力が抜けるのを感じると共に、ミネルヴァへの怒りで体中が熱く力が戻るのを感じる。


『──なぜ教えない!?』


『だって凄い勢いで飛び出してくから、タイミング逃しちゃって…だいたい宿屋の娘も何か言いたそうにしてたでしょ!?』


 ――言われてみればそうだった気がしないでもない…


『早く戻ってあげなさい。久我が起きてくるの待ってるわよ』


『バーーーカ!!』

『ちょ──』ブツッ


 やり場のない怒りを子供の様な一言で女神にぶつけ、

 踵を返してさっきまでより遅いスピードで街に戻る。


 風の様に飛び出していった男が顔を真っ赤にしながら戻って来たのを門兵は何事かと目を丸くしていた。


 トビウオ亭に戻るとメルシーが駆け寄ってきて口を開こうとする。それを、手と顔の表情でわかってるよ──大丈夫と口を開かせない。

 少し可哀想な気がするが、会話をすると恥ずかし過ぎて悶死してしまいそうだから仕方ない。


 そのままダイニングに入る――


「やっと来たか兄ちゃん。いつまで寝てんだよ!?」

「クガさん、おはようございます」


 ――何があったか、俺の気持ちなど知りもしない双子が食事を摂りながら口を開く。

 ──よく見るとスライムもいるじゃないか。リリルの膝の上で食事を分けて貰っている様だ。


「ピュイッ」


 人の気持ちも知らないでこいつらは…

 でも旅立っていたのじゃなくて良かったかと、諦めながら俺も席に着いた。


「オマエらなぁ…部屋に居なかったから焦ったぞ」


 食事の手を止めない双子に愚痴る。


「俺たちだって起きたら兄ちゃんいないからビックリしたんだぜ?なぁリリル」

「――はい。それでもしかしたら私達の部屋で寝てるのかと思って部屋をノックしたんですけど返事がなくて…」

「そうそう。でドア鍵掛かってたから、スペアの鍵借りようと下りて来たらスゲエいい匂いしてさ」

「それで宿屋の娘さんにクガさんに言伝を頼んで、食事をしながら待ってたんです」


 ――あ、だからメルシーは…俺の早とちりだったわけね…


『ぷっ』

 ブツッ。刹那で念話を終わらせる。


「まあ、何もなくて良かったよ」


 運ばれてきた食事に手をつけながら、俺はホッと一息ついていた。


「リリルと話してたんだけど、飯を食い終わったらコイツ逃しに行ってみようかってなったんだけど…」

「だから町の外に行っても良いですか?」


「ピュイィ」

 少し寂しそうな声で羽付きスライムは鳴いた。


「お前達がそれで良いなら俺は構わないよ」


「じゃあ決まりな!」


 俺たちはそう決め食事を続けた。



 ――リリルもマリルも食べ終わったな。


「そろそろ行くぞ」


 2人を促し宿を出る。羽付きピンクスライムはリリルに抱き抱えられたままだ。


 ぞろぞろと町の出口に向かって歩いて行く。


 門兵がニヤニヤしてる気がするけど、気のせいだろう。


 街を出て日の当たる街道を街を背にして少し歩く。程なくして草むらと林の境の様な場所に着いた。


 ──ここなら見た感じ魔物も少なそうだし、逃がしてやっても大丈夫だろう。


「ここら辺で大丈夫じゃないか?2人ともそれでいいか?」


 その言葉を少し逡巡した様子で

「…はい」

 リリルは小さく答える。


「俺は昨日言ったけど、コイツの自由にさせてやりたい」

 マリルは力強く答えた。


 2人はしばしの間スライムと戯れた後、決心した様に俺を見て頷いた。俺も軽く頷いて返事をする。

 ――ほんの少し一緒に居ただけなのに情がわいているのだろう…2人は少しだけ涙目だ。


「さ…お行き…」

「…」

 そう言ってリリルとマリルはスライムから距離をとる。


「ピュー…」


 コッチを見ながら寂しそうに鳴くスライムは中々その場を離れない。


 風が吹き抜け草を揺らす。長い沈黙の中──、時間だけが過ぎていく…


「行っていいんだぞ!もう好きに生きていいんだ!行けよ!」


 その場を動かないスライムにマリルが叫ぶ。

 リリルを見るとリリルは大粒の涙を流していた。


「ピューイ!ピィピィピィ!」


 スライムは意を決した様に羽をパタパタ動かしながら飛び立った。そして数メートル飛んだところでクルッと反転すると、双子に向かいスピードを上げて飛び込んで行った。


「ピーッ!」


 一緒に居たい!一緒にいさせててくれと言わんばかりに2人に飛び込んだスライムを、双子はわんわんと泣きながら抱きしめていた。


 ──アカン。涙で前が見えねぇ。俺も情がうつっていたのか…


『グス…良かった…良かったよ〜…』

 またアンタも泣くんかい。


「兄ちゃん、コイツが一緒に居たいって!逃がさなくて良いだろ!?」

「お願いします!」


 ――そりゃ助けたいって言い出したのマリルだし、リリルも一緒に居たいなら構わないけどさ…


「ちゃんと2人で責任持って世話するんだぞ」


『母親みたいね』ブツッ

 今度は一言だけ言って一方的に切られた。


「ありがと兄ちゃん!やっぱ良い人だな」

「ありがとうございます。一生懸命世話します!」


 うんうん、この双子は笑ってた方がやっぱり可愛いな。


 そうして羽付きピンクスライムはリリルとマリルのペット?として同行する事になった。

 街への帰り道、2人はスライムの名前をどうするかで大いに盛り上がっていた。


 町に着く頃には昼に差し掛かっていた。

 門を通り抜け昼飯を食べるために適当な店に入って席に着き適当に注文する。


「で、名前は決まったのか?」


 マリルはニカッと笑うと、

「決まったよ!出会った時檻に入れられてたからオリちゃんだ!」

「羽が生えてるからハネちゃんと悩んだんですけど…

 」

「ピーーーッ!」


 ――いや、お前らのネーミングセンスどうなってんの!?魔法の名前といいさぁ。そしてスライムよ…なんでそんな名前気に入って飛び跳ねてんの?


「…お前らがいいならそれで良いけど、他になかったのか?」


「いいんだよ。オリちゃんも喜んでんだから」


 もう何も言うまい。俺は運ばれてきた料理を黙々と口に運んだ。


「なぁ兄ちゃん…朝リリルと話して決めたんだけど、俺たち兄ちゃんに着いて行っちゃダメか?」


 リリルは下を向いたままだ。


「2人一緒にいなきゃ魔法も使えないけど、頑張って兄ちゃんの力になれる様に強くなるから…」


 マリルの覚悟が伝わってくる。その瞳は力強く俺を捉える。


 ──ボードゲームの指示の[パートナーを得よ]ってのを普通に考えたら、相棒を得よなんだろうけど確かパートナーて仲間って意味もあったよな。

 ぶっちゃけボードゲーム関係なしに双子を誘うつもりだったから、俺としたら願ったり叶ったりだ。


「――俺からも誘おうと思ってたんだ」

 この事は昨日の夜話してミネルヴァも了承済みだ。


 2人の顔がパッと明るくなる。


「ただ──俺は普通の冒険者じゃないんだ…今は説明出来ないけど、俺と一緒に来る…それは普通の人生を捨てる事になるかもだぞ?それでも良いのか?」


 2人は顔を見合わせて押し黙った。オリちゃんがそんな2人の顔を交互に見る。


『空気の読めるスライムね』


 不意に話し掛けて来たミネルヴァに指示を達成した場合、俺は神界に一度戻るわけだが、2人はどうなるかを尋ねた。


『おそらく久我と一緒にコッチに転送されてくると思うわ。じゃないと次の転送先によっては離れ離れになっちゃうから』


 ――なるほど、言われてみればそうだな。


 黙ったまま考え込んでいた2人が顔を上げる。


「それでもいい!一緒に連れてってくれ!」

「構いません!一緒に行きます!」


 ほぼ同時に口を開いて真っ直ぐな意思をぶつけてくる。さすが双子だな…兄妹の絆に少し憧れる。

 日本人の俺には姉貴がいても絆なんてなかったからな。


「──わかった…お前達は今から俺の仲間だ。そして俺はお前達の兄貴だ。」


 その言葉に双子が安堵の溜息をついてから、諸手を上げて喜んだ。双子の周りをパタパタ飛び回るオリちゃんも嬉しそうだ。


「オリちゃんもいいんだよな!?」

「もちろん。オリちゃんは俺たちパーティーのマスコット兼、仲魔だ」

「ありがとうございます」


 昼食を終わらせ宿に戻り俺が何者なのか──何のためにアクルスにいたのか──2人に説明をする事にした。


『あら…ふふふ。やっと1つめ達成ね。』


 ボードゲームのマス目が淡く光り、指示を達成した事をミネルヴァに伝えていた事と、首にかかる星法器にほんの少量の赤紫色した控えめに光る雫が溜まっていた事をまだ知る由もなかった…

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